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プライバシーステートメント
デジタルアーカイブ百景
長野県──各市が支えるデジタルアーカイブ
笠羽 晴夫
 ネット上のデジタルアーカイブだけを見ていると、一つの県のなかで行政、経済、文化、教育などのポジション、ステータスの全体が、必ずしも反映していないことがある。これは興味深いことである。
 今月は長野県を取り上げてみる。アートスケープ「全国ミュージアム」で紹介されている長野県のURLは67で、これは非常に多い。長野県の人口は約217万であるが、人口が736万の愛知県のURLは84である。これら二つを比較してみても、それはよくわかる。

長野県立歴史館
長野県立歴史館
 まずはこれまで紹介してきた他の県と同様に、県中央のミュージアムから入ってみる。長野県立歴史館は博物館に相当するものであろう。開館が1994年で、まだあまり時間がたっていないこともあるのか、収蔵品については扱っている部署別に簡単な説明があるのみで、展示の模様は「バーチャル歴史館」という仕掛けはあるものの、このサイトから県の歴史の一端を見るというには至らない。目録、データベースの整備などについて、進行状況が見えるとよいのだが。
 じつは長野市博物館が通常の県立博物館相当なのだが、考古学分野を始め常設展示の説明はあるもののパンフレットレベルにとどまる。
 そして県を代表する美術館は長野県信濃美術館・東山魁夷館である。ここの方針は地域に根ざした美術館ということである。コレクション一覧はトップページには入り口が見えず、「美術館について」というところに入ってから見出すことになる。一般のコレクションについては作品リストと画像2枚、東山魁夷についてもプロフィールと所蔵作品リストはあるものの画像は一つだけである。

長野県公式観光ウェブサイト「さわやか信州旅.net」
長野県公式観光ウェブサイト「さわやか信州旅.net」
 このように、県全体を簡単に一望しようとすると心もとない。長野県の観光ページを見ると、ここでは多くの事項が詳細に分類されており、文化関連も扱われている。これは今後データを付与していく上で、よいフレームではあるがこのままで終わってはいけない。
 このように県という行政の単位、そして県庁所在地からは、地域というものが見えてこない。それでは、県内そのほかの市はどうか。
 飯田市(人口約10万人)では、観光情報に歴史・文化・芸術の項があり、飯田市美術博物館、飯田市上郷考古博物館、そしてここで盛んな人形劇について数団体のリンクがある。
 飯田市美術博物館では、コレクションとして、菱田春草、郷土の画家などについて豊富な画像がある。ただ大きさはサムネイルより少し大きい程度であることが惜しい。説明は丁寧だが、画像が整備途上のカテゴリもある。
 飯田市上郷考古博物館では、展示・収蔵資料は大きな画像とともに数多く見ることが出来る。多くの遺跡の説明も丁寧であるが、両者を結びつけるガイドが出来るとより興味を持ってみることが出来るだろう。
そして人形については、いくつかの座を始めとするホームページがリンクされている。互いに影響しあってあるレベルに持っていくという傾向が見られるのはいい。
 岡谷蚕糸博物館・岡谷美術考古館は岡谷市からのリンクはよく見えないが、インターネット美術館と名づけたこのサイトはなかなか充実している。蚕糸、考古、美術とも手際よく紹介されているが、なかでも蚕糸は後述の上田市なども含め長野県を語る際に重要な要素であるからこれは意義がある。
 諏訪市(人口約5万人)の諏訪市博物館は、かなりの資料を所蔵している割に画像はわずかであるが、諏訪社遊楽図屏風の多くの部分、竹取物語絵巻については上中下巻全部の画像が拡大可能で、後者については現代語訳が付加されている。デジタルアーカイブとしては高く評価できるものだ。

上田市
上田市のサイト
さて上田市(人口約16万人)である。今回はまとめて市のサイトから入ってみよう。ほかの市と比較するときわめて実用的なトップページで、市政情報とならぶ生活ガイドはこれ自体情報豊富だが、その項目一覧のなかで明確に博物館、上田創造館、上田文化財マップ、上田情報蔵、デジタルアーカイブが示されており、入り方もわかりやすい。上田市山本鼎記念館、上田市立信濃国分寺資料館、上田市立博物館はこの連載でも第2回(2006年2月)で取り上げたが、これらを見てみると、現在でもそのレベルの高さはかわらない。小さいことで一つ今回気がついたことは、山本鼎記念館のサイトにある山本鼎版画大賞展の記録である。これは1999年から始まったトリエンナーレで、その入賞作品の画像を見ることができる。第2回(2002年)以降は拡大可能である。現代版画の多様な風合いをこうしてみることが出来るのは、その認知と鑑賞に資すること大である。そして記録がこうして見られることにより、このイベントの意義や価値もよく認識されまた高まるというものだろう。児童部門の作品についても同様ということは、子どもたちのモチベーションを高めるという意味でも素晴らしい。

 そのほかのものについては、とにかく観光案内といってもよいサイトがほとんどである。そのなかで安曇野アートラインは、この地域に点在する20館をまとめて紹介しているが、各館自体のサイトで公開されている作品は少ない。安曇野はその出身者たちに、特に東京との文化的関係において興味を持つ人が多いことから、今後はこれらの情報公開を期待したい。それがむしろ観光の推進にも繋がるだろう。

長野県デジタルアーカイブ推進事業
長野県デジタルアーカイブ推進事業
 こうして長野県の風景を見ていくと、全体をカバーする「地域」情報がなく、いくつかの市単位で各地域情報が発信されているといえる。おりしも今年、長野県デジタルアーカイブ事業が始まったようで、これは年度ごとにテーマを決め、県民に地域をものがたるものの投稿を呼びかけたものである。
 デジタルアーカイブの形態の一つではあるけれども、この事業が、すでに存在しているコレクションについても、今後多少の遅れを取り戻すきっかけになることを期待する。
2008年5月
[かさば はるお]
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掲載/笠羽晴夫
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