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プライバシーステートメント
デジタルアーカイブ百景
秋田は図書館から入ろう
笠羽晴夫
 秋田というところは、他のところから見ると、文化的にわかりやすいとはいえない地域である。したがってあらかじめなんらかのテーマを頭に入れて探してみるというよりは、フォーマルな施設を中心に、入ってみてから考えるということになる。
宮崎県総合博物館
秋田県立博物館
 そこでまず、秋田県立博物館を訪れると、ここでは通常の展示説明に終始している。子供向けとはいえ「秋田の先覚記念室」の説明でせっかくいろいろな角度からの先覚者一覧を見ることができるにもかかわらず、これらの人々に関しては写真もなく説明も数語程度である。子供達を含め今後のネット上での調査学習を考えると、より充実したサービスが望まれる。また菅江真澄資料センターが設けられ特別な扱いを受けているこの偉人についても、どういう人かの記述は乏しい。
 秋田県立近代美術館でもゆかりの画家などの作品約9点の画像(拡大可)が公開されているのみであり、目録の全貌も不明である。
秋田市立赤レンガ郷土館
秋田市立赤れんが郷土館
 そこで次に秋田市立赤れんが郷土館を見てみる。ここは歴史的建造物である赤れんが館、勝平得之記念館(勝平得之は版画家)、関谷四郎記念室(関谷四郎は鍛金家)などを中心に、秋田を物語る関連資料、秋田の工芸などを展示しているようで、それらの展示風景はここで手際よく見せているものの、データベース的なものは見えてこない。またここからは同じ市立の秋田市民俗芸能伝承館秋田市立佐竹史料館(佐竹氏は源氏の流れを汲む秋田藩主)に入っていけるが、ここでも事情は同じである。以上、これら施設の概要をわかりやすく見せ、最低限の事前学習には足りるものとなっている。もうひとつ踏み込んでデジタルアーカイブが始まることを期待したい。
秋田市立千秋美術館・岡田謙三記念館
秋田市立千秋美術館
岡田謙三記念館
 秋田市立千秋美術館・岡田謙三記念館では、「主な収蔵品」で日本画、洋画、写真、岡田謙三というカテゴリ別にどんなものがあるか、の紹介をサムネイルで見ることができる。当時のポスター、チラシで過去の展覧会が紹介されているのはよい。収蔵品検索は、通常の詳細検索のほかに、種別、作家名一覧からも可能で、これは親切である。死後50年未満で公開されているものもある。大きさは名刺大程度だが、こういうものだと認識するのには充分である。
仙北市角館樺細工伝承館
仙北市角館樺細工伝承館
 県内他の自治体では、田沢湖、角館などの合併で出来た仙北市の公共施設として、仙北市角館樺細工伝承館仙北市立角館町平福記念美術館新潮社記念文学館がある(所在はいずれも角館町)。特に画像の公開というほどものはないが、いずれも地域資産が豊富な角館のものであるだけに、今後のデジタルアーカイブ化が期待される。
秋田県立図書館
秋田県立図書館
 こういう風に見ていくと、秋田県についてはネット上のデジタルアーカイブで見るべきものがほとんどないということになるが、幸いにもそうではない。ここには秋田県立図書館があるからだ。
 ここではまず通常の図書館業務で非常に前向きな姿勢がうかがえる。
 そして「デジタルライブラリー」では、「秋田県立図書館所蔵貴重資料」「郷土雑誌の紹介」「秋田県内機関貴重資料」「名勝案内による秋田の昔の旅」「秋田県の民話(音声付)」「秋田県のお祭り」「秋田の人と本の紹介」という区分で、豊富な資料を見ることができる。画像としてはJPEGおよびJPEG2000の2種類が提供されている。
 「秋田県立図書館所蔵貴重資料」には、箱根七湯集、貴ふ祢(奈良絵本)、解体新書、蝦夷拾遺 附言、蟲譜圖説、本草図譜、長崎版画など、興味深いものが公開されている。なかでも「菅江真澄遊覧記」は19世紀はじめの秋田を記録したものとして定評があり、豊富な図譜が圧巻だ。「秋田県内機関貴重資料」では「ART MUSEUM of 湯沢っ子」が面白くかつ貴重なもので、これは湯沢東小学校にあった明治45年から昭和39年までの児童の作品であり、ここではその一部をみることができる。「名勝案内による秋田の昔の旅」は文字通り昔の観光案内資料であり往時の地域の姿を示す資料である。「秋田県の民話(音声付)」では11人の語り部によるそれぞれ約10編の音声を聴くことができる。「秋田県のお祭り」では14の祭りが採録されており、動画で見ることができる。
 秋田県立図書館は1899(明治32)年開館で、1975(昭和50)年開館の秋田県立博物館に大きく先立っている。したがって県の博物資料も長い間ここで収蔵していた。1993(平成5)年の新館オープンにともない、博物資料は博物館へ、また秋田県の公文書は秋田県公文書館へ移管されたが、貴重な資料を継続して多数収蔵していることにかわりはない。
 このような経緯は、資料のアーカイブと公開に関しては幸運だったかもしれない。なぜなら元来図書館は、ユーザーに検索、閲覧、貸し出し、コピーなどのサービスを提供するところであり、そうした性格はこのデジタルアーカイブが早期にできたこと、その後の運用にも見ることができる。もちろん多くの図書館のなかで、ここの見識に先見性があったことは言うまでもないし、その先達の仕事はこの世界で有名である。
 各地の「地域を語るもの」は何かということでは、図書館から入ってみるのもひとつの方法かもしれない。
2007年6月
[ かさば はるお ]
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掲載/笠羽晴夫
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