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プライバシーステートメント
デジタルアーカイブ百景
青森──今の熱さをアーカイブ
笠羽晴夫
 現実にいまそこにあるものの画像をデジタル化し公開するということに関して、技術的な、またコストのハードルは年々低くなってきている。しかし全国各地域のミュージアム特に美術館においては、比較的新しく、著作権が存在している収蔵物が多いこともあって、その公開度合いはあまり高くない。それではそこにデジタルアーカイブを考える余地はないのか、デジタルアーカイブは役立たないのか、というとそうでもないのである。
 今月再び北へもどって青森をみてみよう。青森といえばなんといっても話題になるのは2006年7月に開館した青森県立美術館である。
 ここでは、開館からこれまでの展示会活動のアーカイブを見ることができる。そして早くからブログが立ち上げられていることは、この館を立ち上げ活性化させていく活動を継続するうえでプラスに働くだろう。参加意識が高まるばかりでなく、その「ログ」は途中から参加した人たち、これから参加を考えている人たちにも役立つ。
青森県立美術館
 コレクションに関しては、画像による紹介はわずかだが、その方針、対象範囲、作家などについて明確・詳細に記述されており、著作権など今はやむをえない事情があるにしても、このように最小限の画像を含んだ展示会資料を継続してウェブサイトに残しておけば、以前にも述べたように一般の検索エンジンによるヒット確率は高くなる。また国立国会図書館のWARPやインターネットアーカイブ(米)によってアーカイブされることにもなるだろう。
 全体に設立の趣旨、建築、収集方針などの記述も、開館前からこのウェブサイトが仮想でなく現実に館の入り口であるかのような意識でなされており、またこの作業全体にアートセンスが強く出ている。これはこの時代に建設されオープンしたものだからとはいえ、他のところも見習ってよい。
鹿児島市立美術館
国際芸術センター青森
 次に国際芸術センター青森に行ってみよう。
 地域の人々とのかかわりを重視した現代美術のミュージアムで、その活動についての情報発信と記録をウェブサイト上で丁寧に行なっている。現代美術においては、インスタレーションをはじめ、静的な絵画・彫刻などとは異なるものも扱うことから、このように記録を残していくことについては、今後その意義が明らかになるだろう。
 以上、この二つのように開館の当初からこのような記録を始めると、習慣がついて良いのではないだろうか。
 それでは一方、地域を記録するという観点からはどうか。ここで中泊町博物館を例にとってみる。
 中泊町は津軽平野の中心に位置する町で、太宰治生誕の金木から近い。町の博物館として充実した活動をしており、そのログ(記録)がこのウェブサイトに集積されているので、まだ画像は少ないがいずれ充実するだろうと期待を抱かせる。館ができたのは比較的新しく、そのためかこのような記述や記録はほとんどボーンデジタル(作られた時からデジタル)と考えられ、それだからこのようにログが自然にあるのかとも考えられるが、ひとつの参考になる形態である。
 青森県を語るには近代の文学を省くわけにはいかない、ということから青森県近代文学館の活動には力が入っている。
 青森を代表する作家中心の常設展を反映し、13人についてその生涯、ゆかりの場所、代表作、関連人物、キーワード、資料紹介などの項目で解説がされている。解説文の一つひとつに関連する写真が一枚添えられており、これは展示の反映かと考えられる。収蔵項目全体の検索はないので、コレクションとしての全貌はわからない。解説によるとこのほか32人のゆかりの作家をジャンルごとで紹介しており、また展示室のPCからは約250人の県出身やゆかりの作家の詳しい情報を検索できるそうだ。美術においても県ごとにこのようなサービスが提供されることが望ましい。
 ここの情報発信は、青森の自然と作家の関係を意識したいい意味での自慢だろうか。1994年の開館以来、これらの作家一人ずつをまとめた企画展を行ないながらそれを整備してきたものと考えられる。これも展覧会の記録活用事例のひとつであろう。また作家の業績、作品、分野、地域などをテーマとした15分程度のDVDが34作成されており、館内で見ることができるそうで、今後これらのネット公開とさまざまな活用も期待される。
 青森県内の地域性ということからは、津軽、南部の代表として、弘前市立博物館八戸市博物館八戸市美術館代表的な作家の作品を集めた棟方志功記念館があるが、情報発信としてはまだこれからであり、先に述べた県内の動きが良い影響を与えることを期待する。
左:棟方志功記念館、右:弘前市立博物館
 再度まとめよう。
 デジタルアーカイブの立ち上げ方にはいろいろある。収蔵物に関するデータベースを構築しそれを公開する、というかたちばかりではない。ミュージアムをオープンする段階の記録をアーカイブしておくことも大変有効なことがわかってきている。とりわけ著作権がまだ存在しデータの公開許諾を取得できない、あるいはその形態から静止画像でも動画像でも記録しにくいなど、さまざまな困難がある場合、いわば2次的な情報でもアーカイブしておくことには意味がある。またそれは、地域によっては、人々がその地域をどう認識しどう活動したのかを物語る情報発信ともなりうる。
 すなわち、当初その対象と考えたもののデジタルアーカイブが不可能なときに、できるものだけ拾って記録しておくというのも、アーカイブのまたデジタルアーカイブの本質である。

2007年3月
[ かさば はるお ]
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掲載/笠羽晴夫
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