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掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
大統領選挙のテレビ広告展
歌田明弘
アメリカ動画博物館のオンライン展示
 こんどのアメリカの大統領選挙では大量のテレビ広告が投入されたという。日本にいるとなかなか見る機会がないが、ニューヨークにあるアメリカ動画博物館のサイトの「お茶の間の候補者」と題した“オンライン展示”では、1952年から今年の大統領選挙までのテレビ広告を見ることができる。
 1952年はトルーマンが再出馬を断念し、共和党のアイゼンハウアーが大統領になった年だ。このサイトの説明によれば、この年に大統領選挙のテレビ広告が始まったという。全米のテレビ所有世帯が40万だった前回48年の大統領選挙のときには、「品位がない」とスポット広告を拒否した候補者もいたそうだが、テレビ所有世帯が1900万に増えた52年には、アイゼンハウアーは演説よりもスポット広告を重視する選挙運動を展開した。マジソン街の広告の専門家の意見を聞き入れて、人気番組「アイ・ラヴ・ルーシー」の前後に、「アイゼンハウアーがアメリカに答える」というシリーズ広告を打った。世論調査でとくに有権者の関心が高かった3つの話題──朝鮮戦争、政府の腐敗、生活費の高騰──についてふつうの市民に質問させ、アイゼンハウアーが答えるという広告で勝利を導いたと説明されている。
 また、1952年のページの筆頭にある有名な「アイク[アイゼンハウアーの愛称]を大統領に」という広告などは、軽やかな音楽に乗ったディズニー・アニメそのもので、とても選挙テレビ広告元年に作られたとは思えない。ただ、広告のはじめに「お金をもらった政治広告です」とわざわざ“お断わり”を入れているところなどは、視聴者がまだ「広告慣れ」していないことを感じさせて初々しさを漂わせている。
 1952年のテレビ広告だけでも、共和党、民主党それぞれ6つずつ収録されている。いずれの年についても、選挙の背景と、それぞれの候補者に即した解説、それに選挙結果が載っている。

恐怖広告
 この“展示”では、年代順だけでなく、コマーシャルの種類や争点といった内容別にもアクセスできるようになっている。争点は、「市民権」「腐敗」「生活費」「税金」「戦争」「福祉」のコーナーがあり、コマーシャルの種類としては、相手の言動を使って攻撃するブーメラン広告「バックファイア広告」「伝記的広告」「子ども」「最高司令官」「ドキュメンタリー」「恐怖」「実在の人々」といった分類になっている。
 たとえば、「子ども」というページを開くと、冒頭に、有名な広告「ピース・リトル・ガール(デイジー)」が出てくる。これは、ケネディ暗殺後、大統領に就任したリンドン・ジョンソンの64年の選挙戦で使われた広告だ。小さな女の子が花びらをちぎりながら、「1、2、3……」と数えていくと、途中からカウントダウンの声に変わって数字が減っていき、「ゼロ」の声とともに核爆弾が爆発する。ジョンソンの声で、「これは賭けだ。神の子たちみんなが生きられるか、暗黒にたどりつくか。われわれは互いに愛しあわなければならない。さもなければ死ぬことになる」というナレーションが入る。「デイジー」と通称されるこの広告は「恐怖」のコーナーでも掲載されているが、いかにもである。恐怖心を掻きたてて投票を呼びかけるという方法は、今年の選挙でも、テロの恐怖を前面に出して戦ったブッシュ陣営が使った手だ。もちろん今年のそうした広告もこのコーナーで見ることができる。
 キューバ危機の余韻がさめやらないこの年は核の恐怖が大きな争点だった。「バックファイア」の分類では、「ベトナム戦争で戦略核を使うことを主張した」とタカ派の対立候補ゴールドウォーター上院議員の発言を非難するジョンソン陣営の広告などが載っている。この広告ではいきなり核爆弾が破裂し、次のようなナレーションが入る。
「バリー・ゴールドウォーターは、核爆弾について“たんなるもう一つの爆弾”と呼んだ。たんなるもう一つの爆弾だって? ジョンソン大統領に投票しよう。選挙に行かないのはリスクが高すぎる」。
「選挙に行かないのはリスクが高すぎる」というこの最後の文句は、この年のジョンソン陣営の「決めぜりふ」だったようで、ほかの広告もその言葉で締めくくられている。

ウェブ上のキャンペーン広告
 前回2000年の選挙からウェブ用の動画広告が作られ、今回はそれがさかんに使われた。「デスクトップの候補者」のセクションにアクセスすると、そうした広告を見ることができる。
 また、この「デスクトップの候補者」のセクションでは、候補者の陣営や政党とは別に独自に運動を繰り広げた支援組織の広告が「影の選挙運動(シャドー・キャンペーン)」というタイトルのもとに集められている。反ブッシュの30秒広告を公募した市民グループ「Move On」や、また逆に、ケリーのベトナムでの戦功は欺瞞的だと激しく攻撃した団体「Swift Boat Veterans for Truth(真実のための高速艇退役軍人)」などの広告もある。後者の団体の広告は一種の誹謗中傷だったが、中盤戦で大量に流され、ケリーの支持率をかなり下げる働きをした。
 こうしてちょっと見てみただけでも、大統領選挙のテレビ広告は「生きたアメリカ現代史」になっていることがわかる。
 動画博物館も教育関係のプロジェクトを進めているようだが“オンライン展示”のほうも同様で、学校で利用されることを意識していて、教師のためのページができている。テレビ広告を全文文章に書き起こしたトランスクリプション・ページもできているから、日本でも社会や英語の授業などで利用できるかもしれない。

テレビ討論のアーカイヴ
「アメリカ大統領選挙とテレビ」というと、広告以外にもうひとつテレビ討論が重要な役割を果たす。テレビ討論のアーカイヴとしては、シカゴにある放送ミュージアムのサイトがよくできている。また、本欄で何度かとりあげた「インターネット・アーカイヴ」も今年の大統領選挙の動画像の特集ページを作っていて、そこで今年の討論を見ることができる。
 動画博物館のテレビ広告なども含めた今年の大統領選挙の広告戦略については、別のところで原稿を書いた。ウェブ・サイト
でも見れるようにしたので、そちらも参考にしていただければ幸いである。
[ うただ あきひろ ]
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