ミュージアムIT情報:影山幸一 04年5月
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ミュージアムIT情報
掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
美のデジタルアーカイブ 新連載〈企業シリーズ〉
アートを支える画像フォーマット
PixelLive「セラーテムテクノロジー」

影山幸一
 「美のデジタルアーカイブ」はMUSEUMシリーズ、研究者シリーズに引き続き、第3弾〈企業シリーズ〉の連載が今回より1年間12回にわたりスタートする。毎回アートとデジタルアーカイブにかかわるホットな企業や組織を訪ね、デジタル技術の可能性や美術館・博物館における新しい活動状況、デジタルアーカイブを実際に構築・運用する企業の製品や考え方、さらには企業理念などを伺いながら、思考が実現されていく過程をお伝えしていく予定である。
 〈MUSEUMシリーズ〉においては、各MUSEUMのデジタルアーカイブ構築の現状を連載し、〈研究者シリーズ〉では、アートとデジタルに関する研究の最前線をご紹介してきた。今回の〈企業シリーズ〉は、デジタル技術による計測・画像・保存・表現のキーワードをもとに開発速度の速いデジタル関連機器やソフトウェアの研究・開発のエピソードや市場の様子、特に美術館でのデジタル化の取組みに企業がいかにかかわっているのかなどを中心に、デジタルの美が作られてゆく現場を訪ねる。
 デジタルの特質を企業内研究者がいかに捉え製品化、サービス化しているのかを知ることで、デジタルアーカイブの構築・運用が少しでも進められることを願う。そして、美のデジタルアーカイブの領域を広げ、深度を増しながら、新たな美を実感していきたいと思う。


アートを支える画像フォーマットPixelLive「セラーテムテクノロジー」



 「世界唯一、世界最高の新しい画像フォーマットを自分たちの手で作り上げてみよう」京都の新藤次郎(以下、新藤氏)という男が、1994年頃のインターネット創世期に画像が送信できることに魅せられ、会社は作られていった。1996年2月、有限会社デジタル・パブリッシング・ジャパン、現在の株式会社セラーテムテクノロジー(以下、セラーテム)を5人で起こし、2002年には 国際的な起業家表彰制度「アントレプレナー・オブ・ザー・イヤー 」の日本代表に選出された。会社設立から5年で株式公開を果たした急成長のベンチャー企業として注目される。デジタル画像(2次元平面上の点の集合体)のフォーマットは80種類ほどあるといわれるが、一般的にはJPEG、TIFF、GIF、BMPなどが普及している。特にJPEG(Joint Photograph Expert Group)は、インターネットやデジタルカメラの写真を編集する場合など目にする機会は多い。デジタルアーカイブはこの画像フォーマットがなくては構築できない。現在のところペイント系グラフィック・データであるビットマップ・ファイル用のフォーマットであるTIFF(Tagged Image File Format)を採用しているMUSEUMが大半を占める。TIFFファイルのなかには、解像度や色数、dpi、エンコード方法(RGB、CMYKなど)など異なる複数のデータ・ブロックが格納されており、ブロックごとにデータの型を表わすためのタグが付けられるという拡張性がある。また、TIFFを読み書きするアプリケーションなどでは、そのデータ・タグを無視するようにできているため、OSにかかわらず使える汎用性のある画像フォーマットといえる。しかし、TIFFは高精細であるがデータサイズも大きく通信や保存には向いていない。またJPEGは通信には良いが非可逆圧縮のため画像の劣化は避けられない。これら2つの画像フォーマットの相反する要件を満たし、さらにブラッシュアップさせて誕生したのがセラーテムの「VFZ(Vector Format for Zooming)」である。

PixelLive
PixelLiveの活用事例
Poussin Nicolasの絵画作品「ECHO ET NARCISSE」をPCで拡大表示。あらゆる静止画像をハンドリングするPixelLiveは、オリジナル画像をロスレス(可逆圧縮)、画像の色深度(色数)別に6層のレイヤー構造で保存、ネットワークの帯域幅に合わせた画像閲覧が可能。
MrSID
MrSIDの活用事例
衛星写真と地図をMrSIDで画像フォーマット。Pixxures社(米国コロラド州デンバー市)は、電子Mapと関連サービスの大手プロバイダー。MrSIDとインターネットの活用により、顧客用の業務改善とコスト削減を実現している。
DjVu
DjVuの活用事例
セラーテムテクノロジー社の英文会社案内をDjVuで画像フォーマット。多ページ、大容量の写真・画像付きのプレゼンテーション資料など印刷物と同じ情報を有効に活用している。
 セラーテムの画像解析の研究には美術が大きく関わっている。1998年12月、新藤氏は製作した新しい画像フォーマットVFZを、ヨーロッパ・住友商事の紹介でパリのルーヴル美術館の地下に位置するフランス美術館修復研究センター(以下、C2RMF、ミュージアムIT情報2002年6月15日号参照)に持ち込んだ。そのタイミングがよく、C2RMFとの共同開発が始まった。C2RMFは、ルーヴル美術館などの美術作品を記録、修復、分析、研究を行なうために学芸員、物理・化学研究者、コンピュータ技術者、ドキュメンタリスト、修復家、写真家、X線技師など総勢160名ほどのスタッフが働いている。1931年創立のマイニニ研究所がその前身であるというから70年以上の歴史ある美術研究所である。C2RMFの情報技術部長クリスチアン・ラアニエ氏は、「ロスレス(可逆圧縮)かつ高画質」「原データをワンソースと
して管理できる」「セキュリティ機能が優れている」という、この3つの理由からC2RMFのデジタルアーカイブ・フォーマットとしてVFZを採用したと言う。VFZは、その後開発が進み1999年8月、はじめてVer.1が世の中に発表された。それは、通信や保存時のデータサイズは小さく、鑑賞時は高精細であることに特徴がある。技術的には拡大縮小による輝度変化の情報をベクトルデータとして保持(色深度多重構造)できることであるが、最も魅力的なのはワンソース・マルチユースの画像ハンドリングのよさである。VFZで圧縮した画像は、オリジナルのTIFFに戻せるうえ、1200%まで拡大がスムーズである。またほかの画像フォーマットとの変換効率がよく、一瞬にJPEGからVFZ、VFZからJPEGへ変換することができる、などの点である。VFZはアートのみを対象としているわけではないが、美術作品の色や画質を失わず、ストレスなくマルチに活用可能であり、アートを支える画像フォーマットといえる。2003年4月からVFZは「PixelLive」へ名称変更とともにバージョンアップされた。セラーテムではこのほか、衛星写真など地理情報システム(GIS:Geographic Information System)に効果を発揮するMrSID(ミスターシド)、大量のドキュメント整理と表示に効果があるDjVu(デジャヴ)など、目的や対象に応じたデジタルアーカイブに関する画像フォーマットをそろえている(表参照)。

藤本秀一
取材に応じる営業部長の藤本秀一氏
 セラーテムは、17種類のフィルターを備えたデジタル写真機器によって、絵画などを撮影したアーカイブから印刷までの実証実験を行なうCRISATEL(クリザテル)プロジェクト(2000-2004)といったEUのデジタルアーカイブプロジェクトや、国内では京都に本社を置く日本写真印刷株式会社との共同研究を行ない「ARTIZE MA(アルタイズ・エムエー)」というMUSEUM用資料管理データベースを製品化した。PixelLive(VFZ)の採用事例としては、京都国立博物館、奈良国立博物館、大津市歴史博物館、ポーラ美術館、京都市二条城などが挙げられる。取材に応じてくれた、画像技術開発に詳しい営業部長の藤本秀一氏は言う。「デジタルアーカイブとは、国や宗教、経済状態が違うものが、文化を共有し、コミュニケーションを円滑にできるひとつの手段である。人間の持っているサムシングは伝わると思う」と、デジタル画像をコミュニケーションに生かしていくことは、デジタルアーカイブの役割として大切なことではないかと語る。また、PixelLiveの色深度多重構造とMrSIDの解像度多重構造を合わせ持つ、新しいソフトウェアの開発が進んでプロトタイプが仕上がっていると言う。優れた静止画像フォーマットであるPixelLive、MrSID、DjVuの3種類がセラーテムに集まり、より使いやすい機能を持ったデジタルアーカイブ・フォーマットが開発されていくであろう。デジタル画像はインターネットに活用されるだけではなく、次世代に役立つ保存にも配慮したその不変性も重要ではないだろうか。画像解析研究と同時に、デジタルデータを記録・保存するメディア研究にも着手してほしい。

 世界にはCantoArtesiaNorth PlainsAdobeなどの画像ソフト開発企業やJPEG2000などの研究グループがある。それらの動向を見据えながら、静止画像No.1企業を目指すセラーテムのビジネス。2003年新藤氏は業績悪化などにより退陣したが、ベンチャー企業の不安定さを超えて、新体制となったセラーテムの今後に期待するところは大きい。資本金約37億円、売上高約23億1,900万円(連結、2003年6月現在)、総従業員数約200名となった会社を新社長・加納恭夫氏が率いる。京都から発信し、世界を目指した日本の技術は、今米国の技術と融合し、日本の感性で磨かれ世界に広がっている。

(資料提供:(株)セラーテムテクノロジー)

■PixelLive(ピクセルライブ)
2003年4月までの画像フォーマット「VFZ」のスケーラビリティや高品質などのアドバンテージを継承し、あらゆる静止画像をハンドリングする総合的な画像フォーマット。Pixel自体に生命を吹き込む技術。(セラーテムテクノロジー社開発)
特長 TIFFやRAWデータなどの画像データをロスレス(可逆圧縮)で2/3〜1/2に圧縮。
複数の色深度を1フォーマット内に持つので、10bit/チャネル画像でも専用端末から通常のPC機へも対応。
画像の部分毎、色深度毎の情報送信が可能で低インフラにも対応。
対象 官公庁、メーカー、病院、大学、博物館、美術館など。
効果 データサイズの圧縮・高品質拡大・画像補正・セキュリティ機能(PixelSafeとの連動)
JPEGとの違い 画像ファイルの一部を読み込むだけで画像全体の表示が可能(ネットワーク負荷の低減)。
1ファイル内に複数の色深度(bit)を保有しており、16bit画像からでも8bitの収得が可能。
数学的にロスレスである。
PixelSafeと連動することにより動的な閲覧権限の設定(閲覧、印刷、品質、保存、拡大率、透かし)が可能。
導入事例 C2RMF、京都国立博物館、奈良国立博物館、ポーラ美術館、大津市歴史博物館、京都市二条城など。
製品価格(一部のみ表示、ローデータ換算、税込) PixelLive SDK Ver.3.0 ¥312,900(サポート ¥62,580)。別途にユザーライセンス数に応じたライセンス価格とサポート価格あり。

■MrSID(ミスターシド)
高精細画像や衛星画像・航空写真などのGIS画像をロスレス圧縮し、オラインで活用するために必要な画像を生成する。GIS用アプリケーションなどでは標準とされるフォーマット。(米国ロスアラモス国立研究所開発、リザードテック社が商用化)
特長 米国のGISおよびリモートセンシング分野のデファクトスタンダード。
TIFFやRAWデータなどの画像データをロスレス(可逆圧縮)で1/3〜1/7に圧縮。
複数の解像度を1フォーマット内に持つので、スペックの低い機器や通信インフラでも高解像度の画像閲覧が可能。
対象 官公庁、研究・医療機関など。
効果 データサイズの圧縮・巨大データのハンドリング
JPEGとの違い 画像ファイルの一部を読み込むだけで画像全体の表示が可能(ネットワーク負荷の低減)。
1ファイル内に複数の解像度を持つので、1GBを超えるファイルでもナローバンドのインフラで配信可能。
数学的にロスレスである。
高圧縮モードではロッシー(非可逆圧縮)であるが、同じ品質のJPEGの1/3のファイルサイズに圧縮可能。
導入事例 英国国立宇宙センター、米国宇宙局、米国海軍、学習院大学図書館など。
製品価格(一部のみ表示、ローデータ換算、税込) Geo Express with MrSID Ver.4.0 (100GBデータカートリッジ、サポート込み)¥593,250。別途のサーバー、ExpressServerは¥674,100、年間サポート10件迄¥187,950。

■DjVu(デジャヴ)
大量のドキュメントや画像・図面など日々の業務に不可欠なドキュメント資産を、高品質のまま小さく圧縮し、共有・配信する画像フォーマット。(米国AT&T研究所開発、リザードテック社が商用化)
特長 カタログなどのドキュメントを画像に変換し、高圧縮する(TIFFに比較して最大1/1000の圧縮率)。
対象 官公庁、ファイナンス、運輸、医療、大学、公文書館など。
効果 データサイズの圧縮・OCR認識率の向上
JPEGとの違い 高圧縮(JPEGの10〜100倍の圧縮率)。
セグメンタ技術(文字と写真と線画を分離する)により、文字や図形がある画像の圧縮に特に優れている。
OCRと連動することにより、画像フォーマット内にテキスト情報と、リンク情報の埋め込みが可能。
導入事例 アジア歴史資料センター、松下電器産業株式会社、株式会社小松製作所、アスクル株式会社、ノースウエスト航空、NIKEなど。
製品価格(一部のみ表示、ローデータ換算、税込) Document Express Enterprise Server Edition Ver.3.0 ¥630,000 (年間サポート ¥189,000)。別途のサーバー、ExpressServerは¥674,100、年間サポート10件迄¥187,950。

■会社概要
会社名:株式会社セラーテムテクノロジー
設立:1996年2月
資本金:37億7,096万円(2003年3月末)
従業員数:29名(単体)、176名(連結)(2004年1月現在)
代表取締役社長:加納恭夫(元米国住友商事会社 シニア・ヴァイス・プレジデント)
本社:東京都港区六本木1-6-1 泉ガーデンタワー10F
連結子会社:Celartem Technology USA Inc. Extensis,Inc. Diamond Soft,Inc. Lizard Tech,Inc.
事業目的:デジタルアセット(画像、テキスト、文書、フォント等)の製作、変換、保存、管理、配信を独自の技術により開発し、アプリケーションソフトやサービスを通じてグローバルに展開する。
社会に提供する価値
●デジタルコンテンツに付加価値をもたらす技術の創造
●デジタルコンテンツの利便性を高め、管理する負担の軽減
●デジタルコンテンツを安心して自由に共有できる環境の提供
●デジタルコンテンツを活用した新しいビジネスの機会の提供

■参考文献
DAM推進協議会『ブロードバンド時代の新画像フォーマットVFZ──高品質な画像保存からデジタル・アセット・マネジメントまで』2001.12, 日経BP企画
[ かげやま こういち ]
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