ミュージアムIT情報:影山幸一 04年6月
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ミュージアムIT情報
掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
美術作品をダイレクトにデジタルアーカイブ、
究極の画質を求めるデジタルカメラバックメーカー
「Phase One(フェーズワン)」

影山幸一
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J.Paul Getty Museumでの撮影現場
 美術館のデジタルアーカイブの状況を取材しているが、新規に収蔵作品を直接デジタルで撮影している美術館はまだ少ない。イタリアのUffizi Gallery(ウフィッツィ美術館[ミュージアムIT情報2002年7月15日号参照])とアメリカのJ.Paul Getty Museum(J・ポール・ゲッティ美術館[デジタルアーカイブスタディ2004年1月15日号参照]) といった海外のそれも著名な美術館を思い出すくらいである。Uffizi Galleryではラファエロ・サンツィオ作品のデジタルアーカイブ撮影現場に立ち会う機会を得た。鑑賞者のいない休館の美術館でラファエロの《Portrait of a Man》など肌の質感と色、服装や髪の繊細で豊かな黒の表現力に対峙し、名画に囲まれた至福の時を過ごすことができた。そこにはPhase One (以下、フェーズワン)があった。実物の作品とPCモニタに映し出されたデジタル画像をフォトグラファーが対比し、調整しながらデジタルアーカイブが行なわれていた。多くの美術館ではポジフィルムをスキャナーでデジタル化する方法がとられている。なぜ、デジタルアーカイブに先進的な美術館がフェーズワンを選択しているのか、理由を知りたいと思い続けていた。

 デジタルアーカイブの実施は、まず原物であるアナログの対象物をデジタル信号に変換(A/Dコンバータ変換ともいう)することから始める。そのデジタルアーカイブの基点となる最初の工程をスキャナーか、デジタルカメラのどちらかが担うのだが、一般にも普及し、またデジタルアーカイブの分野でもその性能が期待できる高画質デジタルカメラにフォーカスしてみたいと思う。世界的なブランドとして、ImaconLeafSinar、フェーズワンといった各メーカーが、最高画質を追求し、デジタルカメラバック(デジタル画像変換装置。35ミリ一眼レフカメラより撮影有効範囲*1が大きな中判カメラなどの後ろに取付ける)を開発・生産している。フェーズワンは、デンマークのコペンハーゲンに本社を置くプロ用デジタルカメラバックの専門メーカーである。一般には知名度が低いかも知れないが、広告業界などのハイエンドユーザーからは信頼を得ており、高い画像クオリティを提供し続けている。1993年にドラムスキャナーの製造に関わってきた人物により設立された。プリプレス(印刷・press、以前・pre)の工程、企画・デザイン・写植・版下・製版などの技術者が多く、印刷目的の商業写真分野の製品開発に信頼を得ている。75名の社員の内25名が研究者・技術者であり、ハードウェアとソフトウェア部門がある。東京・中野にある事務所「フェーズワン ジャパン」を訪ね、プロダクトマネージャー下田貴之氏(以下、下田氏)に、デジタルアーカイブとの関係などを伺った。

下田貴之氏
ビジネスマネージャーの
下田貴之氏
 最初にデジタルアーカイブにふさわしい製品を、最近の動向と合わせて説明してもらった。フェーズワンが昨年(2003年)発売したワンショットタイプのHシリーズ最高機種のPhase One H25である。2,210万画素ものCCD(Charge Coupled Device、電荷結合素子)を搭載し、質の高い画像を再現するという。このCCDの性能が画質に大きく影響してくる。CCDの種類には「エリアCCD」とスキャニング方式の「ラインCCD」があり、さらに「エリアCCD」には「フルフレーム方式」「フレームトランスファー方式」「プログレッシブ方式」「インターレース方式」の4つの方式があるが、H25では受光面積の大きいフルフレーム方式が採用されている。また、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor、相補型金属酸化膜半導体)という、CCDに対するもう一方の次世代デジタルカメラの心臓ともいえる「撮像素子」があるがフェーズワンはそれを採用せず、20年以上実績のあるCCDを今回も継続してとり入れている。H25は今までのHシリーズの最高スペック機種H20と比較するとCCDの面が正方形から長方形に変わったことがすぐわかるが、これは画角に無駄がでないので、トリミングなく一発撮りの機会が増えることにつながる。そして、リアルタイムの画像補正と最新のカラーマネジメント工程などにより、撮影後の容易なワークフローを実現させているようだ。デジタルカメラバックは単独では扱えず、コンピュータとの接続をともなって撮影が行なわれるが、それがケーブル1本ですむのもうれしい。

PhaseOne H25
PowerPhaseFX+
上:最新のワンショットタイプPhaseOne H25

下:1億3,230万画素
スキャナータイプPowerPhaseFX+
 上記のPhase One H25はワンショットタイプという撮影数の多い場合に有効なデジタルカメラバックであるが、より高い画質を求めるときには、Power Phase FX+というスキャナータイプのデジタルカメラバックもある。スキャナータイプは撮影時間が長くかかるが、現時点で最高クラスの光学解像度を得られるという。10,500 ×12,600 画素(1億3,230万画素)、760MB (48 bit RGB インタポレーションなし*2) までの撮影画像が生成可能だ。また、フェーズワンはカメラバックのハードウェアだけでなく、RAWデータ*3の現像処理を行なうソフトウェア「Capture One」「Image Capture」の性能と操作性にも優れた特徴がある。銀塩写真と違いデジタルカメラでは、カメラマンが現像まで作業を行なう場合が多い(撮影後の作業工程:撮影→データ取込み〔例:PowerMacG5・17インチ以上のモニタ・データ保存用HD〕〔例:バックアップ用サーバー+RAIDシステム〕→PCで画像処理〔例:PowerMacG5・19インチ以上のモニタ・RAIDシステム〕→色モード変換)。このように撮影後の作業工程をスムーズに行なうためのソフトウェアを見落とさず注視し、ハードウェアと合わせて考えておくことも利用者にとって大切な視点であろう。美術館などの収蔵作品のデジタルアーカイブを始めるのに適している製品は、現在このPhase One H25とPower Phase FX+であると言う。確かに製品スペックの点からも設立後10年間の活動も、信頼が得られる評価できるものであろう。撮影時間に制約があり撮影数が多い場合などは、Phase One H25。時間をかけてでも画質を追求するのならばPower Phase FX+を利用するのがよさそうである(フェーズワンの製品は、日本総代理店であるコニカミノルタマーケティング株式会社 が扱っている)。


 美術作品をデジタルアーカイブするための対象(原資料)としては、今のところ4×5インチのポジフィルムが最も多い。今後、現状のようにポジフィルムを残してドラムスキャナーなどでデジタル化するのか、ポジフィルムに写さず作品から直接データを取得する方向に向かうのか、デジタルアーカイブの作業を日常化させるためにもここ1、2年のデジタルカメラ関連業界の動向が左右するところだろう。高画質デジタルカメラがまだ高額なためか、国内の美術館での導入例は少ない。しかし、今年はデジタル一眼レフカメラの人気が高まり、市場の拡大が予想される。172機種の銀塩・デジタルカメラの中から、総勢51名の選考委員より、35ミリデジタル一眼レフカメラ「ニコン D70」が、「カメラグランプリ 2004」を 受賞し、現在品薄状態であるという。プロユースの大判・中判のデジタルカメラ関連製品にも技術・価格面で反映されていくことが期待できる。次世代に残したい大切なデジタル画像の保存を確かなものにするために、デジタルカメラで撮影したデジタル画像をマイクロフィルムなどにプリントし、アナログ媒体にデータを移しておくことは有効であろう。異素材の画像資料を複数作成することが、デジタルアーカイブを強化するうえからもよい方法ではないかと考えている。ポジフィルムからデジタル化することと、デジタル撮影後にフィルムを作成することを比較すると、いずれもアナログとデジタルの資料を作ることは同じであるが、社会のデジタル化がますます進み、写真感光材料の生産量や価格の変動を予想すれば、デジタル撮影後にフィルム作成するのが一般的になっていくのではないだろうか。

浮世絵にカラーガイドとグレースケールを入れて撮影した事例 質感が伝わるよう壷を撮影した事例
左:浮世絵にカラーガイドとグレースケールを
入れて撮影した事例
© Mpls Inst

右:質感が伝わるよう壷を撮影した事例
© Roy Ritola
 そして、美術作品がデータに変換されたデジタル画像を資料として見る時、直接作品を撮影しデジタル化したものは2次資料となるが、ポジフィルムからのスキャニングでは3次資料となり、オリジナルから離れた資料となってしまう。さらに言えば、デジタル画像さえ、キャプチャ時のRAWデータとTIFFやJPEGなど画像フォーマットした加工後のデジタル画像では、見えは同一でも異なるデータである。美術作品にできるだけ近い資料に越したことはない。フェーズワンを使用するメリットは、高精細・高画質はもちろんのこと、デジタルアーカイブする作業工程の全体に配慮した製品(時代ごとに最高スペックを提供、撮影後の画像処理や印刷までを考えたソフトウェア開発)とそのサポートであるように思う。下田氏はデジタルアーカイブは美を追求するひとつのツールであり、フェーズワンはその一端を担うものであると言う。撮影時のライティング効果*4、カメラとの適合性、色深度のbit数、カラーマネジメント、画像加工、画像表現までと、フェーズワンはデジタルアーカイブ構築時に欠かせない要素を追求し、極めた技術で満たそうと、ユーザーの動向に適応しながら業界をリードしている。Uffizi GalleryやJ.Paul Getty Museumで出会ったフェーズワン。今後は、“見え”の画像から計測数値化された色彩画像取得へ、レーザーレンジセンサー形状計測値のように、色の精確な情報を数値で計れ、画像キャプチャできる次の時代をとらえた製品開発を期待したい。


*1:35mm(36mm×24mm)と4×5インチ(102mm×127mm)の面積比は約15倍あり、4×5インチは写せる情報量が多い、画像拡大時の粒状性が細かい、原版が大きくそのままでも鑑賞可能などのメリットがある。
*2:信号のサンプリング周波数(アナログ信号からデジタル信号への変換〔AD変換〕を1秒間に何回行なうかを表す数値)を数倍に上げる処理。
*3:画像フォーマットしない生データ。CCDからの直接情報を保存しているデータ。
*4:作品を保護するため、強い光量や高い発熱量を避ける。蛍光管やHMIライト(Hydragyum Medium Length arc Iodide additives light、金属ハロゲン化物を混入した水銀ランプで放電管の一種)などを使用する。


■Phase One H25製品スペック
ワンショットデジタルカメラバック(高画質で生産性の高いデジタル画像データ入力装置)
撮像素子 フルフレームCCD
ダイナミックレンジ RGB各色16bit
有効画素数 5,436×4,080画素(2,210万画素)
有効サイズ 48.9×36.7mm
露出時間 1/10,000秒〜60秒
撮影間隔 1コマ1.8秒
インターフェイス IEEE1394/FireWire
対応カメラ Hasselblad、Mamiyaほか各種4×5ビューカメラ
重量 450g
コンピュータ環境 Win=PentiumIII,512MB RAM,IEEE1394,Win OS=Windows 98SE/2000/Me/XP。
Mac=G5推奨,512MB RAM,Mac OS=OS X
発売日 2003年10月1日
価格 4,410,000円(Hasselblad Vシリーズ対応、税込)
4,515,000円(Mamiya RZ ProII対応、税込)

■Power Phase FX+製品スペック
スキャナタイプデジタルカメラバック(ハイエンドなデジタル画像データ入力装置)
撮像素子 10,500画素、3ラインCCDスキャニングタイプ
ダイナミックレンジ RGB各色14bit
有効画素数 10,500×12,600画素(1億3,230万画素)
撮影エリア 8.4×10cm
最長露光時間 1/8秒
インターフェイス IEEE1394/FireWire
対応カメラ 各種4×5ビューカメラ
重量 1.35kg
コンピュータ環境 Mac=Apple G4,256MB RAM,FireWire interface,Mac OS 9.1
発売日 2002年8月1日
価格 3,885,000円(税込)

■会社概要
会社名:Phase One AS
設立年:1993年
代表取締役社長:Henrik O. Ha'Kosso
従業員数:75名(内、25名が研究員)
本社:デンマーク・コペンハーゲン
支店:ニューヨーク、上海
事務所:東京、ソウル、ケルン
●フェーズワン5つのキーワード
・Quality:各クラスで最高の画像クオリティと革新力を提供
・Flexibility:最大のフレキシビリティで、完全なソリューションを提供
・Workflow:エンドユーザーが最も使いやすく、生産的なワークフローを提供
・Support:適格なアフターセールスおよびテクニカルサポートを提供
・Profit:高い投資回収率と共に、ユーザーの投資保護をコンセプトとする唯一のメーカー
(2004年6月現在)

(資料提供:フェーズワン ジャパン)

■参考文献
『プロフェッショナル・フォトグラファーのためのデジタルカメラと周辺機材2004』2003.9 玄光社
『コマーシャル・フォト』2003. 11 玄光社
『コマーシャル・フォト』2003.1 玄光社
『仕事で使うためのデジタルカメラ』2001.10 玄光社
[ かげやま こういち ]
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