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掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
若手メディア・アーティストたちの活躍
歌田明弘
相次ぐ若手メディア・アーティストの作品展
 若手のメディア・アーティストを集めた展覧会が続いている。本欄でもとりあげたように、2月末のメディア芸術祭、4月11日までやっていた若手から大家まで集めた森美術館の〈六本木クロッシング〉に続いて、4月23日から6月27日まで、初台のNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)が「ネクスト:メディア・アートの新世代」を開催している。
 この展覧会は、メディア・アートを専門とする学芸員5名の選考委員によって12の新進作家・グループを選んで展示されている。60年代から80年代生まれまでの若手で、それぞれの友人たちがやってきたためか、オープニングは、混んでいてにぎやかだった。美術系の大学や専門学校でメディア・アートを学ぶ学生が増え、こうした作品をあつかうミュージアムも出てきている。この若い芸術ジャンルの勢いも感じられるオープニングだった。
 先のふたつの展示と重複して取り上げられているアーティストもいる。ヴィデオ・プロジェクターによるインスタレーション《VHSM: Video/Hack/and/Slash/Mixer ver.1.5》を出品しているエキソニモや、前回メディア芸術祭をとりあげたときに紹介した橋本典久などだ。
 橋本の作品は、パノラマボールやゼログラフと名づけられた写真を球状や円にしており、ICCで展示しているのは、館内を写して円形にしたものだった。木の床が大きくたわんで写っているおもしろさはあったが、メディア芸術祭で展示していたような戸外のほうが空間的な広がりが感じられ、宇宙的な感覚があったように思う。

エキソニモのウェブ・アート――HTMLからの解放
 2人組のアート・グループ、エキソニモは、美術館の展示作品よりも、ウェブ・アートのほうが私にはおもしろかった。実際にアクセスしてみることをお勧めするが、少々ショックが強いので、それなりの心構えはしておいたほうがいいかもしれない。たとえば《rgb f__cker》という作品では、その名のとおり強烈な赤や緑の点滅がウェブ画面いっぱいに展開される。「アールジービーフリ__ッカ ワ ビカビカ ウォ キョゥユゥスル ソフト デス」とその説明ページに書かれている。自分でこのフリッカを作って登録することもできるし、他人の作ったものを見ることもできる。「部屋を暗くして照明にしても良いし、送信してフリッカをサーバに登録してもいいし。思い思いに楽しんでください」とのことだが、テレビのフリッカで具合が悪くなった子どももいるそうだから、そういう心配のある人はやめておいたほうが無難かもしれない。
 そういう心構えとはまた別の心構えも必要だ。プログラムをダウンロードして走らせる《FragMental Storm 02 (FMS02)》を説明を読まないで起動させ、私は一瞬、コンピューター・ウィルス入りのプログラムを走らせてしまったかとあせった。プログラムを走らせるとブラウザがいきなり真っ暗になって全画面表示される。そして、「FragMental Storm 02」という文字が踊り出す。あわててなんとか終了させ、説明文を読むと、こう書かれていた。
 「"FragMental Storm 02 (FMS02)"は、キーワードをもとにWWWを検索し、見つかったデータをバラバラに表示する一種のウェブブラウザです。一般的によく使われているウェブブラウザ(Internet Explorerなど)で見ている画像やテキストは、HTMLというマークアップ言語の指示に従ってレイアウトされ表示されています。FMSは、その命令には従わず画像やテキストをHTMLから解放し、画面上に散乱、表示させます」。
 「FragMental Storm 02」という文字のダンスが終わって出てきたキーワード入力画面に適当な文字を打ちこんで試してみると、これはなかなかおもしろい。説明のとおり、既存のウェブ・ページがサンプリングされて、画面全体に踊り出す。
 あるいはまた、フロントページに並ぶ作品メニューのなかから「SiV」というのをクリックすると、ウェブ・ページが灰色になってポップアップ・ウィンドウが立ち上がる。緑色の電波とも粒子ともつかぬものが交錯しているポップアップ・ウィンドウが金属音とともに上から次々と降りてくる。いきなりはじまるので驚くが、タイトルの「SiV」は「Space-in-Veda」だそうだから、要するにウェブ・ブラウザによるインベーダー・ゲームということなのだろう。降りてくるインベーダー・ウィンドウを“撃墜”ならぬ終了させると、灰色の画面にタイトルが現われた。
 このようにびっくりさせられることの連続だ。《FragMental Storm 02 (FMS02)》の説明には、「このソフトウエアの使用による如何なる損害についても、作者は一切の責任を負いません。ユーザは、自身の責任下において本ソフトウェアを利用してください」と書かれている。はやりの言葉で言えば「自己責任」ということのようだが、私が試してみたかぎりでは、パソコンは無事のようだった、と付け加えておこう。

るさんちまん《「る会 〜生きション〜」》
るさんちまん《第10回「る会 〜生きション〜」》
るさんちまん《第10回「る会 〜生きション〜」》
2004
 さてICCの展示では、エキソニモ同様2人組のアート・グループ、るさんちまんの《第10回「る会 〜生きション〜」》がおもしろかった。「生きション」というのは、四国霊場八十八箇所めぐりで出会った遍路のおじさんから聞いた言葉だそうで、これをシリーズ名にして作品を発表しているらしい。ICCのサイトに載っている写真は以前の回のもので、ヴィデオ作品などもあったようだが、今回は、会場に作られたカマクラのような狭い空間に、どこの家にでも転がっているような置物や写真立て、チューブなどをとりとめなく置いた作品だった。そのとりとめなさが、分裂した意識を感じさせるかのようで、デジタルを駆使した作品よりも惹かれるものがあった。

説明する自由
メディア・アートの展示を見ていつも思うのは、もう少しアーティストによる説明があってもいいのではないかということだ。「絵画や彫刻だって説明しないではないか。言葉はいらない。感じてくれればいい」というのが芸術作品の見せ方なのかもしれないが、絵画や彫刻とメディア・アートはやはり違うのではないか。もちろんアーティストが説明したくないと言えばそれは自由だが、「説明する自由」があってもいいのではないだろうか。もちろん「説明したい。説明まで含めて作品だ」というアーティストの希望を拒否することはないだろうが、たとえばICCなどでは、説明しないのがふつうのようだ。メディア・アートの場合はとくに、作品の批評性を高めるためにも「言葉は邪魔」とばかりはいえないのではないか。少なくともリピーターを増やすことを考えれば、「なんだ、これは」と首を傾げて帰られるのはプラスにはならないだろう。不思議に思って何となく心に残るならいいが、よくわからないものは記憶にも残らず、忘れ去られてしまうのがたいていの場合ではないだろうか。
[ うただ あきひろ ]
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