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学芸員レポート
福島/伊藤匡|愛知/能勢陽子大阪/中井康之広島/角奈緒子
奥の若手道/I'm here 2007/ゼロダテ2007
アート・ステーション・ギャラリー

福島/福島県立美術館/伊藤匡
  リアス・アーク美術館では〈N.E.blood 21〉(東北の血、気質という意味だそうである)というシリーズの企画展を年間5回開催してきた。このシリーズの5年間を振り返り、このシリーズに登場した作家の近作をまとめて紹介する展覧会が「奥の若手道」展である。
「奥の若手道」展示風景
「奥の若手道」展示風景
 体育館のような展示室内に、平面・立体取り混ぜて24作家78点の作品が所狭しと置かれている。傾向も手法もまったく異なる作品群を見ての素朴な印象は「東北、北海道にもいろいろな作家がいるなあ」というものだった。それはこの企画のねらいでもある。作家との共同作業によって展覧会を開催し、作家の発表の場を確保すること。それを続けることによって「東北には若い作家がいない」という状況を変えていくこと。「東北の未来を支える芸術文化の拠点となる」ことをこの美術館の使命と認識し、この企画をそのための重要な活動と位置づけているのである。理念だけではない。実績も驚くべきものだ。この〈N.E.blood 21〉は、予算が開館当初の五分の一に削減され事業の徹底的な見直しのなかで生まれている。同館主任学芸員の山内宏泰氏に聞いたこの企画の予算額は、聞き間違いかと思われるほど低い。低予算で開催する地方の若手作家の展覧会を始めてから、同館の入館者数は伸び始め、3.5倍にもなっているのだという(詳細は同展図録掲載の「N.E.blood 21という試みについて」参照のこと。美術館学芸員にとっては大いに参考になる)。
 現在、東北・北海道という広いエリアを対象にした企画はこの〈N.E.blood 21〉展以外にはない。なぜなら、どこの美術館も予算削減や収入増を求められ、視野や発想が萎縮しがちなうえ、現実的にも対象範囲を広げると確実にコストが上がってしまうと考えるからだ。そのようななかにあって、逆転の発想と明快な戦略で美術館の役割を着実に果たしているリアス・アーク美術館の行き方は、同じ学芸員として反省させられるところが多く、また大いに参考になった。「奥の若手道」展は、美術館の学芸員に見てほしい展覧会である。

「二つのアート・プロジェクト」
 東北でもアート・プロジェクトが増えてきた。そのなかから二つご報告しよう。いずれも〈街〉がキーワードになっている。
〈I'm here 2007〉
後藤拓朗《しがらみ》
 〈I'm here 2007〉は山形市内の画廊、喫茶店、商業ビルなど五会場で開かれた。もともとは同市の東北芸術工科大学卒業生の展覧会として、仙台市で過去2回開催していた。3回目の今年は山形市に場所を移し、さらに閉じられた展示空間から開かれた街に入りこんだ開催となった。〈根の街へ〉というサブタイトルは、制作の立脚点としての地元を見直し、地域とアートのより深い関わりをめざすということだろう。
 各会場が離れているため祭りの雰囲気は薄いが、地図を片手に街を探訪する面白さがある。出入り自由の画廊や喫茶店よりも、このような時でなければ入れない空きビルなどで、その空間でしか成立しないアートを見ることができると得をした気分になる。その点では、改装予定のビルの一室で、壁紙をはがして壁に直接ドローイングした後藤拓朗の作品が楽しめた。
藤浩志「カエッコ・ヤ」
藤浩志「カエッコ・ヤ」
 〈ゼロダテ2007〉は、秋田県大館市で今年初めて行なわれた。大館出身のアーティストたちが企画し、地元の商店街とともに実現したプロジェクトである。こちらは地域との関わりがもっと明快で、空洞化が進行する中心市街地をアートによって元気づけようという趣旨である。主会場の大町はその名のとおり格式の高い商店街だったのだろうが、集客の中心だったデパートが閉店して以来賑わいが戻らず、空き店舗が目立っている。このプロジェクトでは総勢100人の作家が、20店舗40フロアを展示空間に転化させている。なかには20年振りに扉を開けたという店舗もあり、強烈なカビの臭いと消しようもない雨漏りの痕跡が、この街の20年間を語っているようだ。人が入れるようにするまでの掃除や補修だけでも大変だっただろう。初日は雨模様で人通りは少なかったが、それでも地図を片手に歩く人がちらほら見かけられた。いちばんの人気は藤浩志のワークショップ「カエッコ・ヤ」。いらなくなったおもちゃを欲しいおもちゃと交換する、お金のいらないこどもの遊び場だ。目を輝かせた子どもたちが、夢中でおもちゃを物色していた。
会期と内容
●奥の若手道〜東北・北海道の明日〜
会期:2007年7月21日(土)〜9月2日(日)
会場:リアス・アーク美術館
宮城県気仙沼市赤岩牧沢138-5/Tel.0226-24-1611
巡回日程:
北海道立函館美術館=2007年9月30日(日)〜10月14日(日)
北網圏北見文化センター
[前期]2007年11月17日(土)〜12月16日(日)
[後期]2007年12月20日(木)〜2008年1月27日(日)
鶴岡アートフォーラム=2008年2月9日(土)〜3月9日(日)

I'm here2007 根の街へ
会期:2007年7月5日(木)〜7月15日(日)
会場:山形市内の画廊、喫茶店、ビルなど

ゼロダテ/大館展 2007
会期:2007年8月10日(金)〜8月18日(土)
会場:秋田県大館市大町商店街空き店舗
学芸員レポート
アート・ステーション・ギャラリー外観
野中昭美「月夜の決心」
上:アート・ステーション・ギャラリー外観
下:野中昭美《月夜の決心》
 岩手県八幡平市にある画家ゴトウ・シュウ氏を訪ねた。埼玉や静岡に住み、デザイナー、版画家として活動していたゴトウ氏は、一昨年秋にふるさと旧安代町荒屋の廃校になった小学校をアトリエ兼ギャラリーに改装し、自分の目で選んだ作家に声をかけて個展を開く活動をしている。訪問したときには、地元出身で山形在住の若い工芸作家野中昭美の個展が開かれていた。カエルや犬をモチーフにした作品には独特のユーモアがある。古い木造校舎の内部が、作品栄えのする空間になっていることにも驚かされた。ゴトウ氏が自ら教室や廊下の壁を白く塗り直しているためだが、直線的で飾りがない学校建築と現代美術の作品は相性がよかった。
 作家の紹介だけではなく自らの制作も旺盛で、ゴトウ氏が一冬かけて制作した100枚のドローイングを見せてもらった。手間のかかる手法だが、それだけの充実した密度感がある。こうした作品は、じっくりと腰を落ち着けて取りかからなければできない。安代はスキー場で有名な安比高原の麓にあり、雪が多く寒さも厳しい。町全体が雪に埋もれる冬、有り余る時間で制作を続けたのだろう。作品を熟成させるための時間ということを感じた訪問だった。

●アート・ステーション・ギャラリー
岩手県八幡平市清水2-1 旧荒屋小学校跡
Tel&Fax.0195-72-2922

[いとう きょう]
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