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デジタルアーカイブ スタディ
『デジタルアーカイブ白書 2005』発刊
影山幸一
デジタルアーカイブ白書 2005
『デジタルアーカイブ白書 2005』
発行:デジタルアーカイブ推進協議会(JDAA)
発売:株式会社トランスアート
税込価格:2,700円(本体:2,571円)
2005年3月31日
216頁/B5判/並製
ISBN:4-88752-346-7

新たな段階を迎えたデジタルアーカイブ
 世界語になりつつある和製の造語「デジタルアーカイブ」が、どのような背景によって日本で誕生したのか、10年ほど前の1990年代半ば頃の様子については「デジタルアーカイブという言葉を生んだ月尾嘉男 」に詳しいが、日本を遠く離れたエジプト・アレキサンドリア図書館の再生計画など世界を視野にその萌芽はあった。
 2005年現在「デジタルアーカイブ」は、一部の先端的な研究者だけのものではなく、広く一般に認知され、また「e-Japan戦略II」をはじめとするわが国IT政策の知のインフラともいわれている。多種多様な情報資源を次世代につなぐ知の生産基盤としての「デジタルアーカイブ」。全国の博物館・美術館・図書館・公文書館・自治体・公共団体のWebサイト調査によりデジタルアーカイブの詳細が白書に明らかにされた。デジタルアーカイブの取組みや、本格化したデジタル・アーキビスト育成の最前線、近未来には組織の壁を越えて、広範にわたる横断検索も可能になる試みが見られ、「デジタルアーカイブ」は、初期の普及段階から新たな段階を迎えている。

Webサイト調査2,570機関
 『デジタルアーカイブ白書 2005』(B5判、216ページ、2,700円(税込み)、販売:株式会社トランスアート)が発売された。有形・無形の創造物や自然をデジタル化し、またデジタル製作物を保存活用して、文化や知識の生成に役立てたいとするデジタルアーカイブの壮大な構想を伴って設立されたJDAA(デジタルアーカイブ推進協議会)が、発行する『デジタルアーカイブ白書 2005』は、『同2001』、『同2003』、『同2004』に続く4冊めとなり、過去3冊で積み上げてきたデジタルアーカイブ情報の集大成といえるものである。
 特に、総数2,570機関のWebサイト調査では、従来のアンケート調査ではなく、客観性に留意して一つひとつ閲覧調査が行なわれ、その調査結果も詳細な一覧として公開されており、調査の視点も読み取ることができる。毎年右上りに推移してきたデジタルアーカイブ構築率は、いよいよ社会でデジタルアーカイブが実用段階に入ったことを感じさせる。

知のインフラとしてのデジタルアーカイブ
 「白書2005」を通覧してみると、IT戦略本部(内閣官房)・文化庁・経済産業省・総務省のデジタルアーカイブに関する施策がある。
 博物館・美術館では、「文化遺産オンライン」の現状、東京国立博物館の意欲的な事業展開の展望、東京国立近代美術館の美術図書館横断検索ALCの今後の展開、世界の情報共有のランドスケープをみる愛知県美術館、栃木県立美術館の具体的な現場報告、美術館からメディア複合施設へICCからの最新報告など。
 図書館・公文書館・大学・研究所では、公文書館の動向として世界を視野に入れた電子情報時代のアーカイブズとその課題、国立国会図書館の本格化するWARPの取組み、ITを駆使したゆうき図書館、紙媒体とデジタルを両立させる山口県文書館、より多くの情報公開をデジタルで実現する沖縄県公文書館、「身装」文化を発信する文理融合のMCDプロジェクト、また「大学におけるデジタルアーカイブ研究事業一覧」は、将来の知の創造に貢献することが期待できる研究を収集した労作。
 自治体・公共団体・地域推進団体では、道庁と密接に協力しながら未来創造型の構想を推進する北海道遺産構想推進協議会、産官学の協力体制を実現させた青森県デジタルアーカイブ推進協議会、指定管理者制度によりNPOが運営する山中湖情報創造館、「デジタル・アーキビスト資格委員会設置準備委員会」を発足させたNPO法人地域資料情報化コンソーシアムなど各事例を紹介。
 メディアの動向では、放送局、通信社、新聞社、出版社の現状や、デジタル復元を進める東京国立近代美術館フィルムセンターの現状。
 関連動向では、動き始めたデジタルアーカイブの人材育成、著作権とその他の権利問題において、知的財産推進計画の実行と見直し、また本年4月より新しく知的財産高等裁判所での審理が開始されたことで、デジタルアーカイブの新たな扉が開かれた。さらに、個人ユーザーから見たデジタルアーカイブの豊富な事例、一般に身近なデジタルアーカイブの活用事例であるパッケージ化商品、ミュージアム商品、国内グッドWebサイト事例、海外のデジタルアーカイブの動向など。
 既刊号の集積ともいえる巻末の「資料」には、「デジタルアーカイブ・ハンディロードマップ」「メタデータ記述項目関連表」「デジタルアーカイブの対象と構築の流れ図」「用語解説」などのほか、デジタルアーカイブ関連団体の一覧やURLリストなど充実している。

わかりやすさに配慮した使える白書
 デジタルアーカイブの対象の広さは、上記でも窺い知ることができると思う。知のインフラとして未来に貢献する基盤となるデジタルアーカイブ。第一線の現場で活動する研究者等による執筆人を得て、白書の真髄である調査結果や、各分野で役立つ参考事例のほか、実際の現場の業務で使える白書として、わが国のデジタルアーカイブを総覧できる一冊にまとめられた。難解と思われる用語は、各ページの脚注で解説され、わかりやすさに配慮した白書でもある。
 この白書を発行するJDAAは、今年解散と聞いている。任意団体でありながら文化庁・経済産業省・総務省の3省庁が支援という特異な協議会は、「デジタルアーカイブ」を社会に広め、10年を迎えてひとまず第1ステージの役割を終えるということだろう。今回刊行された『デジタルアーカイブ白書 2005』は、わが国「デジタルアーカイブ」の到達点といえる総合レポートである。

お問合せ・お申込み
(株)トランスアート
http://www.transart.co.jp/

2005年5月
[ かげやま こういち ]
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