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掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
色と形を正確に計測、数値化する「コニカミノルタ センシング」
影山幸一
 モナリザが描かれたポプラ板のゆがみが進んでいるという。また、日本ではキトラ古墳の白虎や青竜の壁画がはぎ取られ修復に入るらしい。美術作品(文化財を含む)の経年変化をデジタル技術でくい止めることはまだできないが、それらの美しさを計測して次世代に伝えることは可能になってきている。美術品をデジタルアーカイブするといえば、撮影したポジフィルムをスキャナーにかけてデジタル化する、あるいは直接デジタルカメラで美術品を撮影してデジタル画像を取得するか、二つの方法によって画像を保存し、活用していく、というのが現在のデジタルアーカイブ画像製作の大きな流れである。ただ、この取得されたデジタル画像は、本物を実写したものであっても、正確な色と形を再現しているわけではない。美術品にとって色と形は大事な要素であるが、これは“見え”のレベルの画像表現であり、本物のイメージはこんな感じであるということを伝えているにすぎないのだ。テレビや画集などで見慣れた絵画作品の、その本物を初めて見たとき、感動と共に違和感を覚えることがあると思うが、映像や写真や印刷では作品のすべては伝えられないという例であろう。

 もし、美術品の色と形が正確に計測され、実物と同じ完全なレプリカが再現されたとしたら、人間は現在のようにオリジナルにこだわり続けるであろうか。どんなに正確であってもレプリカや複製品はオリジナルに対して、脇役を強いられる。しかし、この脇役がオリジナルとは違う価値観で主役になれる日は近いだろう。正確な色と形の情報(データ)は美術品の研究を進めていくうえで貴重な情報であり資料となる。例えば、油彩絵画の絵具がキャンバスから何ミリどのように立体的に盛られて描かれているのか、モナリザの瞳はマンセル表色系で表示するとどのような数値になるのかなど、計測することで表示が可能だ。専門家の研究手段が増す一方、美術愛好者にとっても興味はあるだろう。それとも感性から計測へ、アウラは喪失し興醒め顔となるか。直径1.15mm内での測色と±0.008mmの形状計測の精度で美術品が数値として表示されるのだから、名画と最先端技術の出会いはすでに現代美術の領域である。計測することで新発見も出てくるだろう。美術史に登場してくるような公共性の高い作品には、色と形のデータを表示してもらいたいものである。美を計測する機器に注目してみた。

 美術品や文化財専用というのではないが、主に産業用に3次元形状を測定する計測機器を製造しているメーカーは、NECエンジニアリング(株)パルスティック工業(株)コニカミノルタ センシング(株)(以下、コニカミノルタ)などの国内メーカー、海外ではSteinbichler社のCOMETやGom社のAtosなどの機器がある。なかでもコニカミノルタは、2003年10月に発足した新しい会社。主に産業用の計測機器を製造・販売する会社で、3次元形状を計測する機器のほかに、色彩計という自動車塗装など各種工業製品の色検査や、美術の分野では彩色の評価など、色と形の計測機器を共に取り扱う世界でも珍しい光学計測機器メーカーである。

VIVID9iと藤岡氏
新型の3次元形状デジタイザVIVID9iと
藤岡重歳氏
 絵画の色彩を正確に計測し、デジタルデータ化する方法などについて取材に応じてくれたのは、新宿野村ビル内にあるコニカミノルタ国内販売部東京営業所の藤岡重歳氏(以下、藤岡氏)である。「理論的には、対象物の色と再現色の波長特性が完全一致した“分光的色再現”が究極の色再現だが、現実的にこの様なパーフェクトな色再現が可能な商品は世の中にない」と言う。基準の存在しない曖昧な画像情報に頼るしかない絵画の色を正確にデジタルアーカイブするためには、接触型の「分光測色計CM-2600d」か、非接触型の「分光放射輝度計CS-1000A」を使用して計測、数値化することを勧めている。美術では色の表示にマンセル表色系(HVC表示)を使うのが一般的だが、工業分野ではL*a*b*(物体色)、またはXYZ(Yxyともいう、光源色)という表色系が主に使用される。人間の目では正確に判断できない色合いを定量的に読み取ることのできる計測機器の計測方法には、上記のように直接作品と機器を接触させる方法と接触させない方法があるが、機器の特性(製品スペック参照)を生かした測色方法を選択することが必要だ。測定範囲が直径1.15 mm、3 mm、8mmと小さなポイントでとらえるため、1枚の絵画の表面をすべて計測するということではなく、多くは必要なポイントを部分的に測定し、修復や分析などをするために用いられている。曖昧な色が数値となる時デジタルを実感する。美術品の管理や修復、研究には数値化した色情報がより有効である。計測されたデータはマンセル表示だけでなく、L*a*b*やXYZの表色系にも変換ができる。情報により、資源の価値が増してきている現在、美術館など美術品を所蔵管理している施設は、正確な情報を可能な限り取得し公開してもらいたい。

分光測色計CM-2600d 分光放射輝度計CS-1000A
CM−2600dで測定した計測結果 左上:分光測色計CM-2600d 測定風景
左下:CM−2600dで測定した計測結果
右上:分光放射輝度計CS-1000A

 美術品の形についての計測には、対象物に損傷を与えない非接触による3次元デジタイザ「VIVID910」が適していると藤岡氏は言う。主に医学(形成外科などでの術前術後の評価)、産業(リバースエンジニアリング)、映画・TV(CGアニメーション)などのほか、アンコールワット遺跡のデータ取得に使われたというが、美術分野でも、レプリカ作成、仮想修復、バーチャルミュージアムなど立体物を正確に数値で記録、再現するときに利用されている。VIVID910は、コンパクト設計(〔幅〕213×〔高さ〕413×〔奥行〕271mm、重さ11kg)のうえ、PCと接続しなくてもスタンドアロンモードで操作できる。非接触型としてはクラス最高レベルの高精度・高確度。測定はスリット状のレーザー光を対象物に照射し、反射光をCCDカメラで受光する三角測距の原理によって対象との距離情報をデジタルデータとして得る光切断方式を採用。測定環境光の影響を受けにくい方式なので、屋外の彫刻や文化財などもスキャンできる。また、形状だけではなくカラー画像も同時に取得可能。対象までの計測距離が60cm〜2.5mと限られているが、計測精度は±0.008mmと高精度、かつ測定時間がFASTモード時で0.3秒、FINE時モードで2.5秒と速い。点群、ポリゴン、シェード(陰影)といった3次元デジタルデータで計測結果が表示される。この技術を応用したクオリティの高いミュージアムグッズ や、板絵の変形測定、美術品の輸送用梱包材など活用用途は広い。美術品を想定した計測機器の課題を藤岡氏は、以下のようにまとめてくれた。「色彩計測では、(1)近赤外など可視光線以外での計測 (2)非接触で安定して測定できるもの (3)2次元(面)で測定評価できる簡便な測定器。形状計測では、(1)5〜10mの距離で、1mm以下の計測ピッチで測定できるミッドレンジのデジタイザ (2)晴天環境下でも質の良いデータが取得できるもの (3)小型軽量でバッテリー駆動ができるもの (4)透明や高光沢の対象物が計測できるもの」。

VIVID910 VIVID910
左:3次元形状デジタイザVIVID910
右:VIVID910 アンコールワット遺跡データ取得現場 © 上智大学アジア人材養成研究センター


 美術品の画像情報には、色や形のほかにも、X線や紫外線を通した画像などもある。美術館にとって画像情報をどこまで準備するか、美術情報は何を基準に構築すればいいのかなど、美術館の情報化にともなう問題は表面化してくるが、所蔵する美術品が公共財であればあるほど、詳細な情報を公開することが求められてくるのではないだろうか。国宝級美術品画像のデジタルアーカイブについては、高精細の“見え”画像プラス基本情報である色と形の計測データを添付するのが理想的であろう。科学的な評価という観点が美術になじみにくいかもしれないが、これも美術への新しいアプローチであり、後世に残しておくべき重要なデータである。デジタルアーカイブ画像取得の大きな流れに追加しておきたい一項目だ。計測機器メーカーには近い将来、色・形と各種画像が1回の計測で取得できる機器の完成を望みたい。画像情報取得作業が簡潔となり、計測時における美術品の劣化も軽減できるはずだ。

 2003年8月にコニカ(株)とミノルタ(株)が経営統合して誕生したコニカミノルタグループは、売上げ規模1兆円を超える国際的大企業となった。現在ヨーロッパにおいて、ViHAP3Dプロジェクト に参加し、文化財の保存・修復や公開のための3Dイメージング技術の発展に取り組んでいる。これらの活動成果がデジタルアーカイブを支えるより高度な技術へと繋がり、そして美術品を生かすための環境が企業の力によっても少しずつ整えられていくことを期待したい。


■接触型測色計「分光測色計CM-2600d」
概要 照明光源を内蔵し、被測定物に密着させて測定するタイプ。物体色測定器の多くはこのタイプに属する。主な測定対象物としてはプラスチック、塗装面、繊維、食品、皮膚など多岐に渡る。主に民間工業系メーカーにて商品の色管理に使用されている。
利点 測定環境によらず、常に安定した測色値を取得することができる。2.JIS規格に100%一致した光学条件で測定できる。
欠点 接触させる必要があるので対象物が限定される(凹面測定ができない等)。
測定径 φ3mm/φ8mm切替式
測定波長 360〜740nm/10nmピッチ
重量 670g
価格 ¥1,344,000(税込)

■非接触型測色計「分光放射輝度計CS-1000A」
概要 ほとんどは発光体(光源)の色を測定するための物だが、外部に照明光源を置くことにより擬似的に反射物体色用として使用可能。本来の主要測定物は電球、LED、PC/TV用ディスプレイ等。研究分野では景観色の計測(非接触での物体色測定)に使用される場合もある。
利点 非接触なので文化財のような接触させづらい、もしくは接触させたくない対象物の測定も可能。
欠点 測定環境光の影響、センサー/照明/測定物の位置関係により測定値にばらつきが出る。
測定径 φ最小1.15mm
測定波長 380〜740nm
波長分解能 0.9nm/pixel(表示波長間隔1nm)
測定角 1度
測定輝度 1〜80,000cd/平方メートル
価格 ¥2,940,000(税込)

■非接触型形状測定装置「3次元デジタイザ VIVID 910」
撮影レンズ f=8/14/25mm 単焦点レンズ交換式
合焦方法 オートフォーカス
測定方式 三角測量 光切断方式
測定物設置距離 0.6〜2.5m
測定視野域 111×83mm〜1,196×897mm
測定ポイント 640×480(FINE)/320×240(FAST)
精度(識別可能な最小間隔) ±0.008mm
確度(測定結果の正確さ) X:±0.22mm, Y:±0.16, Z:Z面基準に対し±0.10mm
カラー画像データ 640×480 (RGB,24bit)
入力時間 3秒(FINE)/0.8秒(FAST)
データメモリー機能 有(コンパクトフラッシュメモリカード)
撮影モニター 5.7型LCDモニター内蔵
大きさ 213(W)×271(D)×413(H)mm
電源 AC商用電源100-240V(50-60Hz)、定格0.6A(100V AC入力時)
重量 約11kg
価格 ¥3,990,000(税込)

■会社概要
会社名:コニカミノルタ センシング株式会社
発足年:2003年10月1日
資本金:495百万円
売上高:104億円(2003年度)
従業員数:約400名
代表取締役社長:古川 博
本社:大阪府堺市大仙西町三丁91番地
営業所:東京、大阪、名古屋、福岡、仙台
事業目的:写真用・産業用・医療用計測機器などの製造及び販売
●経営理念:新しい価値の創造
●経営ビジョン:イメージングの領域で感動創造を与え続ける革新的な企業、高度な技術と信頼で市場をリードするグローバル企業
●企業メッセージ:The essentials of imaging(イメージングの世界で必要不可欠なものを提供し、必要不可欠な企業として認められる存在になる)
(2004年7月現在)

(資料提供:コニカミノルタ センシング(株)© KONICA MINOLTA、上智大学アジア人材養成研究センター)

■参考文献
『色を読む話──色彩管理は「感覚」から「知覚」へ──』小冊子 コニカミノルタ センシング(株)
[ かげやま こういち ]
前号 次号
掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
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