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デジタルアーカイブ百景
山形県──持っていることをどう活かすか
笠羽 晴夫
 県という単位が地域の特色を見ていくうえで大きすぎるということはこれまでも直感的に理解しており、どちらかといえば江戸時代の藩の単位に地域の色が濃く出ているということはよくある。今回の山形県についても、県政で庄内(酒田市、鶴岡市など)、最上(新庄市など)、村山(山形市、村山市、天童市など)、置賜(米沢市など)の四総合支庁があり、天気予報も分かれているが、文化についても、違いがあるようだ。
 そう考えてみると、アートスケープにあるミュージアムのリストにしたがってWebサイトを探訪していても、何かまとまった感触がつかめないのは、自然なのかもしれない。それに一つひとつのミュージアムが必ずしもその地域を語らなくてもいい、収蔵しているものを見ることができれば、それらについてこちらが何か思いを馳せればよいではないかという考えも成り立つわけである。

平塚市美術館
本間美術館
 さてそうなればまず酒田市の本間美術館を見たくなる。酒田の経済力を物語るものであろうか、コレクションは充実しているようだ。
  この館の特色である建築、庭園について丁寧な解説があり、また国の文化財、県の文化財、市の文化財、近現代、雛人形・古典人形など、サムネイルに近い大きさで、数点ずつではあるが、全体をバランスよく紹介している。入り口のガイドとしてはよいのだが、これだけのものがあれば、本格的なデータベース化とその公開(画像拡大も含め)が望まれる。特にわが国近代の特異な画家である小野幸吉(1909-30)についてはここ以外にあまり情報がないわけで、ここに来ればどんなものを見ることができるのかがわかるとよい。折りしも今年(2007年)11月14日〜12月24日には小野幸吉展が開催されることがトップページで報じられており、小野に影響を与えた村山槐多、関根正二とともにまとまったものが見られるようだ。つまりこの画家に興味があれば常にこの館をウォッチすべきということなのだ。
 一方、酒田市美術館を見てみると、こちらはより現代の洋画家中心のコレクションである。特にそのなかの6人それぞれについて解説とサムネイルよりは大きい画像数点がある。ゆかりの画家ではあるが特に地域性は感じられない。そうは言ってもそれは外の人が言うことであって、この地の人から見れば違うのかもしれない。
平塚市美術館原精一データベース
米沢市上杉博物館
  一方、置賜では米沢市上杉博物館が代表的なものと思われる。
 ここには国宝の《上杉本洛中洛外図屏風》があるけれども、これについては多少の解説とサムネイルともいえないすなわちどんな屏風か分かるようなものではない小さな画像があるのみである。その一方で画像の貸出利用についての規定が出ているいうのも変である。集客という点からも、ネットの利用をもっと考えてしかるべきではないか。
 村山地域の天童市には、天童市美術館広重美術館がある。
 天童市美術館はその周辺の画家、寄贈品を収蔵、これらのうち12点について、サムネイルより少し大きい画像数点を出している。ゆかりの画家といっても特に地域性は感じられない。
 広重美術館では、広重、浮世絵、天童と広重の関係について丁寧に解説しているけれども、画像は葉書大が4枚というのは残念である。保存の観点から実物の展示が1点あたり1年に1カ月というのだから、今後は画像がもっと公開され、個別展示計画が予告されることを望みたい。
 山形市は村山地域にある。ここで山形県全般を対象に先ず山形県立博物館を見てみるが、これは簡単なパンフレットの域を出ない。
平塚市美術館原精一データベース
山形大学附属博物館
  これに対し山形大学附属博物館は、歴史・考古、民俗、美術、動・植物、地学・地理、古文書資料という分類をもとに、代表的なものの画像(サムネイルより少し大きい)と解説を見ることができる。博物館の概要としてはよくできている。なかでも興味深いのは、《鮭図》などの作者ゆえに美術に分類されている高橋由一(1828-94)の《山形県庁之図》(1885[明治18])である。山形県初代県令は有名な三島通庸で、道路建設などの新事業をすすめ、これを記録するため高橋由一に画帖の制作を依頼した。その後三島の転任に従って福島県、栃木県と東京にいたる縦貫道路開発が行なわれ、由一も福島、栃木の工事を写生したとのことで、山形とこれらをあわせた3県分の画帖がここにある。由一についてのこういう話がわかるだけでも面白いとはいえ、そうであれば、是非とも全容の公開が望まれる。
平塚市美術館原精一データベース
紅花の歴史博物館
 また山形大学には、その図書館に紅花関係資料を集めた「紅花の歴史文化館」という珍しいものがある。
 山形美術館では、収蔵作品を、日本美術、郷土関係(高橋由一《鮭図》など)、フランス近代絵画に区分している。公開は主要なものにとどまっているが、拡大を予定しているようであり、期待したい。
 残念ながら最上地域には目立ったものがない。こうやって見てみると、どうやったら地域を語れるかを考えあぐねるよりは、持っているもの、特に豊富なものを、出してしまうことの方が重要ではないだろうか。

2007年8月
[ かさば はるお ]
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掲載/笠羽晴夫
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