DNP Features 3 リップマン型ホログラム 世界初の製品化成功のビハインドストーリー

大日本印刷株式会社(以下DNP)のホログラム研究の第一人者、渡部壮周・ホログラム事業推進部長は、約20年前に味わったショックをいまだに忘れていない。

当時、DNPが他社に先行して量産技術の開発に成功していたリップマン型ホログラムの最新サンプルを、取締役をはじめとする上層部に報告する場でのことだった。渡部は、デザイナーや企画担当者とともに、「苦労して完成させた自信作」にスポットライトを当てながら説明を行った。

強いスポットライトの下ではホログラムの立体感や色の再現性など、申し分ない出来栄えに見えていたのだが、蛍光灯の下でサンプルを観察してもらうと、その暗さが問題視された。「もっと明るくならないのか」「スポットライトはもういいよ」などの厳しい声が相次ぎ、このままでは製品化は難しいとの判断が下された。

上層部はもちろん、意匠表現とセキュリティに優れるリップマン型ホログラムの世界初の製品化に期待を込めて発言したのだが、さすがに入社数年足らずの渡部にとっては衝撃的な出来事だった。

渡部はこの経験から「ホログラムの暗さの解決が生活者のニーズでもあり、この課題を解決しなければ売れるものにはならない」と悟り、研究に邁進することになる。

ホログラムの暗さを解消

渡部が取り組むことになった研究は、日常的な室内の光や外光の下でも鮮やかで明るく見えるリップマン型ホログラムを製品化することであり、これはそれまでどの競合企業も成功していなかった。数か月の試行錯誤の末、ホログラムの視域(viewing angle)を制御し、狭い領域に光を集めることで、より明るくできることを突き止めた。「レーザー光を2つに分け、再び合わせた際に現れる干渉縞の現れ方や、より狭い視域のデータを記録するための条件について検討しました」と、渡部は当時の研究を振り返る。

その結果、作り上げたのは鉄腕アトムのホログラムだ。明るいブルーの背景に、鮮やかな赤いブーツが眩しい。左の拳を突き上げたアトムは、蛍光灯の下でも光り輝いて見えた。もはや、上層部の社員にもホログラムの明るさに異議を唱えるものはいなかった。

渡部が開発したリップマン型ホログラムは、「トゥルーイマージュ®」という商標で1998年に発売された。これは、独自に確立した原版作成技術や接着技術を活かした世界初の量産型リップマンホログラム製品だった。

セキュリティ用ホログラムの技術進化

DNPのリップマン型ホログラムはその後も進化を続け、特にセキュリティの分野でその実力を発揮している。「DNPの強みはセキュリティ製品です」と渡部が語るように、偽造が極めて困難なリップマン型ホログラムは、この分野での競争優位性を保っている。リップマン型ホログラムを生産できる企業は世界でも数社しかない上、DNPが多くの関連特許を保有しており、材料の入手方法も限られているため、市場への新規参入が難しいからだ。

ここで、DNPが開発した画期的なリップマン型ホログラム製品を紹介しておこう。

  • 「セキュアイマージュ®」(2002年発売)。ホログラムのラベルを剥がそうとするとホログラム自体が壊れて認識できなくなるという偽造防止機能を有した、世界初のリップマン型ホログラム転写箔。
  • 「モーションイマージュ®」(2006年発売)。見る角度を変えていくと、2、3の絵柄が切り替わり、画像が動くように見える。
  • 「ライブイマージュ®」(2007年発売)。当事ソニーと共同開発したステレオグラム技術を利用し、CGや動画のデータを記録したホログラム。
  • 世界初(当時)のパスポート用透明リップマン型転写箔(2009年開発)。

その後もDNPのリップマン型ホログラムは進化を遂げ、クレジットカードや社員証などの偽造防止や、偽造防止などのブランドプロテクションといったさまざまな用途で使われている。

意匠性にも優れる

世の中に広く普及している虹色のエンボス型と比べ、色の鮮やかさが特徴のリップマン型のホログラムは製造コストが割高となるため、これまではデザイン性、意匠性を高めるためだけにリップマン型を採用する企業は少なかった。しかし近年、この動向にも変化が見られる。

一例を挙げると、DNPは、黒色のカード基材にリップマン型ホログラムを埋め込んだプレミアムICカードを2012年に開発し、九州カード株式会社が発行する「VISAプラチナカード」に採用された。高度なセキュリティ性能とともにデザインの独自性が評価され、「Visaベストカードデザイン賞」を受賞している。

年商50億円が目標

渡部は、DNPのホログラム研究で数々の実績を残してきたが、それについては控えめに淡々と語る。その表情が和らぐのは、話題が家族に及んだ時だ。特に3人の息子の話になると子煩悩な父親の顔になる。「趣味は子育て」という渡部は、週末には息子とサッカーに興じるなど、家族と過ごす時間を大切にしている。

「平日はホログラムのことばかり考えていますので、自由な時間では一切、ホログラムのことは考えない」と、上手にワーク・ライフバランスをとっているようだ。

もちろん仕事の際は、ホログラム技術部門の部長としてのストイックな顔に戻る。渡部の当面の目標は、DNPのホログラムを単体で年商50億円の事業に成長させることだ。「現在の印刷技術の中で、最もリアルな3D画像を表現できる技術」と自負するリップマン型ホログラム技術を、「産業用途などにも展開し、関連売上なども含めて、さらなる事業拡大を目指したい」と意気込みを語ってくれた。

  • * 公開日: 2016年11月30日
  • * トゥルーイマージュ、セキュアイマージュ、モーションイマージュ、ライブイマージュは、大日本印刷の登録商標です。
  • * 部署名や製品の仕様などの掲載内容は取材時のものです。予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。

関連ページ

製品・サービス

ニュースリリース