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プライバシーステートメント
デジタルアーカイブ百景
福岡県 ミュージアム相互の刺激があれば
笠羽 晴夫
 ミュージアム相互の刺激がデジタルアーカイブの進展に効果をもたらす、ということを証明できるわけではないけれども、これまで多くの県のサイトを見てきて、そして今回福岡県を見て、それがないわけはないだろうと思う。特にいくつかがよくなると、後に続く館はそれらのレベルを標準とするだろう。

デジタルアーカイブで北九州が見えてくる
北九州市立いのちのたび博物館
北九州市立いのちのたび博物館
北九州市立美術館
北九州市立美術館
福岡市博物館
福岡市博物館
福岡アジア美術館
福岡アジア美術館
 福岡県はさまざまな面で九州の代表であり、さらに福岡、北九州という2つの大きな市があることから、地域性から入っていくのは難しいのではないかと予想したが、結果はそうでもなかった。
 まず北九州市立いのちのたび博物館に入ってみよう。五つの市が合併して北九州市となったのは1963年、もうすぐ半世紀になる。2002年に自然史、歴史、考古の三つの博物館が一体となり本館となった。全体を見渡すと地域の博物館はこのように三つのカテゴリが一緒になっている方が、前回(滋賀県)でも似たような指摘をしたが、その地域を理解するには適していると考えられる。この地が炭鉱、製鉄などの環境に大きく影響を与える近代産業の隆盛を経た後であればなおさら自然史があってこそ、歴史、考古も意味づけが深くなるというものだろう。
 「展示案内」は施設の俯瞰から、展示内容に入っていけるし、「博物館のみどころ」は子供にもわかりやすいフレーズをいくつか並べ、そこから小さい画像と簡潔な解説に入っていく。「収蔵資料検索」は「自然史資料検索」と「歴史資料検索」からなり、それぞれがいくつかのカテゴリとキーワード両方で検索可能である。前者なら、クリックのみでもおよその閲覧が出来るのはよい。ただ画像は大きめのサムネイル程度で、もうすこし拡大可能であってほしい。
 全体に自然史の資料が多いためか、自然史系によく見られるわかりやすいスタイルの色彩が強い。もっとも自然史系の場合は熱心な子供たちを相手にしていることが多く、このスタイルもここではむしろプラスに取ることが出来る。「白亜紀前期の魚類CG画像」など興味深い。ただ、今後は歴史系の強化も望みたい。
 北九州市立美術館では、所蔵作品の紹介にサムネイルの一覧があり、それをクリックすると葉書より少し大きい画面となる。この操作性はよい。国内74点、海外24点であるから、名品選としては十分であろう。海老原喜之助(1904-1970)の有名な《船を造る人》が見られるのはうれしい。この絵をはじめとして没後50年以前でも、おそらく掲載許可をとっているのであろう、多くのものをここでみることが出来る。残念なのは、色、解像度などにばらつきがみられること、そして数年前の物故作家の没年が記載されていないこと(例:難波田龍起)からみると、メンテナンスに課題を感じるところである。
 これらとかなり変わったところでCCA北九州は、現代美術の公的研究・学習機関である。「ギャラリー・プロジェクト」ではこれまでに交流をもった70人近くのアーチストの紹介と、作品の一端をうかがうことが出来る。「Voice」では数人の音声を聴くことも出来る。一般に現代アートにおいては、その形態、著作権などアーカイブしにくいさまざまな事情が明確にあるから、むしろ記録可能なことは出できるだけやっておこう、という姿勢がよく見られるが、ここも例外ではない。
 北九州市門司には出光美術館がある。サイト上では、ここと東京丸の内の出光美術館とが集約されている。これはリンクされているだけの石橋美術館とブリヂストン美術館のケースとは多少異なっている。コレクション、美術館の説明、サイトリニューアルの説明など、詳細かつ丁寧で好感が持てる。「コレクション」は門司のものというわけではなく二館全体のものだが、日本・中国の絵画・陶磁などを中心に14のカテゴリ毎に2点程度の画像を見ることが出来る。サムネイルより少し大きい程度で、このサイトで見る限り画質はそれほど高くない。館内のデジタルアーカイブとしては、その品質は高いことが想定される。いずれもう少し公開され、そしてその何が二館のうちどちらに現在展示されているか、わかるようになればと、期待される。
 さてその石橋美術館(久留米市)であるが、所蔵作品としては、日本の近代洋画、中国・日本の美術、オリエントのガラス器と陶器、の区分で二十数点の画像を見ることが出来る。数は多くない、また画像の質は高いが大きくはない。おそらく館内のデジタルアーカイブの質は高いであろう、ということは想像できる。今後の公開に期待したい。
 次は福岡市であるが、一般に県庁所在地では県立ミュージアムとの棲み分けが難しく、ここも例外ではない。福岡市博物館は1990年開館で福岡の歴史・民俗を対象としており、展示説明は詳しいが、収蔵品の画像は出ていない。福岡市美術館には、郷土出身の画家、近現代美術、古美術などのコレクションがある。主な所蔵品はその画像が紹介されており、表示までの操作もやりやすい。画像はサムネイルより大きいという程度であるが、どんなものかはこれでわかる。
 このほかに特徴ある美術館として、福岡アジア美術館と福岡東洋美術館がある。福岡アジア美術館は、アジアの近現代美術中心のミュージアムで、コレクションについては「主な作品」として国別にピックアップされたものを画像でみることが出来る。一方、収蔵品検索機能もあって、おそらくやり方によっては画像を見られるものも多いようだが、それらを引き出すのは容易でない。たとえばインドネシアの絵画という条件で出してみると、画像も多いようだし、「主な作品」の場合より大きく拡大できるものもあり、画質も高い。したがって、国別に作家一覧とか、いくつか検索キーになるものの例示・説明があると、もっとたくさん引き出して見ることが出きるのではと思わせる。
 福岡東洋陶磁美術館は、収蔵品の一部紹介という限定つきであるが、38点ほどについて、画像と詳しい解説が見られ、ひととおり楽しむことが出来る。

県立美術館が示すデジタルアーカイブの標準
福岡県立美術館
福岡県立美術館
 次は県立ということで、福岡県立美術館に入ってみる。1964年開館の福岡県文化会館を前身に、1985年に福岡県立美術館として再スタートした。収集は福岡県出身、そして九州出身の作家を中心にしている。「コレクション」に入るといきなり検索画面になるからとまどうが、よく見ると、「リスト表示」があって作家名を五十音で選ぶことが出来る。これははじめから一覧にして出してもいいだろう(たとえばこのアートスケープ「全国ミュージアムデータベース」の「全館一覧」のように)。さらに「画像がある作品で選ぶ」で検索すると、344件が表示可能なことがわかる。「作家・作品解説のある作品を選ぶ」で検索すると4045件ある。このように充実したデジタルアーカイブであることがうかがわれ、死後50年経った作家と想定されるが、多くの画像を見ることが出来る。そうであれば、「おすすめの作品を選ぶ」が10件というのは少ないのではないだろうか。藤島武二をはじめ初心者向けにここに入れてもいいと思われる有名画家の作品もいくつかある。今後、画像公開可能なものをベースに、この館の魅力をアピールする操作機能を望みたい。ポテンシャルが高いだけに、今はもったいないという印象がある。
 ところでこれを書いている8月末、ホームページで8月31日(日)NHKテレビ「新日曜美術館」で高島野十郎(1890-1975)を特集するということが報じられており、しかもこの館で現在見ることが出来るこの画家の絵が4枚のサムネイル大画像付で紹介されている。実は「コレクション」で高橋の作品を検索しても画像は表示されないのだが、このような気のきいたことが出来るということは評価されてよい。この積み重ねが、ここのデジタルアーカイブの、そして検索機能のサービス性の向上に役立つであろう。
 次に福岡県立図書館を見てみると、「デジタルライブラリー」として貴重資料、郷土資料がデジタル化され公開されている。前者では「筑前国産物帳・絵図帳」「シーボルトコレクション」、後者では絵葉書による「福岡百景」など、見ていて楽しいものでもある。

新しい国立ミュージアムが後押し
九州国立博物館
九州国立博物館
 このように、福岡県では、どこかがはじめたことが全体に良い影響を与えているのではないかと思わせる。そして2005年、九州国立博物館が開館した。もっとも新しい国立ミュージアムということもあるのか、Webのつくりも新しく、そのサービスもよい。
 開催中の展示については、画像を交えた詳細な紹介がされている。「収蔵品ギャラリー」に入ると、すぐに国宝、重要文化財のサムネイルが並ぶから、いくつか見てみようというときにも便利であるし、そのほかのカテゴリでも適当な数の収蔵品が並べられ、しかもここには解説が最初からついていて、そこから画像拡大が出来る。これは操作性がたいへんよい。
 「データベース」は三つあって、これも鑑賞しやすく出来ている。「西都大宰府データベース」には大宰府に関する動画映像のアーカイブが40点近くもあって、その鑑賞も難しくない。公的な施設でもこれだけのものは少ないだろう。「装飾古墳データベース」では、地図検索、文様検索が興味深い。「対馬宗家文書データベース」も多岐にわたる充実ぶりで、これを堪能するには適当なガイドが必要だろうが、そのインフラとしては充分である。
 そして知識の散歩道「路知」(ろじ)は、多くの外部研究者によるンテンツ集で、展示物に関連した読み物を集めた「連」、ワークショップなどのレポートからなる「写」、特別展の報告を集めた「覧」といったものからなっている。大量のコレクションがあって、そのデジタルアーカイブが公開されてくると、このようなコンテンツを集め提供していくことが、このサイトが外部に対して持つ効果に、大きな影響を与えるにちがいない。この地域において、九州国立博物館がデジタルアーカイブの進展をさらに加速し、その充実に影響を与えることを期待したい。

 デジタルアーカイブをうまく見せていくサービスの鍵が、今回いくつか見えたのではないだろうか。
2008年9月
[かさば はるお]
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掲載/笠羽晴夫
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