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掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
超高精細液晶モニタを進化させる通信のコンセルジュ
「NTT東日本」

影山幸一
 モニタが進化している。よいコンテンツは、優れたモニタを探し、モニタの技術発展がコンテンツのクオリティを高めて行くようだ。美術館学芸員も美術ファンもモニタで美術作品を見る機会が多くなった。
「鑑賞に値し、プロが作品を判断するとき用いることのできるレベルの高品質な画像である」とホイットニー美術館のデビッド・ロス元館長も絶賛したというパソコン4倍以上の解像度を持つSHD(Super High Definition Image Communication System)画像システム(超高精細画像通信システム)のモニタがある。

 NTT(日本電信電話(株))には、NTT法という法律があるのだと言う。製造ラインを持たず、技術開発を行なって開示していく義務があるのだそうだ。NTT東日本(東日本電信電話(株))、NTT西日本(西日本電信電話(株))、NTTコミュニケーションズ(株)(株)NTTドコモ(株)NTTデータ、そのほか持株会社帰属グループなど合わせて433社(2004年10月1日現在)、連結ベースの従業員数が20万人を超す日本最大の電気通信事業者グループが生み出したモニタである。

 原物の再現性を高めて作品の美しさをモニタで表現するためには、デジタルアーカイブ(コンテンツ)そのものが良くなければならないが、ハードウェアである画像表示機器への配慮が必要である。特に美術作品を表示する際には、色・形・質感が原物と一致されるかに注意を払い、目的、場所、予算などに応じて画像表示機器を選択することになるだろう。NTT東日本では、超高精細液晶画像モニタを、航空管制や遠隔病理診断、CAD、美術観賞を対象にSHD画像表示システムとして販売を行なう。通信のコンセルジュ・NTT東日本が提供する通信端末の高画質モニタであり、2005年1月現在28インチモニタのスペックでは世界最高値。製品開発にあたったのは、「NTT未来ねっと研究所」(以下、未来研)である。

NTT未来ねっと研究所横須賀研究開発センタ
NTT未来ねっと研究所
横須賀研究開発センタ
 未来研はNTTの3つの研究所(サイバーコミュニケーション総合研究所・情報流通基盤総合研究所・先端技術総合研究所)の中の先端技術総合研究所に属し、横須賀と武蔵野にある。丘の上にそびえ立つ横須賀研究開発センタを訪ねた。NTT東日本ビジネスユーザ事業推進本部公共ソリューション営業部の本郷眞啓(まさひろ)氏(以下、本郷氏)と大塚智子氏、そして2000年にSHD画像システムを開発した、未来研の第一推進プロジェクト・プロジェクトマネージャ藤井哲郎氏(以下、藤井氏)に改良を重ねながら進化しているSHD画像表示システム、SI-DL5M(Super Image Digital LCD 5Million)とSI-DL4Mの2機種あるモニタのうち、特に500万画素(2,560×2,048画素)を超える最高機種のモニタSI-DL5Mに焦点を絞り、開発から現在までの様子を伺った。

SHD SI-DL5M前面 SHD SI-DL5M裏面
SHD SI-DL5M前面(左)/裏面(右)

中央:NTT未来ねっと研究所の藤井哲郎氏、左:NTT東日本の大塚智子氏、右:NTT東日本の本郷眞啓氏
中央:NTT未来ねっと研究所の藤井哲郎氏
左:NTT東日本の大塚智子氏
右:NTT東日本の本郷眞啓氏
 このSI-DL5Mの特徴を本郷氏は「HDTV*1(High Definition TeleVision、走査線1,125本)と比較して、より細やかな部分まで忠実に表現でき、リフレッシュレート*2(時間解像度、TVは1秒間に30コマ(Hz))が72コマ(Hz)と高いためより本物に近い臨場感を感じられる」と言う。実際にモニタ画面を見ると、パソコンの液晶モニタでは味わえない落ち着いた上質な画像だ。また、開発当時のことを振り返って藤井氏は、「HDTVを超える高画質の映像を表示するモニタを次世代に向けて考えていた」と言う。液晶表示パネルにシャープ(株)の技術を活用するなど、他社の技術と集結してSHD画像システムを完成させていった。SI-DL5Mは、開発がNTTの未来研、製品化がNTT-AT(NTTアドバンステクノロジ(株))、販売元がNTT東日本となっている。最後に、藤井氏が体育館のように広い10階の映像試写場で、現在研究中である「800万画素ディジタルシネマシステム(動画版SHD画像システム)」を見せてくれた。映画館のスクリーンほどの大きさに、3,840×2,048画素のデジタル映像の画面が隅々まで鮮やかではっきりと映し出され迫力がある。まだアナログ映像に慣れた目にはきれいすぎるのか、無機質で表面的な印象が残る。アナログ映像の質感の存在を懐かしむか、それともデジタル映像の質感に馴染むか、アナログとデジタルの2つの映像表現を選択できる時代の嬉しい悩みである。

 IT関連製品の技術開発が激しくなっている中、SI-DL5Mの競合製品が出てきている。IBMの22インチ922万画素のTFT液晶デジタルカラーモニタやプラズマディスプレイ*3、一般のPCモニタなどが精度を上げてきた。SI-DL5Mを使ったSHD画像システムは、顧客の要望に合わせてシステム構築を行なう。そして、他社のシステムと組み合わせた際に不都合が生じる可能性がないよう、SI-DL5Mだけの販売は行なっていない。一般にこのモニタを体感できる施設は少ないが、NTT東日本岩手支店が担当している岩手県立美術館では前モデルのモニタが設置されている。

岩手県立美術館デジタルレファレンス
岩手県立美術館デジタルレファレンス
 岩手県の新しい美術文化創造の核として、JR盛岡駅西側の中央公園内に、2002年岩手県立美術館が開館した。萬鐵五郎、松本竣介、舟越保武を柱とした郷土作家の作品を中心に収集・展示し、同時に国内外のさまざまなテーマによる企画展を開催。この2階にあるデジタルレファレンスには、照明を落とした小部屋の中に同機種の鑑賞用モニタが2台設置されている。作品が収蔵庫に保管され、展示されていない場合でも画像データベースを利用して、このモニタで作品を原物より大きく拡大し、細部を鮮明に見ることができる。美術館においては、実物の作品を鑑賞することが第一義であるが、そのとき作品を見た感動と共に新たな好奇心が生まれる。岩手県立美術館の画像データベースのモニタは、ハイビジョン画像の約200万画素に対し、2倍の400万画素の高解像度で画像が見られるというだけではない。視認距離と画面の高さから割り出された画面サイズが、視角範囲に適合した28インチ。作品鑑賞に集中できる環境を作り出している。さらにCRT(Cathode Ray Tube、ブラウン管、導入時には液晶がなかった)モニタにも関わらず、1秒間に60コマ(Hz)のリフレッシュレートがちらつきを少なくしている。実物に近い臨場感を体感させてくれるモニタである。

 将来、個人ユーザーが単体製品として購入できるような、超高精細液晶モニタをNTTには開発してもらいたいと思う。本郷氏の理想は一家に1台超高精細液晶モニタを入れて、光ファイバーにより配信されたコンテンツを自由に楽しんでもらうことだと言う。一方藤井氏は800万画素ディジタルシネマシステムを完成させて、コントラストの強い100インチモニタで映画を見てみたいと夢を語る。まずは博物館・美術館がデジタルアーカイブを構築しなければならないが、『デジタルアーカイブ白書2004』によると、デジタルアーカイブを実施している博物館・美術館は29.4%(2004年1月9日現在)に留まっている。国内の美術館の中でも岩手県立美術館は情報化機器の整備が進んでおり、学芸員の調査研究用にもSI-DL5Mを1台導入している。デジタルアーカイブされたコンテンツである画像が、鑑賞から研究まで活用できるのは、高精細画像表示を実現している端末のモニタがあるからである。美しく貴重な作品を自由にリアリティをもって見られる日常が日々近づいてきている。


*1:High Definition Television。通常のTV映像(NTSC)に比べ、より高精細なTV映像。NTSCが縦480×横720画素で構成されるのに対して、HDTVは縦1,080×横1,920画素と、6倍以上の高精細度を持つ。画面の縦横比率は16対9。
*2:モニタ表示において、画面を書き換える1秒間の回数を表わした値。数値が低くなると、画面の点滅(フリッカー)で目がちらつく感じになる。
*3:2枚のガラスの間にヘリウムやネオンなどの高圧のガスを封入し、そこに電圧をかけることによって発光させる表示装置。発光する原理は蛍光燈と同じで、バックライトなど光源を必要としない。他の方式に比べてコントラストが高く、視野角が広いという特徴がある。高い電圧が必要なのでノートパソコンなどには向かないが、大型化・薄型化が容易なことから壁掛けテレビなどへの応用が期待されている。PDP(Plasma Display Panel)と呼ぶ場合もある。


■超高精細画像液晶表示システム SI-DL5M 概要
有効表示サイズ 28.3インチ(横56cm×縦45cm)
解像度 2,560×2,048画素(525万画素)
色階調 1,670万色 True Color
画素ピッチ 0.219(H)×0.219(V)mm
画素密度 116ppi
リフレッシュレート 72Hz
コントラスト比 400:1
アスペクト比 5:4
輝度 225cd/平米以上
視野角 水平170゜、垂直170゜
システム電源 AC100V〜240V 50/60Hz
消費電力 190W(MAX)
動作温度・湿度 0〜45℃、95%Rhmax
外形寸法 630(W)×676(H)×343(D)mm(デスクトップバージョン)
重量 約50kg
対応OS Windows2000、WindowsXP、Solaris、MacOS、Linux(予定)
価格 顧客に応じたシステム販売のため、その都度金額を出す。数百万円という目安

■会社概要
会社名:東日本電信電話株式会社(NTT東日本)
設立年:1999年7月
資本金:3,350億円
資本構成:日本電信電話株式会社 100%出資
経常利益:97,853百万円(2003年4月1日から2004年3月31日)
社員数:14,900名
代表取締役社長:三浦 惺
本社:東京都新宿区西新宿3-19-2
支店:東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城、栃木、群馬、山梨、長野、新潟、宮城、福島、岩手、青森、山形、秋田、北海道
事業内容:東日本地域における地域電気通信業務、及びこれに附帯する業務、目的達成業務、活用業務
文化活動:「逓信総合博物館(ていぱーく)」「NTT Group Presents N響コンサート」「NTTインターコミュニケーション・センター」の支援、運営など文化活動を推進
(2004年3月31日現在)

(資料提供:NTT東日本、岩手県立美術館)

2005年1月
[ かげやま こういち ]
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