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掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
身体運動のデジタル記録を探求する「八村広三郎」
影山幸一
画像情報学を開拓する八村広三郎氏
 東京・品川駅から新幹線のぞみに乗って、滋賀に向かった。立命館大学のびわこ・くさつキャンパスは、京都駅から約35分、南草津にある。群馬県の温泉町とは違う、大学と草津市が連携して町づくりを始めているところだ。理工学部情報学科の八村広三郎教授(以下、八村氏)と最初に出会ったのは、2000年12月、立命館大学の京都・衣笠キャンパスで開催された「人文科学とコンピュータシンポジウム」[主催:(社)情報処理学会]の会場であった。私が国内で初めてのデジタルアーカイブ白書の製作に携わり、気負って取材に出かけた時である。立命館大学にはアート・リサーチセンター があり、主に京都の伝統芸能など芸術表現のデジタルアーカイブを行なっている。マルチアングル(12アングル)撮影による能(片山家)や京舞井上流などのデジタルビデオカメラ撮影のほか、モーションキャプチャ*1システムによる身体運動の正確なデータの記録とその保存をしている。

 八村氏の小学生時代には、自作のラジオを組み立て、将来は電気機関車を作る夢を見ていた。美術よりは音楽のほうに関心があり、クラシックのレコードを聴いていた。いま、美術であえていえば古典の具象絵画よりもミロやモンドリアンなどの抽象絵画のほうが好きだという。シンプルな色と形が想像を膨らませるのかも知れない。

 八村氏の専門は、画像情報学と氏が名付けた情報工学分野である。その画像情報処理の未開拓領域が静止画像よりも動画像に多いことから、研究対象は徐々に動画像とその対象物へ自然に移行していった。八村氏はきっぱりとコンピュータはツールであると言う。研究テーマのひとつである「人間の身体運動の記述・検索と表示の研究」では、身体運動を記号で記録した舞踊譜(以下、Labanotation*2) と光学式モーションキャプチャによる研究が進んでいる。無形文化財や人間国宝といった人間の動作そのものが貴重な意味をもつ身体運動を、正確に計測・記録・保存し、後継者の教育用映像など有効に活用する手法が考えられている。表情を排して、骨格だけになった体の動きが初心の時期の稽古の要点を映し出す。

 カメラを6〜10台設置した中でモーションキャプチャのデータ取得は行われる。被計測者は舞台衣装を身に着けず、素肌に近い状態で関節などのポイントに30箇所ほどマーカを付けて計測される。ミリ単位の3次元座標値データと時系列データを得て、活用しやすいように座標変換やフレーム調整、身体モデルジョイントの位置データ算出といった編集作業に移るが、カメラの設置調整とデータの編集作業に多くの時間が取られるそうだ。データ量が膨大なため、利用するにも編集作業に手間がかかるのだ。指やひねりの表現など細部の表情が捉えられないモーションキャプチャは、身体運動の記録として完成されたものとはいえない。また、Labanotation記譜法も楽譜の音符のような親しみやすさはなく、複雑で理解に苦しむ。しかし、楽譜と同じように、この手法は舞踊の記録としては基礎となるもの、現在なお舞踊界で広く利用され、またよく研究されてもいる。舞踊のエッセンスを記述したものであり、アブストラクトとも見なすこともできると八村氏は言う。


「バレエのモーションキャプチャ画像」提供:八村研究室

 このLabanotationに基づくテキスト形式のデータと、モーションキャプチャの正確なデータを独自に開発した変換プログラムによって関連させ、データをアニメーションとして表示するためのシステムをJavaで構築する八村氏。モーションキャプチャデータからLabanotationの自動生成と、Labanotation譜面の入力・編集・印刷・表示を行なうLaban Editorの開発に注力するのは、舞踊の動きの骨組みを、演技者の表現と分離して記録できるためであるという。そこに身体運動の本質が見えるのであろう。舞踊学習のための基本的ツールとしてすでに地位が確立しているLabanotationの記号的な記述は、身体運動の索引としての機能も持ち、データ処理にも適していると感じている。八村氏は、そのLabanotationによる大まかな記述と、モーションキャプチャによる三次元データの詳細な動きの記録を関連付けることから、両者を補完し、利用する研究に入っている。

 現在、美術館のインターネット情報発信は動画像よりも静止画像が多いが、今後光ファイバーなどが整備されてくれば動画像が増加してくるであろう。パフォーマンス・アート、キネティック・アート、ギャラリートーク、ワークショップ、講演会などを自宅のパソコンでも見てみたい。八村氏の研究に使用するモーションキャプチャは、身体運動の記録に留まらず、新しい身体表現のツールとしても利用され始めている。米国のInternet2という非営利の研究開発コンソーシアムでは、大学・研究機関・博物館など利用施設を限定したインターネット・ネットワーク・プロジェクトを展開している。既存のインターネットとは異なり、独立した高速ネットワークを用いて、遠隔教育・研究活動などに資するコンテンツを40MB/secの帯域で常時保証する。2002年、南カリフォルニア大学で開催された会合では、 京都コンピュータ学院とイリノイ大学の共同プロジェクトによるブロードバンドとアートとの融合を目指したパフォーマンス「Hummingbird 」が発表された。これはイリノイとロサンゼルス間をブロードバンドで結び、イリノイで踊るダンサーをモーションキャプチャ後、CGの人形に置き換え、ロサンゼルスにいるダンサーへリアルタイムに映像を送信し、ダンサーと人形CGが共に踊るというものであった。また、国内でもモーションキャプチャを活用した表現は増えてきているようだ。秋田県の劇団わらび座Digital Art Factory が協力した、世界で初めての歌舞伎とCGの融合を試みた作品「秋の河童」(2002年3月9日-24日、国立劇場)を八村氏が教えてくれた。

 立命館大学では2004年4月、“情報”をキーワードとした新しい総合的な教育・研究の拠点をびわこ・くさつキャンパスに創設し、情報理工学部(情報システム学科、情報コミュニケーション学科、メディア情報学科、知能情報学科、生命情報学科)が誕生する。現在ある理工学部には、電子情報デザイン科、マイクロ機械システム工学科、建築都市デザイン学科が新設され、八村氏はメディア情報学科で教鞭をとる。取材に訪れた時、新棟はまだ建設中であったが、情報の拠点となる新校舎の充実した環境で八村氏はますます多忙になるに違いない。学生に対して、まずコンピュータに触れて親しみ、思いもよらぬ使い方をしてもらいたいと意外性を期待する。そして、動くこと、とことんやることの良さを伝えていきたいと話す。

 二次元から三次元へ、静止画像から動画像へ。身体・空間・時間のデジタルアーカイブは進化する。



*1. 人間の動作を直接データ化するために考案された技法。取り込み方法に光学式、磁気式がある。データをもとにアニメのキャラクターと統合して人間同様に動かしたりする。ビデオゲーム、アニメ映画、コマーシャル、ダンスのパフォーマンスなどに使われている。Vicon Motion Systems社Motion Analysis社Ascension Technology社PhoeniX Technologies社Polhemus社などのメーカーがある。
*2. ラバノテーションは、欧米で広く用いられている舞踊の記述法で記された譜面。1920年代にRudolf von Labanが考案し、Ann Hutchinsonの普及によりアメリカを中心に利用されている。人間の動作を図形的な記号で記述し、一覧性がある。譜面は下から上へ、左の列から右の列へと読む。

■はちむら こうざぶろう 略歴
立命館大学理工学部情報学科教授。1948年6月29日鳥取生まれ。1971年京都大学工学部電気工学第二学科卒業。1976年京都大学大学院工学研究科電気工学専攻博士課程単位取得退学。1978年国立民族学博物館第五研究部助手。1979年 京都大学工学博士。1983年京都大学情報処理教育センター助教授。1985-86年 スウェーデン・ウプサラ大学客員研究員。1990年京都大学工学部助教授。1994年から現職。画像処理、画像データベース、コンピュータグラフィックス、感性情報処理などの研究に従事。 1995-96年情報処理学会「人文科学とコンピュータ」研究会主査。 1998-2003年3月 立命館大学総合情報センター副センター長(情報システム担当)兼務。 2000年 立命館大学アート・リサーチセンター副センター長兼務。情報処理学会、電子情報通信学会、画像電子学会、日本ME学会各会員。著書:『FORTRAN77プログラミング──入門からグラフィックスまで-改訂版』(共著, 1987, 培風館)、『計算機科学の基礎』(1989, 近代科学社)、『講座 人文科学のための情報処理講座〈第4巻〉イメージ処理編』(1998, 尚学社)など。

■参考文献
八村広三郎「舞踊のデジタル化―モーションキャプチャとLabanotationの利用」『システム/制御/情報』Vol.46,No.8, pp.490-497, 2002. システム制御情報学会
『モーションキャプチャー技術による身体動作の分析・比較研究──3次元動画のデータベース化の研究開発』課題番号:11791011 平成11年度〜平成13年度科学研究費補助金(地域連携推進研究費[2])研究成果報告書2002.3. 研究代表者八村広三郎
赤間亮「立命館大学アート・リサーチセンター」『デジタルアーカイブ白書2001』2001.3. デジタルアーカイブ推進協議会
[ かげやま こういち ]
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