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学芸員レポート
青森/日沼禎子|東京/住友文彦福岡/山口洋三
「遊びの経路」/「裏糸─Under thread」
青森/国際芸術センター青森 日沼禎子
アイガルス・ビクシェ
カミーユ・グージョン《新火山からの挨拶》
カミーユ・グージョン《合戦青森 水獣と発煙器》
小山田徹《眺めるというコト》会場
小山田徹《眺めるというコト》
上から
・アイガルス・ビクシェ《明白だが信じ難き、18世紀末の善きラトビア人と日本人の冒険》
・カミーユ・グージョン《新火山からの挨拶》
・カミーユ・グージョン《合戦青森 水獣と発煙器》
・パラモデル《パラモデルの落書き》
・パラモデル《パラモデル航空》公開制作風景
・小山田徹《眺めるというコト》会場風景
・小山田徹《眺めるというコト》
国際芸術センター青森/春のアーティスト・イン・レジデンス(AIR)「遊びの経路」

 私たちがある物事について考えをめぐらせる時、それはどのように始まり、どこに着地しようとするのだろう。それはあらかじめ約束された結果を想定しながら、論理的に展開されるのではない。例えばそれは、ふとしたきっかけで頭の中でフラッシュする記憶のかけらや、ぼんやりと風景を眺めた時にふいにやってくる感覚から始まったりする。私たちが生きている時間の大半は、文字や言葉や形にされる以前の、筋道を立てて説明することが不可能な混沌とした自己の内面と向き合っていて、それが何であるのかを日常的に意識することはない。無意識に潜む人間の感覚、興味、思いが偶然に形となったものを、私たちは「遊び」とよぶ。シリアスな言葉にかえれば、「芸術作品」ということができるかもしれない。
 私たちが目の前にある芸術作品を理解しようとするとき、作品、あるいはアーティストと自分との「共有感」を持つことができるかどうかが重要な鍵となるはずである。それは個々の表現者の体験、感覚の追体験といってもよい。そして、人間の、ここでいうところのアーティストの思考がある種の経路を持つことを仮定し、その不可知な道筋をぐねぐねと追いかけ、同じ視線、空気、身体感覚を持って、共に遊ぶことから始めることだ。
 このたびの春のアーティスト・イン・レジデンスのテーマ「遊びの経路−itineraire」とは、そうした「経路」というものを手がかりに、現代の表現の問題、アーティスト・イン・レジデンスのあり方を、アーティスト、観客、参加者とともに探っていこうという試みだ。滞在アーティストは推薦で選ばれた国内外3名と1組のアーティスト。アイガルス・ビクシェ(ラトビア)、カミーユ・グージョン(フランス)、パラモデル(大阪)、小山田徹(京都)によって、さまざまな表現が展開されている。
アイガルス・ビクシェ(1968─)は、第51回ヴェネツィアビエンナーレにおいて、ギリシア神殿を模したピンク色の建造物の中で、連続レクチャーや泥レスリングなどを行なう《A Generation Europe Project−PINK HOUSE》を発表。また、越後妻有アートトリエンナーレ2006にて初来日し、ラトビアから同行した家具職人とともにオーダーメイド家具を制作し、松之山地区の人々にプレゼントするプロジェクトを行なうなど、社会的なグループの中のアイデンティティの問題や、その土地の人々の暮らしを読み解く活動を、国内外で勢力的に展開している。ACACでは、「明白だが信じ難き、18世紀末の善きラトビア人と日本人の冒険」というタイトルの実験調査を行なっている。18世紀末のラトビアと日本の漁民の生活を再現した粘土模型を制作。ビクシェによって書かれた、2つの国をめぐって巻き起こるさまざまな架空のストーリーが、クレイアニメーションによって展開。さらにはインターネットカメラを用い、ラトビアと日本のライブ映像を投影している。国際社会における文化のグローバル化を題材に、ラトビアと日本という2つの国の過去と現在の姿を繋げ、並列させることによる比較を試みる。
 カミーユ・グージョン(1977─)は、身体がどのようにスケールや世界の知覚を扱うのか、人間が風景をとらえてきたかに関心を持ち、ドローイング、ペインティング、ビデオなど様々な手法を試みてきた。滞在してまもなく行ったリサーチから、青森の町を、絵巻物や鳥瞰図をを思わせるようなドローイングを制作。また、その絵にも登場する青森県の地形図をもとにした架空のモンスター《アオモリ水獣》を、「ねぶた」(青森の伝統的祭りに用いる張子の巨大人形)へと展開。地元ボランティアの協力により完成させた。
 2001年に林泰彦(1971─)、中野祐介(1976─)によって結成されたパラモデルは、「極楽模型」をテーマに、プラレールを使ったインスタレーションで、その活動が近年注目されている。遊びの中にある創作の高揚感とともにACACの建築空間を活かしながら作品を展開し、野外ステージ、水のテラスいっぱいに拡がる巨大絵図を制作した。また、縄文時代の環状列石である小牧野遺跡、りんご園などでプラレールの電車を走らせた夜景を撮影し、青森を象徴する風景を極楽的な風景に一変させた。
 小山田徹(1961─)は、84年からパフォーマンスグループ、ダムタイプ創設メンバーとして活動を行ない、90年からはさまざまな共有空間の開発を行なってきた。小山田の意識の中には常に「共有」というものが存在する。それは今現在生きている私たちがいかにして共に生きていくかを考えることであり、小山田はこれまで行なってきたさまざまな共同制作の場によって感じてきた。自分の中にある他者の視線の存在を感じ、そうした他者の体験の追随が、自分自身が眺めている世界でもあることを強く意識していくこととなる。今、一人のアーティストとしてさまざまな物事、過去、現在、そして未来をいかにして平等な目線で見ることができるか。小山田が今、手掛かりとしているのは、何気なく拾ったものや偶然に自分のもとへ集まってきた物々を、考古学の調査研究の手法である「実測図」として観察し、描くことである。ギャラリーには青森滞在中に描かれた多くの実測図とともに、描かれた収集物をともに展示し、さらには、小牧野遺跡発見者の一人でもある、青森市埋蔵文化財課の職員に描いてもらった実測図をあわせて展示している。正確に形を追った実測図であっても、描く人によって見ている視点や、個性の違いが現れる。小山田はそれを、絵画の持つ根源的な不思議さに触れることでもあるという。
 アーティストたちは、青森という地の限定された時間と場の中に置かれながら世界を眺めている。けれどもそれは鳥の目線であり、地を這う虫のようなミクロの目線でもあり、あるいは宇宙から地球を眺めていることでもある。視点、そして置かれている場へのインとアウトを繰り返した時に生まれるその余白、つまりは、人が共に生きていこうと考えたときの、自分と他人とをつなげる「遊び」なのだと思う。遊びは決して終わらない。無限に広がる個々の経路が、今をともに生きるすべての人に平等に存在しているのだ。

会期と内容
●国際芸術センター青森/春のアーティスト・イン・レジデンス展2007
「遊びの経路──itineraire」
滞在期間:2007年4月20日(金)〜7月20日(金)
展覧会:200年6月16日(土)〜7月15日(日)
主催:国際芸術センター青森AIR実行委員会、青森市
会場:国際芸術センター青森
〒030-0134 青森市合子沢字山崎152-6
TEL:017-764-5200

学芸員レポート
ラム・カツィール《Tracing Future》
山下香里
審査発表風景
上から
・ラム・カツィール《Tracing Future》2005年/Herzliya Museum of Contemporary Art (Israel)
・山下香里《台風の目をの濁すことは可能だろうか?》2006/Red Mill Gallery (U. S. A)
・審査発表風景
 続く秋のレジデンスアーティストが、去る6月16日、公開による選考会によって決定された。審査を行ったのは、国際芸術センター青森のソフトプログラム検討委員会による審査によって、内外111件の応募から4名を選考。選考メンバーは中原祐介(兵庫県立美術館館長)、酒井忠康(世田谷美術館館長)、小沢明(建築家)、西野嘉章(東京大学総合博物館教授)、佐藤健一(青森市副市長)、浜田剛爾(ACAC館長)の6名。翌日17日には記者発表が行われ、国内外4名の候補アーティストの代表作品および、審査のポイントなどについて説明された。
 本レジデンスのテーマ、作品がもたらす期待感、あるいは地域への交流活動への提案の他、さまざまな点から総合的に判断され、海外からはダリボール・ニコリック(1974─、ボスニア・ヘルツェイゴビナ)、ラム・カツィール(1969─、オランダ)、国内からは船井美佐(1974─、京都)、山下香里(1978─、東京)が選ばれた。「裏糸─Under thread」というテーマを手掛かりに、9月5日から約3カ月の滞在中、創作活動、展覧会、創作体験交流などが行なわれる。

●国際芸術センター青森/秋のアーティスト・イン・レジデンス展2007
「裏糸−Under thread」
滞在期間:2007年9月5日(水)−11月16日(金)
展覧会:2007年10月13日(土)?11月11日(日)
会場:国際芸術センター青森
〒030-0134 青森市合子沢字山崎152-6
TEL:017-764-5200

[ひぬま ていこ]
青森/日沼禎子|東京/住友文彦福岡/山口洋三
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