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学芸員レポート
<新執筆陣>
札幌/鎌田享青森/立木祥一郎|福島/伊藤匡|東京/住友文彦豊田/能勢陽子大阪/中井康之
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福岡/川浪千鶴
「熊谷守一展」/ミュージアムの運営形態や活動内容の問題
福島/福島県立美術館 伊藤匡
2005年担当の企画および抱負
 福島県立美術館では毎年5、6本の企画展を開催するが、そのうち私が担当するのは春の熊谷守一展である。この展覧会は、熊谷守一を支援していた木村定三のコレクションを紹介するもので、同コレクションの寄贈を受けた愛知県美術館では全作品を展示したが、当館ではその中から精選して構成する予定である。
 熊谷守一という画家は、学芸員にとって難しい。なぜなら、洋画だけではなく日本画や書も多く、画業の全体像の把握が難しいこと。近代日本美術のどの流れにも入らないため、画家としての位置づけが難しいこと。作品が小さく、美術館の天井が高く広い展示室では、効果的に展示することが難しい、などによるのだと思う。展覧会の担当者としては「熊谷作品の見方」「熊谷作品の効果的な展示」を考えながら、準備作業を行っている。
 徹底的に単純化した形態、非固有色の使用、明快な色調、画面秩序として機能する筆触などは、熊谷作品が20世紀美術の中にあることを明示している。その一方で、彼の独特の様式は、脳内の抽象的思考によるのではなく自然観察の末につかんだものだろう。例えば「蟻は左の二番目の足から歩き出す」「カニはハサミをのぞいて八本も足があるので、どの足から歩き出すのか、いくら見てもわからない。カニの絵がいまだに描けないのはこのため」という熊谷の言葉には、対象のかたちにではなく生命や動きへの強いこだわりが感じられる。これは日本人の自然の見方とも一致するものであろう。また、B4判の紙程度の画面寸法も、平均的な日本家屋の壁にはむしろ適している。つまり、熊谷の絵が小さすぎるのではなく、展示室が大きすぎると見ることもできる。
 20世紀の造形芸術の一つの典型でありながら、同時に日本的であることを両立させた画家として、熊谷守一の作品を捉えてみたい。
 
2005年の気になる展覧会、動向
 ミュージアム(美術館、博物館、資料館等の総称)の運営形態や活動内容の変化が加速する年になるだろう。
1.市町村合併の影響:市町村の合併が大詰めを迎えている。合併してもしなくても、ミュージアムへの影響は出るだろう。合併で複数のミュージアムを抱えることになった市がある。現時点では名称が変わっただけだが、いずれ機能分担もしくは統廃合という話が出るかもしれない。一方合併しない市町村は、補助金削減に備えて経費の削減を強化している。福島県内でも、2005年度の企画展費がゼロにされて展覧会を開催できなくなったミュージアムが出てきている。
2.増加するミュージアム:一方で新規開館もある。昨年東北地方では、花巻市博物館(岩手県)、阿武隈高原美術館(福島県塙町)、真下慶治記念美術館(山形県村山市)などが開館した。いずれも設置主体は自治体である。箱物行政と一括するだけではなく、ミュージアムに向けられた人々や地域の期待を理解することが重要だろう。
3.廃校からミュージアムへ:廃校になった校舎を、ミュージアムとして活用する例が増えている。これまでも民具や出土品などの保管場所として校舎を使用することはあった。最近の例では、改装費をかけて絵画の展示室にしたり、アーティスト・イン・レジデンスの宿泊所としたりしている。建物の再利用という省資源的視点、地域のシンボルであり人々の記憶の集積場である校舎の保存、観光資源としての活用という一石三鳥の計画なのである。果たして、期待どおりにことは進むのだろうか。
4.博物館の新しい展示方法:複製品や画像を多用していた博物館の展示が、最近また実物展示に戻りつつある。可能な限りガラスケースにも入れず、本物を間近で見てもらおうという趣旨である。企画展の予算が削減されれば、ミュージアムがもつコレクションの質や量、それを活かした企画、構成、展示が重要になる。それは図録や情報ではなかなか伝わらない。実際に見なければわからない。
5.広がる活動の場:ミュージアムのワークショップが、子供の能力開発プログラムとして海外企業に注目され、地場産業の活性化プロジェクトに学芸員がアドバイザーとして参加し商品開発に携わるなど、ミュージアムや学芸員の活動範囲が広がる傾向が、東北地方でも見られる。
 これらの動きを取材し、今後レポートで報告したい。

プロフィール
1956年生まれ。1984年福島県立美術館の開館から学芸員として勤務。「近代日本水彩画の展開」「日本的フォーヴィズムの一断面」「村山槐多展」「大細工展」「関根正二展」などを担当。
[いとう きょう]
<新執筆陣>
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