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学芸員レポート
札幌/鎌田享|福島/伊藤匡青森/日沼禎子大阪/中井康之
FIX・MIX・MAX! 現代アートのフロントライン(最前線)
札幌/北海道立近代美術館 鎌田享
祭太郎
黒田晃弘
伊藤隆介
上から祭太郎、黒田晃弘、伊藤隆介の作品
 11月10日(金)から19日(日)まで、私が勤務する北海道立近代美術館で「FIX・MIX・MAX! 現代アートのフロントライン(最前線)」という展覧会が開催されました。
 その展覧会場は一枚の扉を開けるところから始まります。当館の展示室入口は縦横3mの開口部となっていますが、それを仮設壁で塞ぎ作った扉から先が最初の作品。向こう側には電球で照らされた短い廊下、その壁は古い壁紙で覆われています。この壁紙は作者の旧宅から引き剥がされたもの。廊下の先にある2枚目の扉を開けると、真っ暗な小部屋……。薄くスモークを焚いた暗闇の中央には、一本の光の柱が降り注いでいます。静寂さ漂う瞑想的なこの空間は、札幌のアーティスト今村育子の作品。
 さらに先の扉をくぐって外に出ると、目の前には木材で組み立てた仮設リング。風船や紙花、電球で飾り立てられたリングのかたわらには、和太鼓が置かれています。こちらは京都在住の祭太郎の作品。来館者が叩いた太鼓の響きにあわせてアーティスト自身がリング上で受け身を取るという、陽気で賑やかなパフォーマンスが繰り広げられます。かたわらの壁面には平面作品が展示されていますが、その前には椅子が置かれ来館者の肩をもむ作者。こちらは札幌の高幹夫のコーナー。指圧をされリラックスした状態で、自分の作品を見てもらおうというパフォーマンスです。
 「FIX・MIX・MAX!」は、札幌発の現代美術展を自らの手で作り出したいと、札幌のアーティストやサポーターが企画した展覧会です。出品作家はこの他、札幌在住の伊藤隆介・上遠野敏・黒田晃弘・武田浩志・端聡・坂東史樹・真砂雅喜に、国内から大竹伸朗(1974年に北海道別海町の牧場で過ごした際に撮った写真を出品)・木村太陽、そしてドイツの2作家を加えた計14名。タイトルにあるとおり、札幌を中心とする最先端のアートシーンを切り取り提示することを目指しています。展示作品から立ち上がってくるのは、コミュニケーションを希求し渇望するアーティストたちの姿。祭太郎や高幹夫のパフォーマンス、そして似顔絵を描くという行為を媒介に来館者とコミュニケーションをとることを目指す黒田晃弘などは、その端的なあらわれです。また武田浩志は、展示室内に仮設した小部屋の中で同じく北海道のアーティスト・佐々木徹の個展を開くというプロジェクトを実施。こちらも美術館というシステムをパロディしながら、他の作家とのコラボレーションを結んでいます。昨年の横浜トリエンナーレがひとつの象徴でもあるように、コミュニケーションやコラボレーションをテーマにした作品が大きなムーヴメントとなっています。そこには、ホワイト・キューブからの脱却というアート固有の問題意識と、コミュニケーションの不足や欠落が昨今の社会問題の遠因にあるのではないかという社会意識とが働いているのでしょう。
 この展覧会を一言であらわすならば「祭り」。札幌では毎年初夏に「YOSAKOIソーラン祭」というイヴェントが開催されています。15年ほど前にスタートした比較的若いこの祭りは、札幌市内の各所でそれぞれ数十名のメンバーからなる100あまりの踊りのチームが群舞を繰り広げるというもの。踊り手と観客が瞬時に入れ替わるこのイヴェントは、参加者全体が渾然一体となった高揚感と祝祭性をみせます。それこそが、演じ手と観客が二分した都市型イヴェントやアミューズメントパークとは異なる「祭り」の特徴であり、多くの人を巻き込み惹きつける魅力となっています。このような「祭り」が古来備えていた特異な一体感を、「FIX・MIX・MAX!」展もまとっています。ここでは作品や作家と、それを鑑賞する人とが、渾然一体となって展覧会という場を作り出しています。
 「FIX・MIX・MAX!」展は、美術館での展覧会ばかりでなく、その開催前から札幌市内各所で20余りにおよぶイベントを実施してきました。そしてこれら一連のプロジェクトは、すべてボランティア・スタッフによって運営されています。ここにも、この現代美術のプロジェクトを美術館の展示室という閉じられた空間で終わらせるのではなくより開かれた「祭り」にしたいという思いと、その「祭り」をスタッフと観客が一体となって実現し楽しもうという意図が込められています。
 かずかずのプロジェクトを実現したスタッフに敬意を払いながら、あえて気になった点をひとつ。このプロジェクトの現場を見ていると、なんとなく高校時代の学園祭のノリを思い出させます。「祭り」の高揚感に身をまかせるあまり、来場者への気配りがときにおざなりになるというか……。適時適切なアナウンスメントの不足、進行の混乱、楽屋裏の混迷を観客の前にさらしてしまう場面・……。でもそんなことが気になるのも、展覧会の作り手とそれを見に来る来館者という立場に分けてしまう美術館学芸員の取り越し苦労なんでしょうか?う〜ん?

会期と内容
FIX・MIX・MAX! 現代アートのフロントライン(最前線)
会期:2006年11月10日(金)〜11月19日(日)
会場:北海道立近代美術館
札幌市中央区北1条西17丁目 Tel.011-644-4881

[かまた たかし]
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