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学芸員レポート
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三輪眞弘「未来の伝統芸能を語り継ぐ」ワークショップ&コンサート
山口/山口情報芸術センター 阿部一直
蛇居拳節
水口鉦踊り
しゃぐまさま
上から蛇居拳節、水口鉦踊り、しゃぐまさま
 2000年を機に、中ザワヒデキ(美術家)、松井茂(詩人)、足立智美(音楽家)らによって宣言・構想された「方法芸術」(方法絵画、方法詩、方法音楽)のディレクションの元に繰り広げられた活動があった。その後、作曲家三輪眞弘が参加するなどの新たな展開があったが、とりあえず昨年で方法芸術主義は終了したということらしい。その後継的成果には、グループ「方法マシン」が設立されるなど、パフォーマティヴな活動はさらに継続展開している。今回はその三輪眞弘の最近の活動を中心に報告してみよう。

 三輪は、現代音楽(昨年第14回芥川作曲賞受賞)、さらにIAMASでの教職、「フォルマント兄弟」などのメディア領域での活動の他に、方法芸術主義から発したコンセプトをさらに拡張した「逆シミュレーション音楽」というプロジェクトをここ近年強化してきている。三輪は、トータルセリエリズムまで行き着いたヨーロッパ現代音楽の細分化機能主義の内部にかつて身を置きながら、そのシステム化の限界と退行を見きわめつつ、きわめて戦略的にバナキュラーなコンテキストの持つ力を復権させ、かつ身体性を通過した音楽の持つ根源的超越性への志向を、シンプルな組織化と批評精神の中に見いだそうとする。今年の「第21回<東京の夏>音楽祭2005」で(部分的に)紹介される、ついに完成を果たした(というべきか?)シュトックハウゼンの1週間をモチーフにした長超大な連作オペラ《リヒト(光)》が、総合芸術としてあらゆる要素をコントロールするべく道付けられたヨーロッパ音楽思潮の最後の肥大化した極とすれば、三輪の「またりさま」などは、ある意味での同根性(背後の物語性を復権する、循環的なシステムを採用する、身体性からの視点のとりこみなど)から発しながら、総合芸術メディアのそれへの奉仕を忌避し、そのすべての点でシュトックハウゼンの正反対のコンセプトと結果を導くといってもよい。

 逆シミュレーション音楽とは何か。三輪によれば、遥か古代の、あるいは未だ出現しない未来の何らかの土着的伝承芸能をサンプリング+シミュレーションしてリアライズさせるというものだ。未来をシミュレーションするとは不思議な話だが、要するにポッシブルではあるがアクチュアルなもの、すなわちあり得るかもしれないシステムだけをプレ物語、ポスト物語の延長上から抽出し、その根基となる数的構成ルールのみをコンピュータでシミュレーションし、現実(あるいは人間および身体)がパフォーマティブにそれに従った(つまりコンピュータ側から逆シミュレートされる)リアライズを行う、というものだ。20世紀後半の現代音楽では、コンピュータは、現象的な音響の加工や波長分析という形で大半が用いられていたのに対し、ここでは、物語の祭祀的システムに含有される数性と交換性を発見し、それを身体性に接続させる過程のシミュレーションとして登場する(空想的ケースとして、もしバルトークが現在のコンピュータをいじっていたとすれば、これに近い考え方を生成した可能性はあるかもしれない)。三輪のおこなう、過去および未来の伝承のサンプリングは、いわばすべてお話としてはフェイク(要素は事実だがお話は作り物)なのだが、だがそれは、ギリシア悲劇のテーバイを巡る物語(とシステム)が歴史の真実なのか、ソフォクレスの創作なのかの事実が問題なのではなく、その(作り出され存在する)物語の孕む組織、関係性、影響そのものが重要なのは疑いを入れないことと同じことである。

 今回のYCAMでの「未来の伝統芸能を語り継ぐ」ワークショップ&コンサートでは、せんだいメディアテークで昨年おこなわれた際のサンプリングされたシステム「蛇居拳算(じゃいけんざん)」を元にした3作品の再現と、今回山口でサンプリングされた地元伝承からの新作「水口鉦踊り(みなくちかねおどり)」「しゃぐまさま」が、有志で結成された「逆シミュレーション楽団」とワークショップ参加者によって上演された。ここでは演者たちは、たとえばコンピュータでシミュレーションし決定されてくる循環順列的な3すくみルールを、その場で前者の所作を判断して演算しながら精確に行為を追加していかねばならない。この作曲法は、基本的に循環的で終わりがなく延々と持続していくものである。いわば特殊な終わり=カタルシスを作り出すために音楽的イデオロギー=ドラマトゥルギーを生み出し、発展させたヨーロッパ音楽と、その反動としてのミニマル音楽との、完全なはざまの真空地帯に、無気味で強固な循環システム(リング?)を三輪は作り出す。このある意味、非情なまでの方法依存主義は、表層(モード)やファサード(建築)を映像的に瞬時にかえていく現在の日常のパースの中に、実は生活の根底において要求されている動的なもののおぞましさや超越志向を、物語性の内から透かした外への過程に発見しているというヒント=諧謔的批評性を生む。
 つまるところ逆シミュレーション主義は、オリジナリティを欠く現実からの数的ルールの抽出・遵守という方法をどうとらえるかが問題だが、ややもすると古びた構造主義的手触りととらえられかねない錯視に意図的に接近しつつ、さらに欲張ってやんわりした神秘主義的志向をこれまた確信犯的に導入しながら、実はパフォーマーを偶像化するのでなく、オーディエンス自体も演者としてのスティミュラスな神経過敏症へと結果的に集団登校させる方法マシンの内面化(つまり学校の中に入らなければ何がおこっているか、何を批評できるかは分からない)に、このプロジェクトの強烈な批評マシンスピリットと愉悦をみてとることもできる。今後全国の様々なサイトで展開される三輪の逆シミュレーション音楽を、ぜひできれば実際に体験してみていただきたい。伝統とモダニズム、その双方の遠方に離れてしまっているわれわれの現在地点を逆観測する、興味深くユニークな機会になるかもしれないので。

会期と内容
●「未来の伝統芸能を語り継ぐ」ワークショップ&コンサート
監修:三輪眞弘 出演:ワークショップ参加者、逆シミュレーション楽団
コンサート公演:2005年5月7日(土)
ワークショップ会期:2005年5月3、4、7日
会場:山口情報芸術センター スタジオA
山口県山口市中園町7-7 Tel. 083-901-2216

5月22、29日NHKFM「現代の音楽」で三輪作品が放送。
5月22日18:00〜 part1:「東の唄」、「インターナショナル」、歌曲「新しい時代」
5月29日18:00〜 part2:合唱曲「新しい時代」、ハープのための「総ての時間」、「村松ギヤ」、「蛇居拳拍子・蛇居拳節」、「しゃぐまさま」
7月31日「東京の夏」音楽祭2005関連企画として「方法マシン」による「またりさま」再演が予定。

[あべ かずなお]
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