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プライバシーステートメント
デジタルアーカイブ百景
「今も未来の過去」 デジタルアーカイブがつくる北海道
笠羽晴夫
 デジタルアーカイブと地域振興についてはこれまでも何度か触れてきた。それは地域の特色を意識し、定義して、そこから地域の魅力を情報発信しようという動き、そしてそれに寄与するミュージアム、そのデジタルアーカイブ、という文脈でいくつかの事例を紹介した。
 しかし、これから書いていこうとしているのはその逆で、デジタルアーカイブがむしろ今後時間をかけて「地域」の特色というものを作っていく、その兆候として見えてきたものを探り紹介しようというものである。必ずしも連続ではないが、何回か、いくつかの地域について試みたい。
 本当は地域すなわち都道府県ではないのであるが、ネット上で探るとなればなんらかのカテゴリは必要であり、ここはアートスケープの全国ミュージアムデータベースをもとにして探ってみる。まず今回は北海道。

 北海道について、多くの人は江戸時代に松前藩があったことを知っており、開国、明治維新などには函館が登場するものの、道全体としてのイメージは明治の開拓以降のものごと、事件などの積み重ねによるところが大きい。
 内外のそういう事情を意識しているからだろうか、また古くからの積み重ねが少ないと認識しているからだろうか、北海道におけるミュージアムのサイトにおいては、扱われる個人にしても地域にしても、その年譜などの記述が多い。
 一方、道がまとめて面倒をみているサイトも多く、体裁に共通性が見られるのは悪いことではないが、著作権がなくなっているものが多いにもかかわらず画像の提示が少ないのは、認識を新たにしてもよいのではないか(釧路、帯広、北方民族、三岸好太郎など)。
木田金次郎美術館
木田金次郎美術館
 年譜をもとにした例で典型的なのは「木田金次郎美術館」。木田金次郎(1893-1962)という北海道岩内に生まれ、有島武郎と交流し生涯にわたって岩内を描き続けた画家について丁寧に説明するとともに、その年譜に即して代表作を豊富にしかもある程度大きな画像で見ることができる(まだ死後50年経ってないが)。
 また小樽や函館は、札幌のような大都市ではないが、北海道発展の当初から独特の文化を育んできたせいもあるのか、またそのプライドからか、それらミュージアムの運営には気概が見られる。
 たとえば市立小樽文学館では、デジタルアーカイブの試行を開始したばかりであるが、館の背景などの説明、館長の意見など、館全体の姿勢がいい。また市立小樽美術館では、特に画像展示はないけれども、運営方針などにおいて、小樽のもの、道内のもの、および関連作品を集め、他の各館と協力して展示するという姿勢が、うかがわれる。館長の言葉にもそれは表われている。
 市立函館博物館においては、収蔵物、市内屋外文化財などの画像も豊富になっている。最後にたどり着くまでの深いツリー構造にもどかしいところはあるが、博物館だよりも掲載されており、館のなりたちについての説明も丁寧だ。文書などは表紙だけでなく今後中身も出していけるとよい。また画像にはより丁寧な解説がほしい。

市立小樽文学館 市立函館博物館
左:市立小樽文学館/右:市立函館博物館
 さて次に中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館を見てみよう。
 中原悌二郎(1888-1921)は寡作であるが、ここでは中原を中心にすえたうえで、この地ゆかりの彫刻家、中原に因んだ賞の記録などで、彫刻の保存・記録、その普及を目指していることが明確にわかる。中原の作品以外は著作権があるためか、市内屋外のものを除き画像公開はないが、時間経過とともに出てくるであろうことは館の姿勢から予想される。中原の生涯を綴った年譜で言及される作品の画像が適宜リンクされているのは良い。惜しむらくは画像が暗くコントラストが強すぎることである。
 「旭川を彫刻の街に」ということであるが、これはアーカイブの結果そうなるかもしれないということであって、本質的なものではないけれども、意気込みとしては面白い。

 地域ゆかりの画家としては没後まもない共和町小沢出身の西村計雄(1909-2000)がいる。西村計雄記念美術館では、この海外でも知られる画家の生涯と、渡仏前、渡仏後のいくつかの時期を解説しながら、代表作を数点ずつ提示している。画像はそんなに大きくはないが、解説されている特徴を理解するのに不足はない。没後それほど経ってないにもかかわらず、このサービスは評価されてよい。

北海道大学総合博物館
北海道大学総合博物館
 一方、北海道開拓プロセスの全体像にかかわるものとしては、北海道開拓記念館北海道大学総合博物館などをあげることができる。前者は札幌近郊の「北海道開拓の村」のなかにある。ここのサイトには収蔵資料検索機能があり、画像の提供も一部あるが、キーワードがわからないと見るのは困難であって、やはりここでもいくつか基本的なガイドがほしい。
 後者の構想、その端緒は古く、小規模ながら続いていたのを本格化したもので、中心となる収蔵物から見ると自然史博物館のカテゴリに入ると考えられる。その沿革、館長の話などから意気込みが伝わってくるが、これは道内の他ミュージアムの姿勢また連載第9回で言及した同大学のHUSCUPなどとも呼応しており、ここにある「今も未来の過去」という考え方から、この百数十年の蓄積がいずれ効力を示すものと期待される。道外他の地方の古きよき文化も重要ではあるが、参照の必要性ということからすれば北海道に関するこのくらいの過去の重要性は論をまたない。
 むしろこのあたりに、北海道におけるデジタルアーカイブの優れたところが今後見られるかもしれない。リーダー的な存在であるいくつかのミュージアム、大学の活動については、このような試みのこれからに、ここで評価したような志の継続を望みたい。
2007年1月
[ かさば はるお ]
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掲載/笠羽晴夫
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