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戦略的デザイン
──デジタルアーカイブによる新たなコミュニケーションのために
須之内元洋
 文化資産のデジタル化が盛んに行なわれるようになって久しく、デジタルアーカイブの構築を推し進めることよって文化資産情報へのアクセスを容易にし、オープンな情報資源として公開・共有していこうとする動きは一般的なものになりつつある。近年、各地の地方自治体、美術館、博物館などが主体となって幾多のデジタルアーカイブ・プロジェクトが試みられ、ウェブ上で地域の魅力を発信したり、閲覧者が自由にミュージアムの収蔵品を検索したりすることは、もはや当たり前のように行なわれている。ところが、各地で次々とデジタルアーカイブが生成される一方で、アーカイブ間のデータの非互換性、アーカイブ構築プロセスの不明瞭性や未熟な著作権処理に起因するデータの信頼性低下、そして日々進化するネット環境における相対的な情報価値の低下、あるいはファインダビリティの欠如など、構築プロセスや技術面における新たな課題が明らかとなりつつあるし、デジタルアーカイブを媒介として運用主体とアクセスする者とがコミュニケーションを行なうという前提にたったシステムデザインが不十分であるために、生成される一方で継続した利活用が難しく、文化資産の価値化に繋がりにくいといった問題に直面している。
ニーズに基づいたデジタルアーカイブの構築
EPOCH
「EPOCH」トップページ
 こうした状況のなか、4年間で7,880,000ユーロを投じて、2004年3月に開始されたプロジェクトEPOCH(European Research Network of Excellence in Open Cultural Heritage)は、文化遺産に関連する各分野の具体的なニーズに基づいて、情報コミュニケーションテクノロジの現状分析と将来の方向性を研究していこうとするプロジェクトである。これまで、情報技術の専門家によってデジタルアーカイブ・プロジェクトが主導されることが多かったために、情報技術のコンテクストにおける研究が先行しすぎたという批判とともに、次々とデータが生成される一方で活用が難しいというデジタルアーカイブの状況を憂慮し、特に自治体などの行政、ミュージアム、研究教育機関といった、文化資産に関わる人々の具体的なニーズに基づいた研究テーマを重視している点が特徴である。デジタルアーカイブの構築によって、アーカイブの運用主体がどういった状況を作り出したいのかというニーズを整理して、そこを起点として戦略を考えることは、個別の事例を積み重ねるのでなく、デジタルアーカイブのプロセスに関するノウハウや成果を共有し発展させるためにも有効な手段ではないだろうか。
コミュニケーションテクノロジとしてのデジタルアーカイブ
 文化資産を運用する主体とその文化資産へアクセスする者とがコミュニケーションをとるためのテクノロジがデジタルアーカイブであるという見方にたてば、そこで繰り広げられるコミュニケーションのためのメディアをデザインすることが、デジタルアーカイブの戦略を考えるための一助となりそうである。
 ところでわれわれのコミュニケーションは、声、身振り、テキスト、写真などなんらかの手段によって、われわれの内に生成されたイメージを外在化された情報に変換し、その外在化された情報を互いに交流させることで成り立っている。ウェブの世界においては、声や身振りといった身体的コミュニケーションは介在せず、コンピュータで扱えるようにHTMLにコード化された(さらにいえば文字コードによって0と1にコード化された)テキストによって、あるいは別のコード(あらゆるプログラム)によって制御されるコード化された音や映像によって、コミュニケーションが行なわれている。さらにいえば、ウェブに限らずインターネットというネットワーク自体が、コードによって制御された基盤の上に成り立っており、ネットワークに接続されたデジタルアーカイブによるコミュニケーションの可能性を探っていくためには、文化資産のコード化、コード化された情報の複製加工や編集、編集された情報のネットワーク発信といったさまざまなメディア技術との関係性のなかで考えていく必要がある。
 継続的にデジタルアーカイブが機能して、そこにある文化資産が価値を生み出し続けるためには、アーカイブの運用主体の内に生じるメッセージやイメージをその都度外在化して、継続的にコミュニケーションを行なっていく必要がある。しかしはたして現在のデジタルアーカイブは、われわれのなかに生じたイメージを増幅し、そのイメージを外在化させ、ネットワークを通じてコミュニケーションするという行為に対して、どれだけ貢献できているであろうか。

 これから一年間の隔月連載のなかで、具体的な研究成果や個別事例を挙げながら、コミュニケーションテクノロジとしてのデジタルアーカイブの可能性を探っていきたい。データベースとしてのデジタルアーカイブの性能や信頼性をさらに向上させるとともに、コミュニケーションのためのメディアへと昇華させるために何が必要なのか、そうしたアプローチの一助となれば幸いである。
須之内元洋
1977年生。メディアデザイン。プログラマ。写真家。札幌市立大学助手。
international & interdisciplinary design practice - assistant Co.,Ltd.所属
2007年5月
[ すのうち もとひろ ]
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