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学芸員レポート
札幌/鎌田享|青森/日沼禎子|東京/南雄介大阪/中井康之
春遅き青森で、建築家・前川國男生誕100年を祝う
青森/国際芸術センター青森 日沼禎子
弘前市博物館外観
カセットプラント
カセットプラント(ガラス窓)
吉井酒造倉庫
上段より
・弘前市博物館外観
・山口啓介によるカセットプラント(部分)
・同上。前川建築の特徴あるガラス窓に配置された。
・「A to Z」の会場となる吉井酒造倉庫
 津軽の春は遅いのだけれど、暖かくなった途端に一斉に草木が芽吹き、花開く。梅、桜、コブシ、菜の花、たんぽぽ、etc……。毎年この季節を迎えているはずなのに、その度ごとに新鮮で、心がざわざわする。雪に閉ざされた厳しい冬の季節があるからこそ、ここに暮らす人々はこの季節を心待ちにしている。何もかも白く包まれた場所が色鮮やかで眩しい風景に変わる。そして人々は冬(富豊)にしっかりと熟成させたものを取り出し、互いに喜びあう。冬があるからこそ春は美しく、喜びに満ちる。とりわけ、今年。青森の、弘前という場所で、その祝祭的な1年の始まりを予感させるのにふさわしい展覧会とイベントが行われた。
 2005年12月、東京ステーションギャラリーをスタートしたこの巡回展は、桜前線とともに北上し、弘前城公園内に前川國男の設計(1976)によって建てられた弘前市立博物館を会場として開催された。さくら祭りで毎年多くの観光客で賑わう弘前城。筆者が会場を訪れたのはソメイヨシノから枝垂れ桜へと移り変わった頃で、華やぎの中にも静かな落ち着きを見せていた。
 津軽藩士の家系の流れを汲む前川は、処女作である木村産業研究所(1932)を始めとし、現存しない建築物も含めると、弘前市内に9件もの建築作品を残している。市庁舎、博物館、病院などの公共建築がそのほとんどであるから、弘前市民の人々は知らぬうちに、日本におけるモダニズム建築の先駆者である前川の空間に身を置いていたということになる。前川設計によるモダニズム建築の中で、その思想と実践の経緯を一望する展覧会を見ることはより一層のリアリティがある。
 この展覧会と連動するように、博物館に隣接する弘前市民会館(1964)で開催された「生誕100年祭」では、前川の弟子である仲村孔一氏による講演会、ウォン・ウィンツァンによるピアノコンサートの他、ホワイエでは、「建築と美術」をテーマに「山口啓介展《弘前の6つの窓》」が開催。津軽富士・岩木山が美しく見えるように設計された6つの窓に、天然樹脂とともに花々をカセットケースに閉じ込めた「カセットプラント」の展示と、同作品制作を体験できるワークショップが行なわれた。また、山崎かのこ+harappaによるパフォーマンス「帰ってきた前川國男」(建物のあちこちに、前川國男に扮した人々が出現するというもの)が開催されるなど、多彩なアプローチによって前川建築を捉え直し、楽しむための催しが行なわれ、多くの人々が観客、スタッフとして参加した。
 弘前市民挙げて行なわれた前川國男展と生誕際が終わり、いよいよ7月からは「奈良美智+graf A to Z」がスタート。会場となる吉井酒造レンガ倉庫の中では、着々と準備が進んでいる模様。さて、いよいよ青森・弘前は加速度的な熱さを増してくるのである。

学芸員レポート
ACACギャラリーA
ACACギャラリーB
上:ACACギャラリーA
下:ACACギャラリーB
■大人の静かな情熱が潜む──真島直子展「密林への回廊」
 現代日本を代表する作家、真島直子の個展を国際芸術センター青森(ACAC)にて開催した。第10回アジアンアートビエンナーレ・バングラデシュ2001にてグランプリを受賞した「地ごく楽」シリーズの絵画をはじめとし、真島の代表的なオブジェおよびACACのための新作が発表された。
 円弧を描き、時間とともに光と空間が動く美の回廊ともいうべきギャラリーには、鉛筆によるモノクロームの絵画を。自然光を取り込み、風景と作品とが対峙するギャラリーには、色とりどりの布、紐、スパンコールなどで覆われた極彩色のオブジェ群を展示。絵画と立体という2つの異なる表現による作品は、すべて「地ごく楽」と名付けられている。地獄も極楽も一体のもの。生まれては死に、そしてまた生まれるという終わることのない「生命」の有り様。真島にとっての唯一つの真実である「生」というものを追求し続けてきた痕跡が、痛みを伴いながら刻み付けられ、決して消えることのない刺青のように、また、ヌメヌメと実体なく変化する生き物となって私たちの前に立ち現われる。ACACを取り囲む森とも一体になりながら、静謐さと激しさとをもって限りなく無秩序に広がるそれらの姿は、まさしく本展に名付けられた「密林」の、その混沌とした中から立ち上がろうとする原初的生命体である。真島の形代であるそれらは、アーティスト・イン・レジデンスという、アーティスト自身が自己と向き合う環境に放り込まれたからこそ、より強いエネルギーとなって発せられたのだと思う。
 真島は、この7月に開館する青森県立美術館の開館記念展第2弾「縄文と現代──2つの時代をつなぐかたちとこころ」(10月7日〜12月10日)の他、群馬県立館林美術館、他への出展が続々と予定されている。長い間、変わることなく創作への情熱を持ち続けてきたアーティスト真島直子。成熟した大人のみが持つ作品と、自らの存在の強さを持って、さらに私たちを魅了し続けてくれるに違いない。
会期と内容
●モダニズムの先駆者 生誕100年「前川國男建築展」
会期:2006年4月15日〜5月28日
会場:弘前市立博物館
青森県弘前市下白銀町1番地6 弘前公園内 Tel. 0172-35-0700
主催:弘前市、弘前市教育委員会、弘前市立博物館、生誕100年・前川國男建築展実行委員会
※東京ステーションギャラリー、新潟市美術館、福岡市美術館を巡回

●「建築家・前川國男 生誕100年祭<弘前で出会う 前川國男>」
会期:2006年5月14日(日)
会場:弘前市民会館 
青森県弘前市大字下白銀町1番地6 Tel.0172-32-3374
主催:前川國男の建物を大切にする会

●「奈良美智+graf『A to Z』」
会場:吉井酒造煉瓦倉庫 青森県弘前市吉野町2-1 Tel.0172-31-0195
会期:2006年7月29日(土)〜10月22日(日)
開館時間:10:00〜19:00 (最終入場は閉館30分前)以上予定
休館日:月曜日(月曜が祝日の場合は火曜休館)以上予定
入場料:一般1,000円 大学生・高校生700円 中学生・小学生300円 以上予定
主催:A to Z 実行委員会 青森県弘前市土手町78ルネス街2F NPO harappa内 Tel.0172-31-0195
公式サイト:http://harappa-h.org/AtoZ/

●真島直子展「密林への回廊」
会期:4月29日(土)〜5月21日(日)
会場:国際芸術センター青森
   青森市合子沢字山崎152-6 Tel. 017-764-5200
主催:国際芸術センター青森AIR実行委員会
[ひぬま ていこ]
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