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Acquisition Method──採取の技法 #4
田中浩也
前号の最後で、今月よりゲストインタヴューと対話を行なうと予告しましたが、予定を変更してもうしばらく道具(デヴァイス)についての思索と紹介を進めていくことにします。

「種類」の拡大に向けて
 視覚メディアの誘惑はやはり、抗いがたく、強い。現在の“実世界データ採取→アーカイヴシステム”として、「デジタルカメラ」と「GPS」と「タグづけ」の組み合わせは、言うまでもなく「最強」のものなのであろう。しかし、都市から採取可能なデータは、視覚的なものに限られるわけでは、もちろんない。さらに多種類のフォーマットが広がっていけば、新たな「採取の豊かさ」とでも呼ぶべきものが導き出されるのではないだろうか? この方針に沿って、視覚以外のメディアに考えを拡げていきたい。カメラの次に思いつくのは、ヴォイスレコーダによる音の採取、であろう。これは今すぐにでも、少なくない数の人が実践可能なはずだ。都市は音に満ちている。「音楽表現」として編集される前の、“生の”音が魅力的なのは、それが「コト=出来事」と一体になっているからである。あらゆる行為や運動は、それが何らかの物理的な「摩擦」や「衝突」や「振動」を伴う限り、ほとんどすべての場合にパーカッシヴな「音」を発生する。それが「物音(ものおと)」である。行為/運動から物音は発生し、物音は行為/運動を想像させる。都市をさまざまな活動や行為(機械音のノイズを含む)の重層体と捉えてよいならば、輻輳した音環境に耳を澄ますことは「無数の運動が積算された都市」の実感を直接的に生み出す経験であるだろう。

聴覚体験の拡大に向けて
 たとえば、私たちが都市の中である印象的な「音」を聴き、それをデータに残したいと思ったとする。ヴォイスレコーダをおもむろに取り出し、それを録音して再生してみる。しかし、ほとんどの場合、そこには意図した音は録音されていない。喧騒が聞こえ、巨大なノイズが残る。無意識的にマスキングしていた、無数の「それ以外の音」の存在こそが、逆説的に明るみに出る結果となる(それはそれで、個人的なフィルタの枷を外した、都市の実質を理解するための、ある種の豊かな体験ではある)。しかし、私たちの意識のフィルタを通過して「聴こえた」音だけをデータに記録する方法はあるだろうか? 私はこれから2つの方法で、その問題に対処する新たな採取デヴァイスを開発しようと考えている。ひとつは、通常の録音機器とは切り離されている音の加工・編集機能、すなわち任意の周波数帯のみを抽出するような「バンドパス・フィルタ」や「フーリエ変換」等の機能を、「録音機器」に合体させてしまうことだ。現場で直接、記録したい周波数帯のみにチューニングを合わせて、音を取り込んでしまう、ラジオの延長上にあるような道具。翻って言えば、そういう道具によって、さまざまな周波数帯を分別しながら、都市に溢れる音の「実質」を「微細」に聞き分けることができるようにもなるだろう。もうひとつは、小さ過ぎて記録できない音に対して、その音の発生源を見つけて、その大もととなる運動や行為にダイレクトに素子を取り付けてしまうという方法。空気を伝播してくる音の振動ではなく、源にある物理的な振動をできるだけ直接取り込むことが好ましいだろう。この「発生源を見つける」という逆探査のプロセスが、都市に対する新たな発見を生み出していくような予感がある。
(このように、本連載では、簡単に記録できる「データ」そのものよりも、本当に欲しいデータを「記録する」ために生じる新たな/ちょっとした「手間」の発生=「能動的経験」の可能性と、そこから生まれるアーカイヴィングの将来にフォーカスしている)

Audio Monitoring/ Audio Processing
採取デヴァイス
図1:iPODをハッキングして開発中の、
新たな都市採取デヴァイス
 ところで近年のユビキタスコンピューティングの分野では、振動・運動するモノに直に取り付けた複数の小型素子によって「コト」を判別する研究が注目を浴びている。たとえば、喉や顎に素子を取り付ければ、そこで記録された信号(波形)のカタチを総合的に処理することによって「何を食べたか」が相当な精度で判別できる。アカデミックドメインでもそういう方法が注目を浴びているのだが、同時並行的に、ストリートカルチャー/ミュージック(ポップからノイズまで)でもそうした「物音」に関する感受性が高まっているかのように思われる。ここで具体例を挙げることは割愛するけれども、「コト」を想起させるような音楽への着目と言えるだろうか。私は「都市のデータ採取」という目的から、「都市の出来事の記録」として改めて「音」に注目する。摩擦や振動や衝突を、できる限り生のまま取り出して記録してみたい、と考えている。静的なデジタルカメラの画像を補完するような、オーディオクリップを、採取できるだろうか。
 今回説明した構想の実装編−新たな採取デヴァイスの装置紹介と実験結果は、次回のお題とさせていただきたい。

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田中浩也 http://htanaka.sfc.keio.ac.jp/
[ たなか ひろや ]
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