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学芸員レポート
福島/伊藤匡|東京/住友文彦豊橋/能勢陽子福岡/山口洋三
「コレクションの四半世紀」
福島/福島県立美術館 伊藤匡
コレクションの四半世紀
 今年開館25周年を迎えた宮城県美術館で、コレクションの全館展示が行なわれている。全体では4カ月のロングランで、現在その第2部「平福百穂を知っていますか」が開催中である。美術館の建設準備が始まった時点では作品がほとんどないという、典型的なハード優先でスタートした同館は、開館25年後の今日、4,000点の収蔵作品を数えるに至った。同館の精力的な収集活動の成果である。
 サブタイトルからは日本画中心の展示という印象を受けるが、実際は洋画、版画、彫刻、写真などさまざまなジャンルの作品約350点が、5つの章立てで展示されている。なかでは第1章の「それぞれの東北」が充実した内容だ。東北の作家だけではなく、東北の風土や人々をテーマにした絵画、彫刻、写真なども展示されている。所々で雑誌のコラムのような小テーマが提示され、見る者を「東北論」の思考に誘う。先日亡くなった岩手県出身の画家村上善男の考えた東北像、アララギ派の歌人同士だった平福百穂と斎藤茂吉、京都に居を定めながら出身地山形にこだわり続けた日本画家小松均の生き方などである。今回の展示は、東北の主要な作家を一度に見ることのできる好機である。仙台という都市は「仙台は東北の代表ですよ」という顔と、「仙台は東北とは一線を画していますよ」という顔を使い分ける一面があり、都市の性格を反映してか宮城県美術館にもその傾向があるように思う。とはいうものの、東北全域を対象として作品を収集しているのは、同館しかないのも現実である。
 続く「発見された画家」の章では、戦前帝展に社会的テーマの油絵を発表した大沼かねよと、戦後具体美術の運動に関わった抽象絵画の菅野聖子を取り上げている。ともに宮城県出身ながら地元ではほとんど忘れられ、同館の調査活動を契機に再評価されつつある画家である。美術館の基本的な機能である調査、展示、収集活動が実を結んだ例として提示されている。
 同館はクレー、カンディンスキーら、ドイツ系の作品を収蔵していることで知られているが、今回の展示の第3章では「表現主義と日本」と題して、ドイツ表現主義の版画と日本の創作版画の比較展示や、ゴッホから受けた影響などのテーマを設け、20世紀初めの美術の世界的な相互関連性を見せている。「さまざまなコレクション」の章では、洲之内コレクションの異色画家の小品、イタリア・フランスのポスターを集めた三浦コレクション、天江・島田コレクションの竹久夢二、後藤コレクションの新版画、仙台の旧家伊澤家に伝わった日本画などが並ぶ。必ずしも同館の収集方針と一致しているわけではないものの、こうした個人コレクションが美術館に納まることで、文化財の保存に役立ち、また美術館のコレクションにも厚みが増す。最後に、別館の佐藤忠良記念館では彼の彫刻や素描と、彼が制作の参考のために集めた素描や版画などが見られる。ロダン、ムーア、マリーニ、マンズーら彫刻家だけではなく、ドガ、クリムト、ピカソらの素描や版画なども含まれている。
 これだけの作品を一度に見ることができる機会はめったにない。同館の普段の常設に通い詰めても、これらの作品のほとんどを見るには何年もかかるだろう。だが残念なことに、観覧者は多くはなかった。平日の午後とはいえ、2時間ほどの間にすれ違ったのは10人に満たない。これほどのコレクションがあっても、多くの人がそれを目的に訪れるようになるのは、まだ先のことなのかと思いながら、帰途についた。

会期と内容
●コレクションの四半世紀─平福百穂を知っていますか─
会期:2006年6月3日(土)〜7月30日(日)
会場:宮城県美術館
仙台市青葉区川内元支倉34-1 TEL. 022-221-2111
開館時間:9:30〜17:00
休館日:毎週月曜日(休日にあたる場合を除く)

学芸員レポート
 私の勤務する福島県立美術館のホールに設置されていた公衆電話が、数日前に撤去された。電話の使用料収入が月間4千円に満たない場合は撤去するという電話会社の説明があったという。美術館の敷地内には公衆電話ボックスがあるので、30メートルほど歩けば電話をかけることはできるのだが、屋外だから雨や雪のときは、濡れることを覚悟しなければならない。ホール内の公衆電話は、主として美術館の来館者が帰りのタクシーを呼ぶ際に使われていた。もっとも来館者の3分の2はマイカーで来館するので、タクシーの需要は多くはない。またこれほど携帯電話が普及しているから、当然公衆電話を使う人は少ない。使用頻度が少ないので、電話会社としても経済の論理から、公共の施設だからといって例外扱いはできないのだろう。だが、少ないとはいってもゼロではない。マイカーも携帯電話も使わない人はいる。年配の方はその傾向が強い。そして美術館の来館者は年配の方が多い。タクシーを呼べないという苦情は美術館に来る。そこで美術館はどうしているかというと、代わりに電話をかけてタクシーを呼んでいる。何か方法がありそうだが、今のところ具体策は出ていない。ひとつ言えることは、マイカーも携帯電話も使わない人にとっては、使い勝手が悪くなったということである。気がつけば、社会のあちらこちらで同様の構図が見える。余裕がない社会になったと思う。余裕がない社会に芸術、文化は育つのか。それとも余裕のない社会だからこそ、芸術、文化が必要とされるようになるのか。
[いとう きょう]
福島/伊藤匡|東京/住友文彦豊橋/能勢陽子福岡/山口洋三
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