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学芸員レポート
札幌/鎌田享福島/伊藤匡東京/南雄介大阪/中井康之|山口/阿部一直
シリン・ネシャット回顧展/アーツアポリア/NTTインターコミュニケーションセンター
山口/山口情報芸術センター 阿部一直
 シリン・ネシャットの回顧展(広島市現代美術館)が始まっている。日本ではすでに金沢市民芸術村でも紹介されているネシャットは、いうまでもなく世界的なアートシーンの最前線で活躍するアーティストであり、現在はアメリカをベースに活動。このほど第6回ヒロシマ賞受賞にあわせて、当地での大規模な回顧展となる。いずれも地方都市において先駆けて本格的に公開されているのが興味深い。
 ネシャットといえば、映像による作品を誰もが思い浮かべるが、今回改めて見直すと、対面(対決)するデュアルスクリーンという映像インスタレーション形式が、今回展示されている《Turbulent》(1998)では、スペクタクルな設定にもかかわらず、繊細な知覚の相違をシーンごとに生み出すのに成功している(たとえば明らかにイスラム圏の女性が着用を義務づけられるチャドルによる視覚や知覚の遮断/切断の想起と、同じものを見る・聞くことに対する男女の感覚制度のずれがそこで連動して作用する)のを確認することができる。しかし、こうした回顧展においてここ近年のネシャットの作品を同じ形式の映像インスタレーションで見続けていく途上で、やがてフィル・グラスの(お決まりの)音楽がいつしか重なり(《Passage》(2001))、アハティラやアイザック・ジュリアンら、近年のアート界のはやりであるトリプティック・スクリーンによる再現(《Mahdokht》(2004))が出現しだすに至って、神話性をことさら強調するかのような映像インスタレーション形式そのものが、魅惑的な知覚の場というより、次第に観客に重圧をかける存在となってくるように感じられるのだ。映像撮影がプロフェッショナルな完璧さを持つプロダクションなだけに、表現メディア(映像音響インスタレーション形式)が見事に再現表象の道具となればなるほど、予想可能な荘重さだけが目立つことになる。遮断/切断の中で生まれた知覚の多様性、整理し得ぬものの場はいったいどこへ… ここで考えられるのは、地球上の様々な都市に、作品がより容易に巡回されるのが重要なことであり、公開の効率=頻繁化とメッセージの普遍化が背中合わせなことだ。(これらはより広く見られなければならない。)となると作品にとって発想と帰結に関わるインスタレーションのセットの軽さ、重さのトーンはどうなのか。それを個々の知覚の場としていかに導出するのかが回顧展のような枠組みにおいてはかなり難しい課題と見えてくる。ネシャットは、演劇作品形式も試みているはずなので、そこではどのような展開を生み出しているのだろうか。

 演劇にせよ、コンサートにせよ、たいがいのものは展示・公演される場所情報から、あらかじめ形式はわかってしまうということがある。そうなれば、あとはコンテンツがどうなのか(誰が何をやるのか)だけが関心の対象となるわけで、そのコンテンツが大量に同じ平面上を高速度でフラッシュバックされていく様を追いかけるのは、それはそれで快感なケースもあるのだが、しかし演劇やコンサートも含めて巨視的にアートとしてみて見るなら、アートとは本来、コンテンツだけでなく、それらが投げ込まれるフレーム(つまり場)そのものを、もっと変動的に不安定に揺るがすはずのものではなかったのか。演劇やコンサートに比べ、プロダクションスケールが小さい現代アートにおいてのほうが、比較的自由にそうしたせめぎ合いが感じられそうなはずであるが、しかし現状はむしろ硬直化に向かっているように見える。これはアーティストの問題なのか、美術館やホール、その運営関係者の社会機能の問いかけのなさなのか、テンポラリーなフェスティバルが蔓延する時代の抱える問題なのか、答えはそう簡単ではない。まじかに控えた地方公共文化施設の指定管理者制度も含め、楽観できない課題である。アート活動における場とは、余白の可能性や連続性を含んだものであるという暗黙の了解事項を、これからは意図的に明示し必要性を誇示していかなければ、筋肉質なマーケティング操作の前に弾き出されてしまうのは見えている。

 大阪の大阪港周辺の赤レンガ倉庫を拠点に活動するアーツアポリアは、サウンドインスタレーションやライヴを中心としたインディペンデントな活動を継続しているNPOプロジェクトだが、行政との関係で赤レンガでは今年度いっぱいの活動となる公算が高いという。7月には、東京・代々木で、サウンドインスタレーション、ライヴ活動を紹介してきた完全自主運営スペース「OFF SITE」主宰の(残念ながら現在は活動を終了)伊東篤宏を招いての「闇」を主題にしたインスタレーション展を行なっている。伊東は、現代アートだけでなく、「オプトロン」という蛍光灯の発生ノイズを利用した発明楽器を使ったライヴ活動、サウンドインスタレーションなど、アート領域を微細に変動、拡張させえる希少なアーティスト、かつ本格的アートオーガナイザーの1人である。7月30日には若手アーティストをゲストに招いたトークセッションも行なわれた。さらに連続的な展開として、伊東の展示の後、8月にはそれら若手アーティスト梅田哲也、堀尾寛太、毛利悠子、指吸長春らによるサウンドアート展も行なわれるというタイムリーな企画が繋がる。伊東の可聴的センスの様々な増幅による壮大な展示に対し、若手4人の非可聴的な領域へ誘導する多様でセンシブルなセンスは、新しい世代の到来を予感させる共にハイレベルの非常に優れたインスタレーションである。このような企画は日本全国見回しても、ここ赤レンガでしか可能でなく、アーツアポリアは、日本でも貴重な領域的意識をもった活動を行なってきているといえるが、行政による問答無用の整理対象になることよって、広大な空間表現が可能な赤レンガ倉庫での活動に終止符が打たれるのは何か納得できない話である。現状の残された活動には少なくとも目が離せない。

 アートスペースといえば、NTT東日本が運営する東京オペラシティの「NTTインターコミュニケーションセンター(ICC)」が年度内で閉館するという話題ものぼっている。アートマガジン「ART IT」第8号(7月刊)が取材したもので、さらにほぼ同時期にメールで、ICC学芸員一同の署名のもと、閉館の方向性に対する問題提起がアート関係者になされている。まだ完全決定ではないようだが、実際今年後半以降の活動は表明されていない。「ART IT」が記しているように、ICCは01年のリニューアルから館長、副館長を置かない体制を続けており、このまま閉館となると、それを予測していたための人事空白であったのだろうかと思わざるを得ない。館長、ディレクターをおかないアートセンター(しかもこれだけ巨大な)は、世界中どこを探してもあり得ないケースだからである。運営の方向転換(閉館も含む意味で)は、この時代、さまざまな事情で様々な形としてあるだろうが、それも館長による運営コンセプト表明を踏まえてのもの、館長の人事変更によるアートディレクション変更であるなら納得もできるだろう。ICCは展示に対して安くはない入場料を取ってきたわけだし、有料のメンバーシップ制(会員)でアート・ドキュメントのライブラリーを公開したりもしていたわけで(現在メンバーシップはストップ)、明らかに企業メセナの本質に深く踏み込んだ公的な文化施設のあり方として立場を表明し、関わり、一般利用および支援を受け入れてきていたわけであるから、このまま館長表明もなしに、一方的な企業内事情により閉館というのは、公的責任の軽視ということにはならないだろうか。さらに館名のとおり、国際的コミュニケーションを提唱推進してきた日本の拠点的アートセンターが、企業宣伝のショールーム撤退と事情がまるで同じように瞬時閉鎖というのでは、これまでICCの国際的イベントに参加・尽力してきたアジア、欧米など世界各地域にわたる文化関係者にも、大いに申し訳ないことになりはしないだろうか。せめて方針変更も、国際的文化常識にのっとった方法で表明し、これまでの活動成果を踏まえたうえで、何らかの文化的活動継続または継承への努力を見せていくべきである。今後の展開に注目していきたい。

会期と内容
●「第6回ヒロシマ賞受賞記念 シリン・ネシャット展」
会場:広島市現代美術館
広島市南区比治山公園1-1 Tel. 082-264-1121
会期:2005年7月23日(土)〜10月16日(日)
開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日休館 ただし9月19日(祝・月)、10月10日(祝・月)は開館、9月20日(火)、10月11日(火)は休館
観覧料:一般1140円(910円)、大学生850円(680円)、小中高生570円(450円)
※( )内は前売り及び30名以上の団体料金
●「Sound Art Lab 2005 vol.1 ・Na・Ri・Ka・Na・De・Mi・Ru・Ya・Mi・Yo・Mi・」
会場:大阪アーツポリア
期間:7月6日(土)〜7月31日(日)の(金)(土)(日)(祝)
展示時間:14:00〜20:00
●「Sound Art Lab 2005 vol.2 sun and escape――現象と干渉〜音にならないオトを聴く」
会場:大阪アーツポリア
期間:7月30日(土)〜8月21日(日)の(金)(土)(日)
会場時間:14:00〜20:00

[あべ かずなお]
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