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学芸員レポート
福島/伊藤匡|東京/住友文彦東京/南雄介豊田/能勢陽子福岡/山口洋三
「VOCAに映し出された現在」
福島/福島県立美術館 伊藤匡
宇都宮美術館
VOCA展会場
上:宇都宮美術館
下:VOCA展会場
 宇都宮美術館でVOCA(ヴォーカ)展の受賞作品を集めた展覧会が開かれている。展示されているのは、1994年の第1回展から2005年まで12回のVOCA賞およびVOCA奨励賞の全受賞作品に、本展の会期中にレクチャーを行なう作家7人の新作が付け加えられている。
 VOCA展は、美術館学芸員の関心が高い展覧会である。その理由のひとつは、この展覧会が推薦制で、全国各地の美術館学芸員や美術ジャーナリストが作家を推薦する仕組みになっているからだろう。推薦された作家だけではなく、推薦した学芸員の作家を見る目に対しても厳しい批判のまなざしが向けられるのだ。VOCA展の出品作家や作品を、美術館の展覧会などの出品作家をリストアップする際のデータベースとして利用するという現実的な理由もあるが。一方、作家にとってはどうなのだろう。始まった頃のVOCA展受賞作家は、すでに美術界である程度知られた作家が多かったように記憶しているが、回を重ねるにつれて、ここを舞台に全国的に知られる作家も現れている。また他の公募展などをみても、VOCA展で見たような画風の作品が目立つ気がする。よくいわれるVOCA調(極私的モチーフ、内向的世界、ピントがあわない視覚等)の増加も、作家がVOCA展を意識している証かもしれない。
 さて、宇都宮美術館での展示は作家数55人作品数で80点近くになり、大画面が多いこともあって結構なボリュームである。もう少し作品間の間隔をとってゆったりと見せたかったと展覧会担当の学芸員石川潤さんはやや残念そうだった。展示はおおむね編年だが、レクチャーを行う7人の作品は外光が差し込む回廊や円形のホールに展示されている。作品保存のことを忘れて見る側に立っていえば、自然光で見る作品は展示室内の人工照明よりもはるかに心地よく見ることができた。
 受付で配られるパンフレットを見ながら展示室をまわっている人が多く見られた。パンフレットの中身は、同館の谷新館長による全作品についての解説である。わかりやすさを追求した各300字程度の分量で、鑑賞のガイドとして好適である。まず自分の感覚を頼りに展示室を一周して、次に解説を読みながらもう一度各作品を見ると、自分なりの印象と解説に導かれる発見の楽しみが味わえるだろう。

会期と内容
●VOCAに映し出された現在 いまいるところ/いまあるわたし
会期:2006年7月9日(日)〜9月18日(月)
会場:宇都宮美術館
栃木県宇都宮市長岡町1077 TEL. 028-643-0100
■9月以降の関連企画
出品作家によるレクチャー 
石川順恵「私の絵について」聞き手:谷新(宇都宮美術館館長)
9月2日(土)14:00
東島毅「Painting Life 1988-2006」聞き手:岡本康明(京都造形芸術大学教授)
9月9日(土)14:00
場踊り
田中泯「天地歩測」
9月17日(日)15:00

学芸員レポート
「アートなおはなしかい」
〈アートキューブ〉
上:「アートなおはなしかい」
下:〈アートキューブ〉
 この夏、福島県立美術館と県立図書館が共同で「アートなおはなしかい」というイベントを開催した。内容は図書館での絵本の読み聞かせと美術館での作品鑑賞である。個々には何度も開催しているのだが、今回はこれを組み合わせたところがポイントだ。美術館と図書館の建物は棟続きになっているのだが、共同で事業を開催するのは、開館以来22年間で初めてである。
 午前の部に参加した子どもは15人。ほとんどが小学校の低学年だ。親たちは後ろの椅子に座り、子どもたちは靴を脱いでカーペットに座りこむ。子どもたちは初対面のためか落ち着かない表情だったが、司書の加藤麻依子さんが長新太の『ぼくのくれよん』をゆっくりと、おだやかな声で読み進めるうちに、しだいに絵本にひきこまれていく。
 30分ほど、読み聞かせと本の紹介をして図書館の部は終了。回廊を通って美術館に移動し、常設展示室で〈アートキューブ〉を使った美術鑑賞を行なった。
〈アートキューブ〉とは、当館と郡山市立美術館の教育普及担当学芸員がミュージアム・グッズ企画製作会社のミュゼと共同で開発した美術鑑賞補助教材である。
 子どもたちはまず、池田遙邨の日本画『大漁』を鑑賞する。実物を触ることはできないので、〈絵画キューブ〉で日本画の岩絵具のざらざらした触感を手で感じてもらう。〈絵画キューブ〉には日本画、油彩画、水彩画、アクリル画で描かれたイチゴの絵が貼りつけられていて、質感の違いを手で触って確かめることができる。次に〈感覚キューブ〉をサイコロのようにころがして、絵を見て感じる匂い、聞こえる音、手触りなどを子どもたちに発表してもらう。最後にマックス・エルンストの版画『博物誌』に使われているフロッタージュの技法を試して自作の栞づくりに挑戦した。子どもたちは〈アートキューブ〉に触ったり動かしたりという行動をともなうために、あきることなく絵を見ていたように思う。意外にも、参観していた親たちも〈アートキューブ〉に強い関心を示した。「今まで展覧会で日本画とか油彩とか書いてあってもよくわからなかったけど、今日聞いてみて初めて違いがわかった」という声も聞かれた。美術館にとっては、子どものための鑑賞用教材として開発した〈アートキューブ〉が、大人向けにも活用可能とわかったことが収穫であった。
[いとう きょう]
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