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プライバシーステートメント
デジタルアーカイブ百景
沖縄アーカイブのために
笠羽 晴夫
 さていよいよ沖縄について書こうと思う。地域ごとに書き始めるにあたり、北海道の次は沖縄と思ったが、そのとき何か中心になるもの、それが豊富なアーカイブでなくてもよいが、そういうものがないことから見送った記憶がある。

沖縄県立博物館・美術館
沖縄県立博物館・美術館
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 昨年(2007年)11月1日に、沖縄県立博物館・美術館が開館した。
 古くからあった県立博物館のリニューアルに合わせて県立美術館を新設し、複合施設としたものである。美術館では、沖縄および沖縄ゆかりの作家の近現代美術とアジアの現代美術を作品収集の中心としている。それではここに入ってみよう。
 まず「博物館」である。常設展、企画展・特別展(過去のものを含む)について一通り見ることができるが、今の標準からすると簡潔すぎないだろうか。図書も併せて収蔵品検索は通常のデータベース検索となる。キーワードを入れられない場合、展示資料のレイアウト、分野から入っていくことになるが、まだ整備途上だからか、中身があるのは「民俗」分野のみといってよい。ここは10点ずつ20ページあり、拡大も可能であるが、解説は少ない。またこれだけの量になると、さらに細かい分類とその説明が欲しい。今後は全分野にわたるデータベースとなることは期待できるが、そうなるとなおさら今のような入り方ではとまどうばかりだろう。
 次に新しく加わった「美術館」を見る。ここの「作家紹介」は量も多い。絵画、彫刻、写真、映像、その他という分類で、多くの作家名が並んでいる。色分けされているものをクリックすると作家の肖像写真、略歴、大きくはないが代表作品の画像が数点表示される。著作権が存在しているケースが多いから、これらは許諾要請した結果であろう。しかし、許諾されていないからか、クリック不可能、従って略歴もわからず、ここにある作品名もわからない作家がかなり多く見受けられるのは残念である。
 ところで、こうやって多くの作家について、どういう作品がありどんな経歴なのかということが少しはわかるようになったことは喜ばしいが、美術が多少は好きな人でも県外の者は、どこから手をつけていいのか、迷ってしまうのが現状だろう。ここは沖縄美術論とでもいうべきガイドが欲しい。いろんな見方があるだろうから、それは複数でよく、むしろそれが望ましい。
 考えてみると、こうなったのは、現在沖縄にあるものだけで、その文化、美術を体系的に展示することが難しいからだろう。江戸時代、明治時代に多くの所在が本土に移ってしまった。また先の戦争での焼失などからしても、無理からぬことではある。
 そうなると、今後どうするか考えていく上で、データの準備作業に資するのがデジタルアーカイブそれも県外のものも含めて、と言えないだろうか。

 
東京国立博物館
東京国立博物館
そう考え、本土の中では多くのものを所蔵すると聞いている東京国立博物館とサントリー美術館を探ってみた。まず、東京国立博物館では、本館(日本ギャラリー)において、時代別、分野別に展示が見られるようであるが、特定の地域というくくりはないようだ。画像の名品ギャラリーでも日本の中の地域を細分してはいない。名品ギャラリーの検索機能を使ってみたが、ここでも「地域」を沖縄とする設定では検索は難しそうだ。今後は作者、出土などに関する地域でまとめて出すことを考えてもいいのではないだろうか。地域に限らずリクエストの多いカテゴリー、そういう求めに応じたカスタマイズを行なえるようになると、より親しみが沸いてくるだろう。
 一方、サントリー美術館では、トップページからコレクションに入ると、データベースのジャンル別検索があり、このなかに「琉球漆器」、「沖縄の染織」がある。ここに進むとそれぞれ14件、5件が表示され、解説を読むことができる。これらは全体の内でほんの一部とは思われるが、今後充実することを期待したい。

 
文化遺産オンライン
文化遺産オンライン
さらに、複数館の横断検索ではどうかと「文化遺産オンライン」に入ってみる。ここの検索機能では、地域の指定で沖縄は道州と同レベルで指定することができ、そこで検索すると14件表示される。ただこれはほとんどが屋外の文化財であり、システムに登録されているミュージアムの収蔵品がこれだけということはないはずであるから、見直しも必要だろう。
 このように期待からは隔たりがある結果となったが、こういうことは関心を持つ多くの人たちが様々なことをやってみて、それで気がづくことも多い。おそらく画像があり、何らかのデータベースのなかに含まれているものはもっと多いのだろう。しかしながら検索結果ははかばかしくないし、日本全体のリンクもいまだ強くない。ここは沖縄を例にとって、収蔵館がどれだけ求めに応じられるのか、館の内外で試行をしてみたいものである。その結果、ネット上の沖縄ミュージアムができればこれは素晴らしいことだ。

Wonder沖縄
Wonder沖縄
 ここで思い出すのは政府の事業「Wonder沖縄」(2003)である。私もこのプロジェクトの委員であったが、沖縄の文化をたいへん広くカヴァーしている。しかし、これは映像と画像のコンテンツとしてはまとまったものであり、文化についての説明、多くの対象物の紹介に優れているが、ミュージアムとのつながりは希薄で、これに追加修整を加えながら持続していくことには運営上の困難もあるようだ。本当はこれを一つの参考にしながら、現実に多くのミュージアムに収蔵されているものがリンクされ、ネット上にまとまっていくとよい。
 じつはアーカイブの本質ということからすると、沖縄には、わが国のアーカイブとして最も本格的なものの一つがある。沖縄県公文書館である。
 この連載でも取り上げた(2006年10月)ように、ここでまず目立つのは米軍撮影写真が大量に公開されていることで、その対象も戦争、占領、行政にとどまらず生活、風俗など多岐にわたる。琉球政府公報、琉球立法府会議録も見ることができ、さらにここの刊行物はダウンロードすることができる。ここからは、占領時に定着したものであるとはいえ、アーカイブとして何かしっかりした背景を受け取ることができる。保存し公開していくこのような意志をもとに、沖縄の内外にあるもの、それらに関係する人たちのリンクがつながり、いずれネットワーク上にデジタルアーカイブができ、それがリアルな世界のミュージアムに反映していくことを期待したい。
2008年4月
[かさば はるお]
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掲載/笠羽晴夫
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