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学芸員レポート
青森/日沼禎子|福島/伊藤匡|豊田/能勢陽子大阪/中井康之
光が彩なす交響楽──眞板雅文インスタレーション
福島/福島県立美術館 伊藤匡
上から
・グランドギャラリー奥の作品
・グランドギャラリー中央部の作品
・屋外展示スペースの作品
・屋外展示スペースの作品 夜
 岩手県立美術館では開館以来ほぼ毎年、一人の作家を招いてインスタレーションを行なっている。これまでの招待作家は染色作家辻けい、石彫家和泉正敏、作庭家牧岡一生、美術家菅木志雄と、バラエティに富んでいる。
 インスタレーションは現代の美術のなかで重要な表現形式だが、「インスタレーションって、何?」と聞かれると言葉での説明がたいへん難しい。「場所や空間全体を作品として体験する芸術のことです」と言っただけでは、相手の顔には納得の表情は浮かばない。実際に作品を見てもらうことがいちばんであり、美術館が敢行する意義も大きい。
 さて、2006年度は眞板雅文の光を使ったインスタレーションである。「光が彩なす交響楽」は3組の作品で構成されている。吹き抜けの回廊(同館の名称はグランドギャラリー)の中央では、直線に並んだ10個の白熱球が床のすぐ上で光る。回廊の最奥部には同様の仕組みで16個の白熱球が円を成している。乳白色の床に光が反射し、光の球は倍に見える。
 屋外では900平米のスペースをいっぱいに使った大規模な展示がなされている。10メートル近い高さの足場で囲われた空間の中に、7個×5列、計35個の白熱球が、やはり長いコードを介してつり下げられている。電球の下にはそれぞれ鉄製の桶が置かれている。中には水が張ってあったり、植物が植えられたりしている。この表現の萌芽は2005年のアート@つちざわでも見られたが、今回の展示ははるかに規模が大きい。
 この屋外展示スペースは美術館の建物とコンクリートの高い塀に囲まれ、塀越しには高圧線の鉄塔や電線、電話会社の受信塔などが見え、一本だけ植えられているけやきを除いては、直線が強調され無機質な印象を受ける空間である。眞板のインスタレーションも金属製の足場に囲まれコードも垂直につり下げられているので、遠目には縦横の直線に区切られた固い表情を見せる。だが実際には、少し風が吹くと長いコードがゆらゆらと振動し、それにつれて光も揺らぐ。雪が舞えば、光は瞬く。冬の盛岡は本州でも指折りの寒いところだから、桶に張られた水は毎日凍る。1日中融けないこともある。陽の光があたれば足場のあちこちが反射して作品全体が輝く。陽が落ちるにつれて白熱球の存在が目立つようになり、夜ともなれば昼間見たのとは全く別の作品が眼前に現れる。自然や季節の移ろいを、この作品は増幅して伝えてくれる

会期と内容
●光が彩なす交響楽──眞板雅文インスタレーション―
会期:2006年10月6日(金)〜2007年3月20日(火)
会場:岩手県立美術館 盛岡市本宮字松幅12-3 TEL. 019-658-1711
観覧料:無料
 
●関連イベント 能
日時:2007年3月18日(日)18:00〜
場所:岩手県立美術館グランドギャラリー   
上演:大島衣恵(喜多流大島能楽堂)   
観覧料:無料(事前申し込みが必要)

学芸員レポート
東北美術館会議での質疑応答
 1月25日、岩手県立美術館で東北美術館会議が開かれ、東北六県と新潟県の美術館、博物館31館から約50人の美術館員が参加した。この会議は、前史をたどれば40年の歴史をもち、現在の名称になってからでも18回目を数える。従来は親睦会的性格が強い会だったが、昨今のミュージアムを取り巻く環境の厳しさを反映してか、今年は実践的な研修会になり、参加人数も最近になく多かった。
 今年のテーマは「民間企業のマーケティングと美術館広報の実践例に学ぶ」。新生銀行リテール部門マーケティング部長福田桂子氏が「民間企業のマーケティング実践例」と題して基調講演を行ない、その後青森県立美術館と岩手県立美術館の広報担当者による両館の広報活動についての報告があった。
 福田氏のお話はミュージアムの運営にとって重要な示唆を与えてくれたように思う。当日のキイワード「ブランディング」(ブランドを構築する活動のこと)という言葉さえ初めて聞いたというレベルの理解力で、骨子を要約すれば、企業にとってのブランドの重要性と、ブランド力をいかに高めるかということだったと思う。高金利を謳った魅力的な商品のCMが記憶されていないのに、32色の中から好みのキャッシュカードを選ぶことができるというCMは顧客の印象にのこるという現実から、ブランド力の向上と質の高い商品の両方が重要であると説く。企業のブランド力を向上することで人々を引きつけ、来店した顧客に商品の魅力に気づいてもらう。このブランド力向上の努力と良い商品の相乗効果がなければ販売増にはつながらない。
これは従来多くのミュージアムが取ってきた方向とは異なるものだ。ミュージアムはコレクションや展覧会の質を上げる努力はしていると思うが、ミュージアム全体のブランド力を高めることには熱心ではなかった。質の高い活動(とくにコレクションと展覧会)をすれば、ミュージアムとしての評価も高まるはずだという考え方だ。
 どこのミュージアムでも、良い展覧会なのに観覧者が少ないという経験があるだろう。その原因を、これまでは広報不足や展覧会の難易度、あるいは気象条件に求めることが多かった。しかし福田氏の話を敷衍すれば、原因はそれだけではない。商品(この場合は展覧会)の宣伝だけでは顧客には浸透しない。商品を提供するミュージアムのブランド力向上を図ることが重要である、ということになるだろう。
 ミュージアムは、潜在的には各地域でのブランドとなる可能性はもっていると思う。またブランド力向上の努力も個別にはしていると思う。問題は、その努力が個別、散発で方向性が見えていないことにあるのではないかということを考えた。
[いとう きょう]
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