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掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
絵の具の狂乱の乱舞──メディア芸術祭
歌田明弘
現実と仮想が溶けあう棲み家
 今年もメディア芸術祭が、2月末から3月初めにかけて行なわれ、受賞作品が発表された。昨年同様、アート、エンターテインメント、アニメ、マンガの4部門だ。CG、インタラクティヴな作品、ウェブ、映像と、大きく違う作品を4ジャンルのなかで横並びにして受賞作品を決める作業は、想像するだけでもたいへんそうだが、ともかく829点の応募作品のなかからアート部門の大賞に選ばれたのは、“Electronic Shadow”というカップルのユニットによる“3miunets2”だった。メディア芸術祭のサイトにある静止画だけ見るとわかりにくいが、贈賞理由にも「真っ白な室内空間をイメージした箱状のスクリーンに映し出された映像と初めて対面したとき、微妙な驚きを感じた」とあるとおり、凹凸のある箱状の立体空間がスクリーンになり、映像が投射される。手前の台が、テーブルになって食事らしき物が並んだり、ベッドとして女性が横たわったりといったぐあいに凹凸が使われる。とくに「微妙な驚き」を感じたのは、へこんでいる壁面に影絵の男が入りこみ、そのへこみがエレベーターに見立てられ、すっと下降して消えた瞬間だった。そのようなとき、凹凸のある箱が建築空間として立ち上がる。
 メディア芸術祭のサイトには静止画しか載っていないが、彼らのサイトには動画像がある。この動画像のほうのバージョンは、昨年のパリ現代美術館でのものだそうで、マドレーヌ街の店のウィンドウの背後に設置され、箱状のスクリーンに、ひとやクルマが行き交う街の風景が重なっている。「現実と仮想が虚構のうちに混ざり合い、そうしたハイブリッド化が、技術や社会の変容によって実現を可能にし誕生を予感させもする棲み家の提案の基礎になっている」という彼らのサイトに書かれた言葉をよりいっそうはっきりと感じさせる。こうした展示からもうかがえるように、「デザイン、芸術、建築、アニメーション、インタラクティブ性、実際の環境とバーチャルな映像の混合など、新しい形の創造を具現化」することを目ざしているという。
 三面の壁面や台の上など凹凸のある空間にさまざまな角度から映像を投射するためにプロジェクターがいくつもあるのかと会場で探してみたが、少なくとも外部には正面にプロジェクターが一台あるだけのようだった。このプロジェクションのシステムは特許をとっているのだそうだ。

絵の具の反乱
 私がもっともショックをうけたのは、シモン・グレの優秀作“OÏO”である。一見たんなる3D映像のように見えるが、これは空中に放った絵の具を超高速度撮影したものだという。ダイナミックな音楽とあいまって、贈賞理由に書かれている「色彩とフォルムの乱舞」という言葉にふさわしいスペクタクルになっている。シモン・グレは「動く抽象絵画」を体験したいと思ったのだそうだ。
 ジャクソン・ポロックがどんなにキャンバスの上で動き回り、絵の具をドリッピングし飛び散らせても、すぐにキャンバスの上に定着してしまい、「動き」はせいぜいがビデオなどで残っているだけだ。ポロックのアクション・ペインティングにかぎらず、これまでのすべての絵画は絵の具の運動そのものを残すことはできず、キャンバスという墓場に「運動の残骸」を見てとることができるだけだった。ケベックの映像作家は、そうした西欧絵画の歴史にたいする謀反をこの映像でやってのけた。
 四半世紀前に得た着想だったが、デジタル技術の進歩によって1992年になって可能になり、11年かけて実現したという。長い期間を経て生まれた作品のインパクトは強烈だ。メディア芸術祭のサイトにも動画像が載っているが、“OÏO”のサイトにもあり、違うデモ映像を見ることができる。「540リッターの絵の具が飛び交う狂乱の9分間」のデモ・ビデオだそうだ。サイトには、撮影現場の写真も載っているが、さすがにこれだけの絵の具を飛び交わすためにはかなりのスペースがいるようだ。

電磁波を聞きとって姿や色を変える「空の耳」
 同じく優秀賞を受賞したウスマン・ハックの「Sky Ear」も、別の意味でのスペクタクル性を感じさせる作品だ。これも贈賞理由を引いておけば、「このインタラクティブ作品を一度見た人は生涯忘れることができないだろう」とのことだが、まさにそのとおりだ。
 野外に人が集まり、ヘリウムガス入りの風船をいくつもネットにくくりつけて膨らませ空へと放つ。風船の群れは上昇し空に浮かび人工の雲となる。風船にはセンサーが付けられ、遠くの嵐による電磁波の変化から、携帯電話の電波、さらにはパトカーや消防自動車の無線、テレビの電波なども感じとる。電磁波の変化にしたがって色が変わり、揺れ動き、形を変える。タイトルどおり「空の耳」であるこの雲は、われわれの環境がいかに電磁波に満ち、携帯電話の通話やメールのやりとりが電磁波を形作っているか、目に見えない現実をわれわれに教えてくれるものだという。
 このイベントにあわせて携帯電話のコンテンツが準備されている。人々はそれにアクセスするために携帯電話をかけ、流れてくる電子音に耳を傾けながら、さらに大きく変容していく雲の姿に圧倒される……というのが、インタラクティヴなこのアート作品の醍醐味らしい。

 優秀賞や奨励賞を受賞したアート部門の作品はそのほか、3次元世界地図をインタラクティヴかつダイナミックに動かす平川紀道のインスタレーション「GLOBAL BEARING」、残像を利用した五島一浩の3次元映像「z reactor」、scope+橋本 典久のリアルな昆虫の再現「life-size」の3作品だった。平川紀道のサイト
には、詳細な説明や映像が載っている。五島一浩の作品は、メディア芸術祭のサイトには「z reactor」の一場面があるだけだが、自分のサイトには、以前の作品のダイジェストや上映予定などが載っている。橋本典久は昨年も優秀賞を受賞しており、橋本のサイトも含めて本欄でも取り上げた
[ うただ あきひろ ]
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