ミュージアムIT情報:影山幸一 04年9月
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ミュージアムIT情報
掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
ストレージの主流“ハードディスク”が美を保存する
「シーゲイト・テクノロジー」

影山幸一
東京国立博物館
リニューアルした東京国立博物館本館
 猛暑であった防災の日の9月1日、浅間山が噴火し、東京国立博物館本館(日本ギャラリー)がリニューアル・グランド・オープンした。3億円規模の予算をかけた大リニューアルは1872(明治5)年の開館以来だそうだ。縄文時代から江戸時代までの「日本美術の流れ」を国宝や重要文化財などの名品でたどる2階の時代別展示ゾーンと、彫刻・漆工・陶磁・刀剣などの作品を分野ごとに鑑賞できる1階の分野別展示ゾーンで構成され、日本美術の歩みが見やすく、わかりやすく魅力的な展示になった。解説パネルも改善されて、ちょっと暗めの雰囲気だが照明にも一家言ありそうだ。さらにリニューアル初日ということもあるだろうが、ミュージアムショップだけではなく、スタッフの笑顔や動作などにサービス精神がうかがえて、情報公開への取組みが心地よく感じられた。リニューアル記念事業で行なわれている研究員のリレーレクチャー「日本美術12000年」は、聴講無料ということもあってか、定員380名が満席状態。休日でもないのに、こんなに多くの熱心な美術愛好家がいるのかと驚いた。そして、鑑賞する時間もままならなく、閉館の5時に、夜のミュージアムにもう少し佇みたかったが……。リニューアルの初日の東京国立博物館は「変わった東博」を印象付けた。日本を中心とする東洋の美術作品と考古遺物を10万件以上収蔵している東京国立博物館、収蔵品画像のデジタル化(東京国立博物館[ミュージアムIT情報2002年8月9日号参照 ])は早く1994(平成6)年から開始し、そのデータはハードディスクドライブ(HDD。以下、ハードディスク)に保存されている。

 国内の美術館・博物館でデジタルアーカイブを実施している館の72.9%が、収蔵品のデジタル画像データをコンピュータ内のハードディスクに入れて保存している(「デジタルアーカイブ白書2004」より)。CD-ROMやDVDの記憶容量では不足であることと、ハードディスクの低価格化がデータの保存媒体をハードディスクに移行させた理由と考えられるが、今後もハードディスクの大容量小型化が進む傾向にあり、デジタルアーカイブの保存媒体としてしばらくはハードディスクが首位を占めていきそうである。このデジタルアーカイブの根幹である貴重なデータを保存するハードディスク。現時点の最大記憶容量は400GB(CD-ROM: 720MB, DVD: 4.7GB)。3.5インチ、2.5インチ、1.8インチ、1インチのサイズがある。最近はパソコンやサーバーだけではなく、小型ミュージックプレーヤーやテレビの録画用にもハードディスクが使われ、需要が増えてきている。データをストレージ(貯蔵・保管)する記憶媒体の中で主流となってきたハードディスクは、ハードディスクドライブやHDDと英文を略して表記される場合が多い。そして、ハードディスクはほとんどがコンピュータ本体の中に入っているため、CD-ROMを手に取るような親しみはないかも知れない。小さなお弁当箱の中にCD-ROMに似た磁気ディスクが1〜4枚重なって高速回転している感じ。この知っているようで、よくわからないハードディスクについて、その現状を世界最大手の米国ハードディスクメーカー「シーゲイト・テクノロジー 」(以下、シーゲイト社)の支社である、日本シーゲイト株式会社コーポレイトコミュニケーション日本担当マネージャー藤森英明氏(以下、藤森氏)に伺った。

シーゲイト社
日本シーゲイト社エントランス
  シーゲイト社は、ハードディスクの基幹技術を社内で開発・製造している。このことが顧客の要望に応える業界最高クラスのサービスを可能にし、製品を提供して、ハードディスク業界をリードする要因にもなっている。2004年7月27日、顧客の要望によりシーゲイト社はデスクトップPC、ノートPCと企業向けの内蔵型ハードディスク全製品を対象に、5年保証制度を開始すると発表した。これまでの標準的な保証期間は1年から3年で、保証期間が短くなる傾向にあった。ハードディスクメーカーには、米国Western Digital、米国Maxtor、韓国サムスン電子東芝富士通日立グローバル・ストレージ・テクノロジー などあるが「業界最高の保証制度を他社に先駆けて導入する」として、この画期的な新保証制度は今年6月1日出荷分まで遡及して適用されると言う。技術力に対する自信が媒体保証時間を延長させたようだ。

 しかし、この保証とはもちろん正常な状態においてハードディスクが動作することであり、使用する環境・状態など、シーゲイト社が設定する範囲内での動作保証である。記録されたデータは保証対象にはなっていない。旧来からの媒体である紙(媒体寿命250-700年)やカラーフィルム(30-250年)などと比較すると、残念ながらハードディスク(磁気ディスク、20年)は媒体としての寿命はまだ短い。媒体そのものが劣化してしまえば、そのデータもコピーしない限り媒体と同じ運命を辿ることになる。動作保証期間が延びると共に記録されたデータにも配慮した信頼できるストレージとして確立し、安心してデータを活用できる完成された技術と製品を提供してもらいたい。バックアップなどの更新の記録を残しながら、半永久的に再生ができるのが理想であろう。

 ハードディスクの構造と仕組みを藤森氏に簡単に説明してもらった。「ハードディスクは、磁気ディスク・磁気ヘッド・スピンドルモーターの3つの基本部分から構成されている。まず、磁気ディスク(またはプラッタ)と呼ばれる円盤部分の表面にデータが記録・蓄積される。磁気ディスクの素材は用途によるが、アルミなどの金属やガラスが使われており、磁気ヘッドというデータの書き込みや読み出しをする部分がスイングアームに動かされて、その磁気ディスクにアクセスする。このとき磁気ヘッドは磁気ディスクには触れない。また磁気ディスクを高速回転させているのがスピンドルモーターである。磁気ヘッドの読み書きについては、磁気ヘッド先のコアが電流により磁化され、磁気ディスクの表面の磁性体が磁化される。この原理(電磁誘導の法則)を用いて電流の向きを変えることで磁気ディスクの表面に磁化パターンを記録する。記録したい情報を低い電圧0、高い電圧1で表して、磁気ヘッドの読み書き信号に変換。磁気ヘッドには、読むためと書き込むための2つの機能が付いている」。

シーゲイト社 シーゲイト社
3.5インチハードディスク:外観(左)/内側(右)


 「ハードディスクは自動車と同様にあくまでも機械なので、動かしていないと動作しなくなる恐れがあり、他の機械と同じように耐用年数があるものです」と言う藤森氏。美術館・博物館の情報担当者へ「サーバー構築時には用途に合わせて拡張性・交換性・守備を考慮し、バックアップ機能を必ず付けてデータを保管すること」とアドバイス。データも原物の作品や資料の修復・管理と同じように定期的にメンテナンスする必要があるようだ。その他の注意ポイントとして、「ハードディスクにおいてはMTBF(Meantime Between Failure・平均故障間隔時間)がより長く耐久性が高いもので、エラー訂正機能を備え、強固なデータ保全性をもつもの(Cheetah 15K.4やNL35シリーズなど)を使い、OSも安定したものを使うと同時に、常にバックアップをとる習慣をつけること」を挙げている。また、「静電気対策の施された筐体(きょうたい)に収め、磁気粒子が不安定にならないように、気温を推奨温度よりも高くしない配慮が必要である」と言う。

 シーゲイト社は、仏教芸術の宝庫として知られる中国・敦煌にある莫高窟
の4万5,000平方メートルにおよぶ壁画、そして2,000体を超す仏像のデジタルアーカイブのため、「Barracuda 7200.7(160GB)」を提供している。また、タイのマヒドール大学コンピューティングセンターのIT専門チームが進めている「Budsir(Buddhist Scriptures Information Retrieval)プロジェクト 」では、仏陀の言葉が収められている大蔵経のデジタル化にハードディスクを提供し、デジタルアーカイブの一端を担った。

 ミュージアムが作品の墓場とも呼ばれた20世紀から、再生の21世紀へと、デジタルアーカイブの日常化が始まっている。わが国で最も古いミュージアムであり、いち早くデジタルアーカイブに取組んだ東京国立博物館は、今後もその動向が注目され、他館の指針となるだろう。また、デジタルアーカイブが契機となって、資料に改めてスポットが当てられている館も少なくないはずだ。現在、ミュージアムでは“情報”と向き合い、資料の整理・保存に対する意識が高まり、本来の資料整理とデジタルアーカイブが実行されてきている。ミュージアムのデータの多くがハードディスクに保存され、このデジタルデータの保存庫であるハードディスクを理解することが、ミュージアムの活性化にも繋がっていくだろう。ミュージアム側がユーザーの立場でメーカーに要望を伝えることが大事である。業界をリードする“シーゲイト社”はいま、現場のニーズに積極的に耳を傾けている。


(取材協力:Seagate Technology社グローバル・コンシューマー・エレクトロニクス・マーケティング・ディレクター Rob Pait氏)

■3.5インチ・サーバー(組織)用ハードディスク(Cheetah 15K.4) 基本仕様
容量 36GB,73GB,146GB
回転速度 15,000PRM
インターフェイス Ultra320 SCSI, 2Gb/s FC, SAS
キャッシュ 8MB
最大持続転送速度 96MB/秒
最大外部転送速度 200MB/秒,320MB/秒
平均シーク 3.3ミリ秒(読み出し),3.8ミリ秒(書き込み)
フル負荷時MTBF 140万時間
(2004年末発売予定)

■3.5インチ・サーバー(組織)用ハードディスク(NL35シリーズ) 基本仕様
容量 500GB
回転速度 700PRM
インターフェイス 2Gb/s FC , SATA/150(2005年より)
キャッシュ 8MB
最大持続転送速度 65MB/秒
最大外部転送速度 100MB/秒,150MB/秒
平均シーク 9.0ミリ秒未満(読み出し/書き込み)
フル負荷時MTBF 100万時間以上
(2004年末発売予定)

■会社概要
会社名:Seagate Technology(シーゲイト・テクノロジー)
設立年:1979年
資本金:3億9,005万円(日本シーゲイト株式会社)
売上高:62億2,400万米ドル(2003年7月〜2004年6月)
従業員数:約4万人
最高経営責任者兼社長:ウィリアム・ワトキンス
本社:米国カリフォルニア州スコッツバレー
支社:世界15カ国
ポリシー:開発・製造に対する投資を行なうことにより、主力製品であるハードディスクドライブの基幹技術を自社において保持する。
事業目的:ハードディスク市場の品質に対する顧客ニーズに応じて最高品質の製品を開発・製造する。さらに売上げ拡大とコスト削減を実現し、業界最高クラスの優れた業務プロセスを実践していく。
ハードディスク出荷台数(2003年7-2004年6月):7,928万台
製品市場シェア(2004年4-6月期):全体26%, 企業向け47%, 個人向け32%, モバイル4%, デジタル家電21%
(2004年9月現在)

[ かげやま こういち ]
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