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プライバシーステートメント
地域づくりとアート
美のデジタルアーカイブ 新連載〈地域づくりとアート〉
全国各地の芸術系NPOをサポートする
「NPO法人アートNPOリンク」
影山幸一

 地域を、アートを起爆剤に活性化させる新しい潮流が生まれています。この流れは以前からもあったことですが、今全国で活動が盛んです。新連載では全国各地でユニークな活動を続けるアートの地域活性化事業を12回の連載でお伝えします。指定管理者制度など、美術館の運営が問われている現在ですが、美術館以外でアート作品が自立する場や、それらを支える組織運営など各地固有のホットな事例をとおして、アートと市民の間にある課題を発見し、何か問題があれば解決のためのヒントを見出すことができればと思います。文化施策、美術情報管理、そして作品と人を結ぶアートコネクションの取組みに注目しながら、各地周覧の取材レポートです。おつき合い下さい。

増えた見る場所とチャンス
 美術作品を鑑賞する場合あなたはどこへ行きますか? すぐに美術館と答えられる人はいるだろう。しかし、次の場所をなめらかに挙げられる人はかなりの美術愛好家だ。ギャラリー、公園、パブリックスペース、アートイベントそれだけでなく、さらに二次資料といえる画集、カタログ、ビデオ、DVDなどを図書館で熱心に見る人もいるだろう。またインターネットの画像などを自宅で楽しむと答える人もいるかもしれない。美術作品を見る場所とチャンスはメディアの発達によって増えてきた。しかし、にもかかわらず何かもの足りなさを感じるのは私だけだろうか。全国各地でアートをキーワードに地域振興事業が展開されている。何か面白そう。各地域の美術館を超えてクリエイティブな活性化事業を先導する組織もありそうだ。NPO(Non Profit Organization)など、市民力で活動しているところが目立つ。NPOとはどのようなものなのか。

NPOとは何か
 NPOとは、1998年に施行された特定非営利活動促進法が略称でNPO法と呼ばれているため、NPO法人格を取得した団体(特定非営利活動法人、通称NPO法人)と思われることが多いようだが、法人格をもたない任意団体や法人格の種類(NPO法人、社団法人、財団法人、社会福祉法人、協同組合など)を問わず、民間の立場で社会的なサービスを提供したり、社会問題を解決するために活動する団体を指している、とNPO法人日本NPOセンターのWebサイトに掲載されている。また「政府の支配に属さないこと」「利益があがっても構成員に分配しないで、団体の活動目的を達成するための費用に充てること」「社会に対して責任ある体制で継続的に存在する人の集まり」とある。利益を得て配当することを目的とする企業に対して、NPOは社会的な使命を達成することを目的とした組織なのだ。NPO法人の数は、2006年3月末までに26,395法人が認証を受け、そのうち「学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動」を定款に記載しているNPO法人は8,495団体ある。

拠点は京都
第1回全国アートNPOフォーラム in 神戸のリーフレット
第1回全国アートNPOフォーラム
in 神戸のリーフレット
 NPOは形態がひとつでないうえに活動分野が広範囲におよんでいる。美術・音楽・演劇・ダンスなど芸術分野に特化したNPOを芸術系NPO、あるいはアートNPOという。それらNPOが個々で完結するのではなく、地域・ジャンルを越えて連携しようという気運が創成期のNPOを経験した各地のNPOから生まれてきた。神戸アートビレッジセンターに一堂に集まったのが2003年10月12、13日。「第1回全国アートNPOフォーラム in 神戸」だった。法的整備の遅れや活動資金、人材の不足など、課題を言語化・共有化し、アートが現在の日本社会で果たす役割を再確認し、さらにNPO活動が活発化することによって与える将来の社会的影響や、アート界におけるNPOの役割をアピールした。盛況だった第1回に続いて2004年10月23、24日の「第2回全国アートNPOフォーラム in 札幌」、全国から200名以上の参加があった2005年11月5、6日の「第3回全国アートNPOフォーラム in 前橋」を経て、2006年1月20日全国のアートNPOのネットワーク組織として「NPO法人アートNPOリンク」(以下、アートNPOリンク)(理事長:佐東範一)が京都に設立された。
第3回全国アートNPOフォーラムin前橋の会場 第3回全国アートNPOフォーラムin前橋の会場
第3回全国アートNPOフォーラムin前橋の会場
アートとNPOの結びつき
アートNPOリンクの樋口貞幸氏
アートNPOリンクの樋口貞幸氏
 アートNPOリンク事務局代表を務め、「第1回全国アートNPOフォーラムin 神戸」の発起人の一人であり、アートNPOの状況を広く知る樋口貞幸氏(以下、樋口氏)に全国のアートNPOの現状とアートNPOリンクの今後の展開などを伺うため京都を訪ねた。アートとボランティアをつなぐボランティアコーディネート組織 ARTS STAFF NETWORKの代表でもある樋口氏は、大学時代に京都で日本画を描いていたそうだ。またトヨタ・アートマネジメント講座(TAM)の卒業生でもあり、アートと社会を結ぶ必要性を感じていたようだ。そして時が流れ気が付けば常勤1名・非常勤1名のアートNPOリンクで、企画書や議事録作成など、多忙の日々である。“アートは社会革命だ”というアート側と、“NPOは市民革命だ”というNPO側、双方の主張が結びついて“アートNPO”が生まれるのは当然だと樋口氏は言う。アートNPOリンクの目的は、アートの力を広く社会にアピールしていくとともに、芸術文化を活動の核とするNPOの基盤整備、社会的ポジションの確立、政策提言を行ない、アートNPOの活性化に寄与することである。アートNPOの人材とは、一過性のイベンターではない。やる気と資質が必要だと言う。そのためにもやりたい人が継続できるようにする基盤作りがアートNPOリンクのミッションのひとつとなっている。2006年初年度の見込み収入は未定であるが1,000万円ほど。事業費と会員40数組の会費と寄付が見込まれている。社内印刷など非資金的協賛の提供もあるようだ。活動の記録は写真・ビデオのほか、フォーラムなどはテープ起こし後にテキスト化され、議事録、事業報告書、決算書、Webサイトなどに記載するものもある。アートということで目新しさを求められるが、目立たなくとも質の高い活動を忘れないようにしたい、と活力ある29歳の樋口氏は言う。

日本のアートNPOと世界のアートNPO
 アートNPO法人は地域によって多寡の偏りがあるようだ。理由は明らかでないが愛知県に少なく、三重県や岐阜県は人口比率の割りには多いと樋口氏は言う。1999年に設立した北海道の「ふらの演劇工房」がNPO法人の第1号。また日本のNPOは米国型と樋口氏。法律や税制度によって日本のNPOとは異なるアート支援の組織形態があるヨーロッパなどが今後のNPOを考えるうえで参考になるらしい。2006年6月11日(日)樋口氏は、「文化経済学会〈日本〉」で行なわれる「アートが地域資源を発掘する〜アートによる創造的地域づくり〜」でEU各国の創造都市視察報告をする。急激なグローバル化による地域衰退や市民活力の喪失に果たすアートの役割、アートと創造的都市の関係についてなどを発表することになっている。10年後のビジョンとミッションがあって動くという、単年度予算の企画に納まらない長い期間の企画が今求められているのではないか、と海外との連携も考えながら「大人の遊び」を進めている。

アートは社会の課題を解決しない
 アート、なかでも音楽はクラッシックとコンテンポラリーが乖離しているように、同じ音楽というジャンルでも案外コミュニケーションが少ない。これは美術でも同様で、隣町のNPOの活動内容を何も知らないことがわかってきたと樋口氏が話す。アートNPOリンクは、各地のアートNPOにとっての情報センターであり、サポーターでもあるのだ。地域やジャンルを越えて、アートという共通項がつなぐ暗黙の信頼。また、樋口氏はアートが得意とするのは、地域に潜在する資源を顕在化させ活用するところであると言う。しかし、アートは社会の課題を解決しないとも。ただアートは混沌や課題といった非在を現前に見せてくれ、アートにしかできないことがあると、次のように語る。「アートのもつコミュニケーション能力、創造力、時代を先取る力は、次代をつくる新しい視点をもったコミュニティを産み出す。アートが多様性そのものであり、正解が存在せず、アイデンティティの脱構築を促すからにほかならない。解体されたアイデンティティは、アートによって生み出されたコミュニケーションによって再構築され、コミュニケーションとともに再解体される。コミュニケーションがアートによって誘発される。意識変革とコミュニケーションによって地域の魅力を創造する」と。

これからのアートNPOリンク
 美術館やギャラリーでの作品鑑賞も良いが、各地域特有の作品鑑賞も楽しい。京都に行くとたくさんの神社仏閣が美術館の役割も果たしており、訪ねて回る順序を計画できるのがいい。旅の中に鑑賞と観光が組み込まれて心が弾む。社寺とアートNPOとのいい関係も生まれるかもしれない。作品を鑑賞できる場所が増えることはいいことだ。アートNPOリンクの今後の事業としては、フォーラムの開催と全国アートNPOのリサーチ(社会学者などと一緒にヒアリング・情報収集・アンケートの予定)がメインになるようだ。また毎年9月に全国のアートNPO法人数をカウントしているというが、昨年の調査では1,420団体を数えた。実際には法人以外のアートNPOもあるので数はもっと多いだろう。加えてアートNPOのデータベースの充実。現在もWebサイトに少し掲載されているが、Webサイトのリニューアルを検討しており、より充実させたいと考えている。会員のWebサイトと連動させることや、会員へのサーバー提供、メーリングリストの活用、アートNPOのためのWebサイト・ブログ開設講座(井戸端会議と題した勉強会)などである。現在更新は一カ月に1回。5月22日には、樋口氏がアートディレクションを行なった「EU-日本創造都市交流2005」の視察報告書『アート戦略都市──EU日本のクリエイティブシティ』が鹿島出版会から出版の予定である。アートとNPOのクールで親密な関係が深まることが楽しみだ。

■NPO法人アートNPOリンク基礎データ
名称:特定非営利活動法人アートNPOリンク(英文名はARTS NPO LINK)
住所:〒604-8222 京都市中京区四条通室町西入ル上ル観音堂町466番地みやこ3F space000内
電話/FAX:075-231-8607
URL: http://arts-npo.org/
E-mail:anl@arts-npo.org
設立:2006年1月20日
理事長:佐東範一(NPO法人ジャパン・コンテポラリーダンス・ネットワーク)
理事:大谷燠(NPO法人DANCE BOX)、小見純一(前橋芸術週間)、甲斐賢治(NPO法人[remo]記録と表現とメディアのための組織)、加藤種男(財団法人アサヒビール芸術文化財団)、柴田 尚(NPO法人S-AIR)、清水永子(楽の会)、下田展久(NPO法人C.A.P.芸術と計画会議)、下山浩一(NPO法人コミュニティ−アート・ふなばし)、関本徹生(NPO法人国際芸術文化センター)、立木祥一郎(NPO法人harappa)、並河惠美子(NPO法人芸術資源開発機構ARDA)、吉本光宏(ニッセイ基礎研究所)
会員:正会員、サポート会員、学生会員
活動目的:アートが多様な価値を創造し、社会を動かす力を持つ社会的な存在であることの認識をもとに、アートの力を広く社会にアピールしていくとともに、芸術文化を活動の核とするNPOの基盤整備、社会的ポジションの確立、政策提言を行ない、アートNPOの活性化に寄与することを目的とする。
1.アートNPOの社会的ポジションを確立し、社会に向けて提言
2.アートNPOと他のセクターとのパートナーシップ
3.アートNPOに関する情報収集・発信・研究調査
4.アートNPOの基盤強化とマネジメントの確立
5.地域密着型のフォーラム開催と全国展開
活動内容:アートNPOフォーラムを全国で開催、セミナー・ワークショップの開催、Webサイトの運営、海外のアートNPOの情報紹介、他セクターにアートNPOを紹介・コーディネートする。

■参考文献
NPO公式ホームページWebサイト(http://www.npo-homepage.go.jp/index.html)2006.5.10
NPO法人アートNPOリンクWebサイト(http://arts-npo.org/)2006.5.10
NPO法人日本NPOセンターWebサイト(http://www.jnpoc.ne.jp/)2006.5.10
ネットTAM Webサイト リレーコラム第16回「アート、社会にありき/社会、アートにみたり〜アートマネジメントは過激にいこう♪〜NPO法人アートNPOリンク事務局 樋口貞幸」
http://www.nettam.jp/main/00home/column/16/index.html)2006.5.10
2006年5月
[ かげやま こういち ]
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掲載/影山幸一
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