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プライバシーステートメント
デジタルアーカイブ百景
アーカイブで評価するグラフィックデザイン
笠羽 晴夫
 
『荒野のグラフィズム:粟津潔』(フィルムアート社、2007)
『荒野のグラフィズム:粟津潔』
(フィルムアート社、2007)
今回はデジタルに限らず、アーカイブというものとクリエイターに対する評価との関係について考えてみたい。特にグラフィックデザインの分野を取り上げてみよう。
 1月に金沢に行く機会があり、「荒野のグラフィズム:粟津潔展」(金沢21世紀美術館)を見ることが出来た。この展覧会についてはここアートスケープでも詳しく報じられている(学芸員レポート07年11月)。本稿が掲載されるころには会期残り少ないのが残念ではあるのだが。
 さて、この美術館に寄贈されたものの大半となる1500点以上を2時間くらいかけ一気に見てわかったことは、一人のグラフィックデザイナーについてこちらの頭のなかで何かがまとまるには、相当多くのものを見る必要があるということであった。思い出すと、横尾忠則、田中一光をまとめてみたときにも同じ感触があったようだ。
 考えてみれば、通常は一点一点に注文主がおり、それに応じて作る部分がほとんどなわけである。例えば本の装丁とかポスターなどでは、作者が描きたいから描くという部分は必ずしも多くない。
 それでもこの粟津潔展を見ると、そういった多くの機会を通して作家がいくつかのテーマで色、形、タッチ、テーマ、コンセプトなどを繰り返し追求していることがわかる。また粟津のデザインの背景には、甲骨文字を多くなぞることによって体得したものがあるらしいのだが、こうしてたくさんの習字を一挙に見ればそれも理解しやすい。そのうえ、これらの文字とデザインの関連が直感で理解できる作品も展示されている。
 今回こうして多くのものがまとまった。それはいずれデジタルアーカイブにもなるであろう。上記のようなコンセプトが早くからあれば、グラフィックデザインという分野では、原画の収集・保存過程における網羅性は容易なものではない一方で、一つひとつのコピーを集めておくことは物理的にはそんなに難しくない。そういうことを組織的にやるところがあってもよいのではないだろうか。また多くの作品をこのように一堂に集め「公開」するということは、アーカイブの「形成」、その「保存」ということに寄与するとも考えられる。

第260回企画展「グラフィックデザインの時代を築いた20人の証言 Interviews by 柏木博」(ggg)
第260回企画展
「グラフィックデザインの時代を築いた
20人の証言 Interviews by 柏木博」
(ggg)
 その一方で、もう終わってしまったが、当サイトでも告知されていたggg(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)開催(2月6日〜2月29日)の第260回企画展「グラフィックデザインの時代を築いた20人の証言 Interviews by 柏木博」では、戦後のグラフィックデザイン興隆期に登場活躍した20人のアーティストについて、柏木博氏が行なった各40分のインタヴューが一挙に20の小ブースで展示上映された。これを全部見るのは大変なことだが、20のモニターが並んでいるところを回遊しただけで、知らなかったクリエーターの発見があり、誰と誰を次にじっくり見ようということは頭に浮かんでくる。そしてこうして並んでいることが、各人の位置を際立たせる効果を持っている。またこれらのインタヴューは、個人のアーカイブへの入り口としてたいへん適切なものである。
 実際には、一つの大きな画面で見ることが出来る時間帯の表を検討しても、容易に予定がたたないことがわかり、1回だけであきらめたが、これは当然まとめて残されるべきものだろう。
 そうであれば、理想的には権利関係がクリアされDVDなどパッケージで販売されて、学校の図書館などで閲覧可能になることが望ましい。そこまでいかなくても、都内でいくつか、また主要地方都市のアート系教育機関があるところなどで、閲覧できるとよい。
 そうしてこれが、今後グラフィックデザインと接する企業の宣伝部門のひとたち、またもちろんクリエーターを志す若い人たちにオリエンテーションとモチベーション喚起の役割を果たし、結果としてわが国のグラフィックデザイン分野がますます充実したものとなることを願いたい。
 それはこの企画がインタヴュー集成として優れていることに加え、なによりこれほど素晴らしい20人がいたということの発見からくる願いである。
2008年3月
[かさば はるお]
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掲載/笠羽晴夫
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