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学芸員レポート
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ニナ・フィッシャー&マロアン・エル・サニ展
山口/山口情報芸術センター 阿部一直 
 東京、横浜、山口各地で、ベルリンのアートユニット、ニナ・フィッシャー&マロアン・エル・サニ(以下N&M)のそれぞれ異なったプロジェクトがほぼ同時期に進行している。しかも各作品自体がしりとり式に通底している節もあり、なかなか面白いのである。いずれも「日本におけるドイツ2005/2006」に関連してのものだが、東京、横浜のものは、日本/ドイツのアーティストエクスチェンジによるグループ展であるが、わたしが企画した山口YCAM展は、それとは別の、独自に以前から練り上げてきたものである。
 N&Mは1996年の東京ビッグサイトで催された「アトピックサイト」展のコンテナプロジェクトの「On Camp/Off Base」に参加した「Be Supernatural 超自然でいこう」で、日本に初登場した。その後も何度となく来日し、向島に半年レジデンスをしたこともあるし、昨年はバルセロナの「sonar」フェスティバルの恵比寿での開催に、中島美嘉や加藤ミリヤの成長を追った新作ドキュメンタリー「TOKYO STAR」を上映している。このフィルムは、今回横浜のBankART1929 での「GLOBAL PLAYERS/日本とドイツのアーティストによる現代への問いかけ」展で上映している(9月18日)し、なびす画廊でのドローイングインスタレーション(9月12日〜24日)も、この「TOKYO STAR」に関連したアイドルたちへのインタヴューを基にしたものである。
 とにかく面白いのは、この「TOKYO STAR」とYCAMで展示される「Radio Solaris/−273,15℃=0 Kelvin」が、表面上はとても同じ作家が作った作品とは誰も同定できないほど異なったテイストを示していることだ。次の作品が何を狙ってどんなテイストで攻めてくるかわからない作家ほど期待感を抱かせるものはない。
 とはいうものの、とりあえずN&Mのプロジェクトに共通する要素を、洗い出してみるとするなら、まず彼らは、現在の社会や制度の中で、不可視のまま横たわっているもの、忘却にさらされているものの構造に目を向け、それらに対して毎回異なる方法論とメディアのアプローチをクリティカルに選択することから始めることに特徴がある。日本でも1998年に東京都写真美術館で発表したこともある「アウラリサーチ」は、空間の電磁気を記録する1930年代の忘却されたテクノロジーであったキルリアン写真を復活させ、ゴダールの『軽蔑』に出てくるマラパルテ荘、アインシュタインのベルリンの別荘、ホーネッカーの執務室などを、立て続けに記録する(これが同じ空間を何度テイクをとっても同じ不思議な図像の写真になるという)プロジェクトといった具合だ。またミケランジェロ・アントニオー二の映画『情事』に基づいた「L’avventura senza fine」では、映画公開の40年後にロケの行なわれた南イタリアの無人島に撮影に行ったところ、アントニオーニ本人も記念イベントでそこに来ていて奇跡的に出くわしてしまうなど、尋常なセンスではないところがユニークなのだ。
 今回のYCAMでの新作を紹介すると、東西に分断、再統一を通過してきた「ベルリン」を題材に、もっぱら東ドイツ時代に華々しく建造されたいくつかの建築物をリマークし、それが現在は遺物となって可視的に、あるいは不可視的に残骸となっている現実を、建築内部空間的な視点から映像ドキュメントで追跡していくというものだ。今回取り上げるのはメインでは、ナレパシュトラーセにある「ラジオステーション」、併設作品としてアレクサンダープラッツの「パラスト・デア・レプブリーク(共和国会館)」と有名なTVタワーの映像インスタレーションである。(横浜のBankART1929に10月17日まで展示中のインスタレーション作品は、この共和国会館のフロアーパターンをディスコテークに見立てたものだ。)特に前者は、東ドイツが、視覚=映像の高度なテクノロジーを共有公汎化せず、一部の権力に隠匿し、もっぱらラジオ放送による啓蒙にシフトさせた戦略のために(思い返せば壁崩壊の東欧革命も、ローメディアのラジオ放送からが発端である)、音の実験基地として、ラジオでのあらゆる人工音を製作、再生するための最高テクノロジーを結集して建造させた施設(であるから一般市民からは見えないロケーションに建てられている。その点で強制的に可視化されている虚栄の視覚的象徴、アレクサンダープラッツの建築群と対極的存在というわけだ)で、その一端としては、巨大なオーケストラホールが、共振ノイズを排除するために空中に吊り下げられているなどの、信じがたいメガロマニアックさである。
 N&Mは、その施設をワンシーンワンショットのステディカムの長回しで、これまたきわめてエレガントな映像の持続(現在進行形の主観=第1人称映像)としてドキュメント化するのだが、さらにそこに、やはり冷戦時代の共産圏の時代精神を色濃く反映し、にもかかわらず逆説的に人間存在の根源的テーマまで飛躍したモチーフを共存させた映画、タルコフスキー「惑星ソラリス」を持ち出し、ベルリンの実在のラジオステーションの廃墟とオーバーラップさせる手の込んだ仕掛けを提案する。タイトルの「0 Kelvin」とは絶対零度を意味しながら、「オー、Dr. ケルヴィンよ」をかけたダブルミーニングというわけだ。到達できないもの=絶対零度とクローン人間という切実な主題を、「文明/技術社会」、「東/西イデオロギー」(これらは未だ清算できてはいない)、「視覚/音響」「記録/再生」などの2項の対照鏡面関係に乱反射させるといった、冷徹な視線と大胆な跳躍を共時連動させる見事な戦略といえるだろう。
 作品空間のインスタレーションは、今回日本で初めて実現する、渦巻き型に横に連続する10面のマルチプロジェクションがメインとなる。映像は基本的に<ラジオステーション>を題材にした移動撮影によるワンショットで構成されるが、撮影するラジオステーションの部屋ごとに、2重に撮影され、一方はリアルな空虚空間として、もう一方はタルコフスキーの「惑星ソラリス」に登場する物体や、ゲルハルト・リヒターの絵画からのモチーフなど、記憶からの虚構の現実化として、社会主義リアリズムを体現した壮大な空間にマニアックに追加された現在が露出するクロスオーバーとなってくる。今回さらに、YCAM展での新たな映像素材として、タルコフスキーの「惑星ソラリス」の中に出てくる、1972年前後に撮影された日本の赤坂周辺の首都高速の風景に、同景同寸のショットで撮影された、2005年の現在の東京の首都高速の風景が対比されるおまけつきである(この首都高速撮影は、調査の段階からして、かなり面白いものだったことを報告しておきたい。映像のアングルから推測して、タルコフスキーは赤坂プリンスの10階あたりに泊まって、そこから撮影していたのがわかったりしたわけである。彼の来日はこの1972年の1回限りである)。

会期と会場
ニナ・フィッシャー&マロアン・エル・サニ/新作インスタレーション展
「Radio Solaris /−273,15℃=0 Kelvin」(ラジオソラリス/−273,15℃=ゼロケルヴィン)
会期:2005年10月1日(土)〜11月27日(日)(※火曜および10月27日休館)
会場:山口情報芸術センター スタジオBほか
開館時間:10:00〜20:00(入場は19:30まで)
入場無料
主催:財団法人山口市文化振興財団
後援:大阪ドイツ文化センター、山口市、山口市教育委員会
助成:財団法人野村国際文化財団
特別協力:Galerie EIGEN+ART Leipzig / Berlin
製作:YCAM InteLab 
企画制作:山口情報芸術センター
ビル

●GLOBAL PLAYERS――日本とドイツのアーティストによる現代への問いかけ
会期9月17日(土)-10月17日(月)
開館時間:11:00〜19:00(金曜日は21:00まで)
会場:BankART 1929+BankART Studio NYK
横浜市中区海岸通3-9 Tel. /Fax045-663-4677
入場料:当日800円、前売り500円
主催:日独アート交流プロジェクト展実行委員会、東京ドイツ文化センター、ルートヴィヒ・フォーラム/アーヘン
企画協力:BankART1929、東京現代美術画廊会議
協力:特定非営利活動法人NPO芸術資源開発機構
協賛:株式会社資生堂、松下電器産業株式会社、ルフトハンザドイツ航空、DHL
助成:日本芸術文化振興基金
後援:ドイツ連邦共和国大使館、横浜トリエンナーレ組織委員会(承認事業)、(社)企業メセナ協議会
参加作家:ローランド・ボーデン、マルティン・デールバウム、ニナ・フィッシャー&マロアン・エル・サニ、グンダ・フェルスター、アンドレ・コルピュース&マルクス・レッフラー、ペーター・クラウスコプフ、ユリアン・ローゼフェルド、ピエロ・シュタインレ、ダニエル・ロート、ヘンリック・シュラート、ハイディ・シュペッカー、ヨハネス・シュペアー、オラーフ・ヴェストファーレン、ヨハネス・ヴォーンザイファー、古伏脇司、逢坂卓郎、大巻伸嗣、祐成政徳、津田亜紀子、木村太陽、加藤泉、千崎千恵夫、駒形克哉、沖啓介、松井紫朗、端聡、渡辺紅月

[あべ かずなお]
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