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掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
あなたの作品を気軽にデジタル・マーケットに出そう
……という時代がやってくる

歌田明弘
コンテンツ流通の未来にかかわる実験的な試み
 日本写真著作権協会のサイトにフォトギャラリーのコーナーが作られ、「常設展」と「企画展」のページができている。
 「企画展」では第1回の企画展として「木村伊兵衛の下町」展をやっている。Flashを使って、作品はもちろん、音声によるコメントが聴ける凝ったページになっている。作品も多く、見ごたえがある。「常設展」のほうは、田沼武能、細江英公、桑原史成ら写真家のページができ、作品やプロフィールを見ることができる。このふたつのギャラリー・ページでは、画像の拡大はできるが、保存やキャプチャ、印刷はできないようになっていて、画像保護が図られている。
 写真著作権協会のサイトではさらに、まだ十分に機能しているとは言いがたいけれど、コンテンツ流通の未来にかかわる実験的な試みが進んでいる。とりあえずいま行なわれているのは写真家のID登録だ。写真著作権協会は、日本写真家協会や全日本写真連盟など7団体の約27,000人が会員になっていて、会員にはすでにIDが発行されているようだ。まだない人も有料で登録できるようになっていて、IDのある写真家はこのサイトのデータベースに自分の作品を登録できる。IDは、レイアウトの関係などで氏名を表示することがむずかしいときに、氏名に代えて掲載してもらうといった使い方もできる。
 写真を利用したい人は、このサイトのデータベースで写真家名かIDで検索し、目当ての写真家を見つけたら、その写真家のページで、プロフィールやサムネイル画像を見ることができる。もっとも、今年4月にできたばかりのせいか、プロフィールや作品を載せている写真家はまだ少ないようだ。スターターキットを購入したり、画像保護をして作品登録するのに費用がかかるから、コストに見合ったメリットがなければなかなか作品登録されないのだろう。
 日本写真著作権協会のサイトではさしあたりこのように登録や写真家の検索ができるだけだが、これは文化庁が今年1月に行なった「バーチャル著作物マーケット」の実証実験がもとになっている。「バーチャル著作物マーケット」は、利用者が登録された作品を検索し、作者とネットで連絡をとりあって条件を交渉し、契約書を交わしたうえで作品をダウンロードして利用する仕組みである。文化庁は、このようにしてコンテンツ流通を促進しようと考えているわけだ。同庁のサイトには、この実証実験についてFlashを使った解説ページもできているのでアクセスすると、概要が簡単にわかる。

誰でも作品制作の見返りを得られる市場
 実証実験は、お金のやりとりまではしなかったが、写真関連の団体から参加者を募り260作品が登録され、プロ・アマの写真家、作品を利用したい企業人など220人ほどが登録して行なわれた。実証実験でのコンテンツは写真だけだったが、イラストやCG、音楽、映像、小説と多様なコンテンツについてのバーチャル市場がイメージされている。こうしたマーケットができれば、コンテンツの流通は一変するだろう。現在は、プロ・アマ問わず、誰でもウェブで作品を公開することはできるが、その利用者を見つけ、報酬を得ることはむずかしかった。こうしたマーケットができれば、アマチュアでも、作品のでき次第で簡単に創作の見返りを得ることができるようになる。プロになる多様な道が開けるだろう。
 美術館もまたその役割を変える可能性がある。美術館は作品を保管し入場料をとって見せるだけでなく、もう一歩踏み込んだ活動もできる。たとえば、創作者から権利を依嘱してもらって、作品の利用方法まで考える管理者になることも考えられる。現在の美術館でも、作品のポスターや絵葉書を売ったりしているわけだが、自分で利用条件をつめるのが面倒なアーティストに代わって、企業のウェブ・ページやポスターなど広範な利用について交渉をまとめる窓口になり、アーティストに使用料を払うといったことをしてもいいかもしれないし、あるいはまた美術館自身がこうしたマーケットの運営者になることもありうるだろう。
 実証実験ではとりあえず国がマーケットの運営主体になっていたわけだが、写真著作権協会もさしあたりはIDの発行や作品登録だけとはいえ近いサービスをはじめているわけで、いろいろな組織が著作物マーケットを運営するといったことは十分に考えられる。マーケットの運営者は著作物の管理をするわけだから、それなりに信用のある組織でなければまずいだろうが、将来的には国が一元的にやるのか、あるいは多くの組織が「市」を開くようになるのかは選択の余地があるところだ。

さまざまな「コンテンツ市場」がネットに立つと……
 利用者にすれば、あちこちのサイトにアクセスしなければならないのは面倒である一方、それぞれ特色のあるマーケットができれば、それはそれで楽しそうだ。あるマーケットは、お金をたくさん持っていないと近づきにくいけど、こちらのマーケットはもっと気楽に立ち寄って、若者たちがお小遣い程度で自分のウェブ・ページを飾る写真やイラスト、音楽の利用を申しこめる……などといったふうに差別化していくかもしれない。いろいろなマーケットの作品を横断検索できる仕組みがあれば、マーケット・サイトがいくつあっても不便はないだろう。
 さしあたりバーチャル・マーケットは、すでに報酬を得る方法を見つけてしまったプロたちよりも、まだこれからデビューしようという若いアーティストたちに向いているかもしれない。すでに成功してしまった人たちは、ミュージシャンなら音楽会社、作家なら出版社と、作品流通のための組織とすでに関係を持っていて身動きしにくいということもあるだろう。しかし、これまでまったくお金の入ってくる当てのなかったアーティストの卵たちならとりあえず利用してみても損はない。
 美術館も、お金がないことを嘆くばかりでなく、若いアーティストのデビューを助け、デビューさせたアーティストの作品をコレクションに加え、さらに再利用や再創造を手助けすることを考えてもいいのではなかろうか。
[ うただ あきひろ ]
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