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ウェブ環境再考──その可能性と限界を掴む
須之内元洋
ウェブとコミュニケーション
 ウェブはいまだ発展途上のメディアであり、一般家庭からその環境へとアクセスが可能になったのはたかだか、つい十数年前のことである。この十数年でウェブは、一体どのような新たなコミュニケーションの可能性をわれわれにもたらしたのだろうか。アーカイブされた文化資産の価値を最大化し、継続的に機能するデジタルアーカイブを目指し、アーカイブの運用主体による継続的なネットワークコミュニケーションを考えるにあたって、今回はウェブというコミュニケーション装置のテクノロジについて概観してみたい。ウェブ上で繰り広げられるコミュニケーションは、インターネットを行き来する情報と人間とのインタラクションによって成り立つものであり、そのコミュニケーションを支えるテクノロジは、それ単体としてではなく、人間や社会との相互作用のなかで進化し、ウェブという環境を形成してきた。現実のウェブで起こっている事態は非常に複雑な様相を呈し、それと同時に困難な課題を数多く抱えているため、ここではその断片のみを扱うことになるが、コミュニケーション・テクノロジとしてのウェブの潮流を俯瞰してみたい。

インターネットとウェブ
「joost」 専用のP2Pソフトを配布して、ウェブとは異なるレイヤーで映像配信を試みる サービスの例
「joost」
専用のP2Pソフトを配布して、ウェブとは異なるレイヤーで映像配信を試みる サービスの例
http://www.joost.com

 複数の文書をリンクによって関連づけて参照することを可能とする仕組みをハイパーテキストといい、インターネットを経由して提供されるハイパーテキストシステムのことをウェブという。インターネットというインフラの上に成り立つウェブというメディアは、当然のことながらインターネットというテクノロジの構造にその性質を規定される。インターネットの最も根底にある構造を表わしているのは、任意の二つの端末間において通信が基本的に一対一で行なわれるということと、その通信内容を生成したり受信したりする具体的な処理は可能な限りネットワークの終端で行なうというEndtoEndの原則である。この原則によって、通信方法のルールを決め、通信を行ないたい相手のアドレスさえ決めれば、端末の地理的な場所や途中の通信経路を一切気にとめることなく、特定の相手とどんな情報でも好きなやり方で通信をすることが可能となり、ウェブやメールなどコミュニケーションの構造を支えるインフラとなるサービス、さらにはそのサービスに関連して動作するブラウザやメーラー等のアプリケーションを、自在に構築・拡張していくことができるのである。さらにいえばウェブは、W3C等で策定されるルール、端末で動作するブラウザ等のソフトウェアの動向、世界中の開発者によって提供されるサービスやアプリケーション、そうしたテクノロジとわれわれとのインタラクション次第でいかようにも発展する。そして、ウェブとはまったく異なるルールと目的のための、新しいコミュニケーション手段がインターネット上に出現する可能性も、もちろん残されている。

テキスト、イメージ、HTML
  「Weiden+Kennedy の作品アーカイブ」 HTMLでは困難なイメージの構造化や視覚化は、各サイトレベルで Actionscript(Adobe Flash)やJavascriptによって行なわれるのが現状
  「Weiden+Kennedy の作品アーカイブ」
HTMLでは困難なイメージの構造化や視覚化は、各サイトレベルで Actionscript(Adobe Flash)やJavascriptによって行なわれるのが現状
http://www.wk.com/
 HTMLは文書を構造化して記述するためのマークアップ言語であり、ウェブの基本的な機能であるハイパーリンクを記述するための標準的なフォーマットである。写真、映像、音などの非テキストのコンテンツがHTMLの構造の中に参照的に埋め込まれることはあるものの、HTMLの文法によって記述されたウェブは基本的にテキストの空間である。ハイパーリンクが設定されたテキストに導かれ、リンクをクリックして参照をたどりながら、ウェブ空間内の文書へ次々にアクセスするという、非常にシンプルなルールであるが故に、ウェブがここまで爆発的な普及を遂げたことは否定できないし、HTMLという制約のなかで数々の創造が行なわれてきたことも事実である。しかし例えば、テキスト以外のなんらかのイメージを、なるべくそのままのイメージとして伝えようとするとき、あるいは、言語化が困難なイメージを構造化して発信しようとするとき、そこで感じるHTMLとのギャップはいまだに非常に大きい。

アクセスとコピー
 ハイパーリンクをクリックしてページを閲覧することを「アクセスする」というが、そのプロセスで起こっていることを今一度細かに記述してみれば、まず、接続先のサーバに保存されている文書のコピーが生成され、コピーされたデータがネットワークを介して手元のPCのメモリに転送され、画面にドットの集合として再現された像をメッセージとして受け手が認知する、という一連の過程となる。アクセスの数だけ元のデータが複製されコピーが転送されるので、そもそもオープンな技術仕様に支えられたウェブ上で機械的にコピーを制御することは困難である。コンテンツを複製されることをなんとなく懸念するのでなく、そもそもアクセス=複製であるという前提のうえで、メッセージの発信側の戦略を考える必要があるだろう。

検索とファインダビリティ
 距離の感覚が無効なウェブ空間において、アクセスする者と接続先との間(ま)を調整してくれる機能が検索である。ほとんどのウェブの利用者がYahooやGoogleの検索サービスのみに依拠している現状をわれわれは憂慮する一方、メッセージの発信側からすれば、YahooやGoogleの検索結果上位にランキングされないことは世に存在しないことを意味する、という問題も現実に存在する。これまで、空間的メタファーを利用した視覚化技術を検索に応用しようとする試みが幾多もなされてきたが、Googleと選択を争うような結果はいまだ得られていない。リンク、ラベル、タグといったテキストによる意味的距離、ハイパーリンクやさまざまな形態の参照によって計算される構造的距離に依存した検索環境のなかで、メッセージの発信者は当分の間、ウェブ空間における自らのファインダビリティに悩まされるであろう。

 ウェブというコミュニケーション・テクノロジの潮流を俯瞰して見えてくるのは、刻一刻と変化するウェブ環境のなかで、アーカイブとして蓄積されたデータをどのように活用し、その価値を最大化するようにウェブ空間に展開していくのか、今いちどアーカイブ戦略を見直す必要性である。そこから、これからのアーカイブが既存のメタファーを超えた新たなコミュニケーション手段を開拓する可能性も見えてくるのではないだろうか。次回は、デジタルアーカイブのデータのオープン化に着目し、その可能性を探ってみたい。
須之内元洋
1977年生。メディアデザイン。プログラマ。写真家。札幌市立大学助手。
international&interdisciplinarydesignpractice-assistantCo.,Ltd.所属
2007年7月
[すのうち もとひろ]
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