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学芸員レポート
青森/日沼禎子|福島/伊藤匡|東京/住友文彦豊田/能勢陽子
「三木俊治彫刻展−道光宇宙−」
福島/福島県立美術館 伊藤匡
三木俊治《行列》1
《行列―あまつちほぎうた》遠くに半田山が見える
三木俊治《行列》2
《行列あまつちほぎうた》左手は旧伊達郡役所
原田拓《Resonance〜Towa2005》
《行列道光宇宙》町民に説明する三木俊治氏
 福島市の郊外、桃の里として知られる桑折町(こおりまち)で、彫刻家三木俊治(みきとしはる)の展覧会が開かれている。
 行列する人々をモチーフにした蝋型彫刻で知られる三木だが、近年は石や鉄板を使った規模の大きい作品を手がけている。今回の出品作品は鉄板が7点、石の作品が3点ある(このうち2点は11月で展示が終了し、現在見られるのは8点)。旧作は1点だけで、他の9点は2005年制作の新作である。
 このうち《PEOPLE LINE-ANTHIPHONA 行列−あまつちほぎうた》と名づけられた鉄板にシルバー塗装した7点はすべて高さが1.8メートルで統一され、形状が正三角柱から正九角柱まで一角ずつ増えていく仕掛けになっている。そして柱の上端は、三木のモチーフである人々の行列で飾られている。黒花崗岩でできた《行列−道光宇宙》にも表面に行列が彫り込まれている。ちなみに、サブタイトルにもなっている「道光宇宙」は「みち、宇宙をてらす」と読み、中国の歴史書『宋書』から採られているようだ。
 この展覧会の会場は、屋外の4カ所。JR東北本線桑折駅前のロータリーに置かれた正六角柱は、江戸時代に幕府の財政を支えた銀山のあった半田山を背景に立っている。一方、正五角柱が置かれたのは、明治時代の洋風建築で国の重要文化財になっている旧伊達郡役所の前庭。他の作品は、駅と郡役所をつなぐ南北約1.5キロの通り沿いの空き地に設置されている。この展覧会の魅力は、日常的な景観の中に、まったく異質な新しいものが見えることにある。
 町では「歩くこと」を基本にした街づくりを都市計画の基本にすえている。中心商店街の所々に、一休みして立ち話でもできるような場所、ポケットパークを設けて彫刻を置き、道行く人々の目を愉しませ、ひいては商店街の賑わいを取り戻したいという発想から始まったという。江戸時代、旅人のために街道沿いに設けられた「休み石」を連想させる。そういえば、ここ桑折町は仙台に向かう奥州街道と、山形、秋田に抜ける羽州街道の分岐点でもあった。 この展覧会のよい点は、会期が非常に長いということだ。
 
 問題があるとすれば、彫刻の設置場所だろう。前述の2カ所はよいとしても、他の2カ所は家のすぐ脇に窮屈そうに置かれ、塀越しに隣家が否応なしに目に入る場所に設置されている。三木の作品の大きさ、形状などが町当局の予想を超えたものだったことで、当初計画とは異なる場所での設置になったという事情もあるようだが、それにしても彫刻は周囲の空間や背景が重要だということを認識してほしい。
 うれしいことに、この展覧会は会期が非常に長い。昨年10月から始まり、今年の年末まで見ることができる。しかも街中に何気なく置いてあるので、気兼ねがいらない。もちろん無料である。4月には伊達郡役所の桜が見ごろだし、5月になると町の周辺はりんごの花の白や桃の花のピンクに染まる。懐かしさを抱かせる商店街の散策がてらにでかけてみてはいかがだろうか。

会期と内容
●「語らいの小径 街なか彫刻展 三木俊治彫刻展―道光宇宙―」
会期:2005年10月22日(土)〜2006年12月8日(日)
会場:福島県伊達郡桑折町内 駅前広場ロータリー/旧福島蚕糸社宅跡地/ふれあい館/旧伊達郡役所 
観覧料:無料
主催:桑折町
問い合わせ:桑折町役場都市整備課 TEL. 024-582-2405
http://www.town.koori.fukushima.jp/hp/toshi/index.html

[いとう きょう]
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