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掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
Some Rights Reservedへ──著作権を創造する共有地
「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」
影山幸一
 著作権が徐々に開かれてきている。アメリカに生まれた「Free Culture」という概念である。デジタルの著作物に対する「コピー禁止」から「条件によってはコピーも可能」な状況を共有するというものだ。それを日本人がどのようにオリジナルなものに高めてゆけるのか、固まりがちな傾向にある日本の著作権に雪解けをもたらす微熱を感じる。美術館・博物館におけるデジタルアーカイブの構築にとって著作権は、予算、人と並ぶ、3大問題点の一つとして根強くある。人の問題では、最近デジタル・アーキビストという新しい人材を養成していこうとする動きがある。また、ブログの急速な広がりによって、ブログを通して著作権法を考え、問う契機を生んで来たのが、今日的変化であろう。ブログのスピーディさとトラックバック機能が表現の連鎖を誘発させている。便利なツールであるブログは、ホームページではスムーズにいかなかった連携や即時公開性で、手軽な創作・表現を可能とした。日本にもオリジナルな、ブログ以前からの著作物を利用しやすくしようとする動きはあった。例えば、文化庁の自由利用マーク 、林紘一郎教授(情報セキュリティ大学院大学副学長・教授)の(d)マーク、(社)コンピュータソフトウェア著作権協会のNOCOPY・DIPTマークなどにその例があるが、しかし、静かに世界的規模の広がりを見せているのが「Free Culture」を推進するクリエイティブ・コモンズである。2005年3月8日『クリエイティブ・コモンズ デジタル時代の知的財産権 』(NTT出版)が発刊された。文化を守りながら、文化の創造の障壁ともなっている現在の著作権。デジタルがアナログ界の日本の著作権にヒントを与えている。

土屋大洋氏と鈴木謙介氏
クリエイティブ・コモンズ・ジャパンで活動しているGLOCOMの土屋大洋氏(右)と鈴木謙介氏
 東京・六本木ヒルズにほど近い国際大学グローバル コミュニケーション センター(以下、GLOCOM)で、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(以下、CCJP)の活動をしているGLOCOM客員研究員の土屋大洋氏(以下、土屋氏)と、研究員助手の鈴木謙介氏(以下、鈴木氏)に最近のクリエイティブ・コモンズ動向について伺った。1991年設立のGLOCOMは、日本社会と情報社会を研究対象とする社会科学専門の研究所である。最新の情報通信技術を活用することで政策提言や教育関連プロジェクトを含むさまざまな研究活動を行なっており、CCJPのホストでもある。クリエイティブ・コモンズとは一体何なのか。単刀直入に聞いてみた。「All Rights Reserved(すべての権利が留保される)をデジタル時代に相応しいSome Rights Reserved(いくつかの権利が留保される)に変えていくことであり、そのための著作権を考える場や時間を作るなど、著作権の有効活用を進めていく活動全体を指す」と土屋氏が丁寧に説明してくれた。反著作権の立場ではなく、誰もが著作権を有効に利活用できるように、創造的な行為を行なえる共有地をインターネット上に作り広げていく目的がある。発案者は米国スタンフォード大学ロースクールのローレンス・レッシグ教授 (Lawrence Lessig,以下、レッシグ氏)。クリエイティブ・コモンズの中では、チェアマン(理事会議長)として世界的に活躍している。憲法学者のレッシグ氏が2002年5月から米国国内で進めているこの活動をGLOCOM主任研究員の上村圭介氏と上記(d)マークの林紘一郎教授(GLOCOM特別研究員併任)らが2003年初めて日本に紹介した。

ローレンス・レッシグ氏
ローレンス・レッシグ氏
(出典:http://www.lessig.org/のPress Photos)
 米国のクリエイティブ・コモンズがNPO法人であるのに対し、CCJPはGLOCOMの研究員が中心に活動する任意団体。米国クリエイティブ・コモンズと正式にMOU(覚書き)を交わした世界で最初の団体であるものの、主だった組織は作っておらず、ホームページやブログを通じてクリエイティブ・コモンズの現状を翻訳・情報発信するというボランティアとプロボノ(ラテン語で公益。法律関係者が多く使用する用語)活動がメインとなっていると言う。CCJPは米国クリエイティブ・コモンズの支部や独立した組織ではなく、MOUに基づいて活動しており、そのわずかA4サイズ1枚のMOUには、米国のライセンスを翻訳することと、日本に対応したライセンスを開発すること2点のみが簡潔に記されていると言う。クリエイティブ・コモンズのロゴマークを普及させたり、レッシグ氏をプロモートしているのではなく、デジタル化が進む社会に適合した著作権を共に考えようということである。多くの人と著作権について議論し、著作権者と利用者双方に有効な権利のあり方を、コミュニケーションしながら模索していくことが大事であると土屋氏は話す。
 著作権とは何か、整理しておくと、著作権は著作財産権と著作者人格権の2つから構成されており、著作財産権は死後50年の権利期間で権利の譲渡ができる。一方、著作者人格権は死後も著作者の人格権を侵害してはならず権利も譲渡できない、という両者の違いがある。米国には著作者人格権がない。この点が米国と日本の著作権とが大きく異なる点だと言う。また、デジタルアーカイブでは所有権や肖像権、文化財保護法などにかかわる場合もあるので、著作権以外の法規制にも注意が必要である。さらに、役所の文書は誰の著作権かといった法のグレーゾーンの存在がある。複製はしていいが販売は禁止、慣例ではいいが法的には禁止、他にも教育的な利用や個人で利用する場合の扱いに不明確な部分が多い。しかし、すべてを明文化し、規制することがいいわけではないだろう。鈴木氏は「著作権を議論するときは、財産権と人格権を明確に切り離して、問題をすり替えないことが大事だ」と倫理規定を設けつつも、文化を育てていくためにはコミュニケーションが取れる状態を保つ必要性があると語る。

 クリエイティブ・コモンズの活動が、コンテンツの自由な利用と共有を図る上で生じる問題のすべてを解決できるわけではない。たとえば、クリエイティブ・コモンズの提供するライセンス(使用許諾)が、実際にライセンス通りに正しく利用されているのかどうかを確かめる手段はない。また、ライセンスを一度付けてしまったコンテントはそのライセンスを外すことができない。最初が肝心で勇気が必要と土屋氏は言う。法的なアドバイスも裁判にもCCJPは参加しない。そして、土屋氏はCCJPの課題は、一貫性を確保するために必要なことではあるものの、ライセンスの選択を米国のWebサイトで行なうという不便さを挙げた。米国の一元管理に抵抗がある人もいることだろう。

 それでも、このような活動を通じて、他人の著作物を利用し、共有できるコンテンツを増やしてくことは重要であり、誰もが情報の受け手になると同時に送り手になる時代の、知のイノベーションを守るための第一歩と考えられる。著作権の許諾を得る煩雑なプロセスを簡略化するクリエイティブ・コモンズのライセンスは、単にロゴマークを貼るに留まらず、法廷でも効力がある法的コードやメタデータ(RDF記述形式)のデジタルコードといった法律的・技術的な裏付けをもつ。コンテンツの著作者が「自分はこのように使ってほしい」という意思を主体的に宣言するためのメタデータとしてとらえておきたい。

 デジタル手段でコピーガードするDRM(Digital Rights Management)から、権利を選択して主張しておくDRE(Digital Rights Expression)へと著作権問題解決の土台が作られ、さらに利便性によって創造意欲に満ちた情報社会が実現しそうな勢いを感じる。レッシグ氏の作品ともとらえられるこのクリエイティブ・コモンズの活動は、2005年4月からブログを使った「iSession Creative Domain プロジェクト」の名で普及速度を増していく。美術や音楽の領域を超えたすべてのクリエイターに向け、著作権を活用した作品公開が展開される。創造力を活性化させ、コンテンツ再生循環型システムを作る、「アーティスト自身が、自分の作品を、自分で管理し、流通させ、評価される」。アーティストと利用者がWin-Winの関係を築ける可能性が大きい。PCとブロードバンドが整備されてきた今こそ、このプロジェクトを実行するとき、と準備に忙しそうな鈴木氏は言う。鈴木氏の切り開く「アートの場」に注目。

 組織名・概念名・活動名でもあるクリエイティブ・コモンズに参加する方法は、独自に制作したコンテントをクリエイティブ・コモンズが提供している各種のライセンス によって公開し、クリエイティブ・コモンズのコンテントを増やしていくこと。そして、もうひとつはクリエイティブ・コモンズのコンテンツを再利用し、クリエイティブ・コモンズの輪を広げていくこと。クリエイティブ・コモンズのロゴマークをコンテンツに貼り付けて公開するというものなのだが、実際には少し手間が掛かる。コンテンツをクリエイティブ・コモンズとして公開するときには、まず、そのコンテンツの再利用に関する条件の組み合わせを選ぶ必要がある。4つの条件(下記の表参照)で11通りの組み合わせがあり、それに対応した6つの国内用ライセンスが用意されているので、それを選択してロゴマークを貼る(無料)。日本法準拠版ライセンス公開バージョンは現在2.1が公開されている。現在はあらかじめ準備されたロゴマークはなく、参加者がロゴマークをトレースするなど工夫して作ることになる。

シンボルマーク 条件
帰属:
あなたは原著作者・実演家のクレジットを出さなければなりません。
非営利:
あなたはこの作品を営利目的で利用してはなりません。
派生禁止:
あなたはこの作品を改変、変形または加工してはなりません。
同一条件許諾:
もしあなたがこの作品を改変、変形または加工した場合、あなたはその結果生じた作品をこの作品と同一の許諾条件の下でのみ頒布することができます。

 2005年3月1日、国立美術館4館の図書目録情報「独立行政法人国立美術館所蔵作品総合目録検索システム(試行版) 」が公開された。目録数22,002件に対し、画像数は1,695件と少ない。画像公開にあたり著作権処理などが滞っているらしい。昨年公開された「文化遺産オンライン 」でも同様な状況が想像できる。2006年度までに美術館・博物館1,000館の参加を求めているが、公開から1年間で50館に至らず出足が悪い。ここも著作権の問題があるに違いない。CCJPの鈴木氏は音楽を例にデジタルアーカイブの課題を示す。「ラジオで音楽を1曲流しても音質が劣っているので著作権が問題になることは少ないが、同じ曲でもCDにコピーすると問題になる。画像も同じでPCモニタのサムネイルなら問題はないが、PCモニタの画面一杯にTIFF形式画像が表示されていれば問題が起きる可能性が出てくる。デジタルアーカイブは技術的な水準を含めていろいろなオプションを選べるはずだ。音質や画質のどのレベルが問題になっているのかなど今後検討する課題はたくさんある」と言う。著作権保持者と利用者が共に有益な関係を築いていけるのか、そのためには何をなすべきか、CCJPの活動の高まりが日本の文化度の指標ともなりそうだ。弁護士だけではなく、アーティストや学芸員、そして私たちも、ゆるやかに動き始めている著作権問題に関心を寄せよう。

■参考文献
ローレンス・レッシグ著 山形浩生・守岡桜訳『FREE CULTURE』2004.10, 翔泳社
「Creative Commons@Japan 日本の「クリエイティブ・コモンズ」の可能性─創造的な著作物の共有地を広げよう」『HotWired Japan』2003.12(http://hotwired.goo.ne.jp/matrix/0311/001/
萩原恒昭「著作権及びその他の権利問題<最近のデジタルアーカイブに関する権利動向>」『デジタルアーカイブ白書2004』p.140-p.143, 2004.3.31, 発行:デジタルアーカイブ推進協議会,発売:(株)トランスアート
上村圭介「クリエティブ・コモンズ―知のイノベーションを守るために」『CNET Japan』2003.7(http://japan.cnet.com/column/pers/story/0,2000050150,20059809,00.htm
先田千映「クリエイティブコモンズとは」『iNTERNET magazine』2003.4(http://internet.impress.co.jp/im/pdf/cc.pdf
『デジタルアーカイブ権利と契約の手引き 契約文例+Q&A集』2003.3, 発行:デジタルアーカイブ推進協議会,発売:(株)トランスアート
デジタルアーカイブ〈権利問題と契約文例〉 』2001.3, デジタルアーカイブ推進協議会
クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(http://www.creativecommons.jp/
レッシグブログ日本語版(http://blog.japan.cnet.com/lessig/


2005年3月
[ かげやま こういち ]
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