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学芸員レポート
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和田千秋展「障碍の美術IX−ハネがほしい」
福岡/福岡県立美術館 川浪千鶴
和田千秋展展示風景
和田千秋展展示風景
和田千秋展展示風景
和田千秋展展示風景
和田千秋展展示風景
 「ハネがほしい」、5年前の七夕の日にそう願いをかけたのは、福岡在住の美術家・和田千秋さんの長男。今年16歳になる彼は重度の障碍をもち、歩くこともしゃべることもできないが、文字盤を使って家族と会話をすることができる。
 もっと小さかった頃、彼の願いは「走りたい」だった。立って、歩んで、そして走り出す。その日を夢見て、生れて数ヶ月のときから、毎日長時間欠かさず行われてきた親子一体の訓練。「ハネがほしい」というつぶやきには、彼や彼の家族にしかわかりえない切実な思いと、一家が共有している濃密な時間がこめられている。
 こうした極私的なリアリティーを他人と共有することは不可能に近い。切実さが個的な体験に基づくものであればあるほど、コミュニケーションは放棄せざるをえないから。しかし、11年前から和田さんが取り組み始めた「障碍(しょうがい)の美術」は、ギリギリのところでコミュニケーションを放棄することから、逆に深いコミュニケーションが生れる可能性を示唆している。
 福祉や障碍をめぐる文章作品に実際長男が使用した訓練器具を組み合わせるなどした、これまでのシリーズと異なり、9回目になる今回は絵画だけで構成されている。(文章作品は障碍の美術のコンセプトを記したパネルのみ)さらに、これまでのシリーズでは個々の作品は連関はするものの独立していたのに対して、今回は絵画作品が順にある物語を語り継いでいる点も特異といえる。
 絵画には、アルバムの写真をもとにした、生れて間もない頃から最近までの長男の姿が、平明に、愛らしくマンガっぽく描かれている。
 最初の1点はもっとも最近の息子。そして絵の前には彼の靴が一足。次の絵は、赤ん坊のころにさかのぼる。天使の彫像ように見えるのは描き方のせいだけではなく、せなかに鳥のハネがあるからだ。幼児から少年に成長していく息子の絵姿には、背中に、トンボ、蝶、コウモリ、セミ、ガといった生物のハネが、それぞれキャンバスの地を塗り残すようにして描かれている。そして、再びならベられたハネのオブジェがついた訓練用の靴。一番最後のコーナーには、リアルに描写された母と子の姿があり、その絵の息子の背にはリアルに描かれた、本物の「羽」がある。
 この絵の前には、和田さんが教会から借用してきた木のベンチが置かれており、そこに腰かけて時を過ごした後、振り返ると、まさに個展会場全体が聖堂の雰囲気をたたえていることに気づく。そして、ひとりの少年の願いが、人々の、個々において切実な願いに、そっと静かに重なる瞬間が訪れる。
 近年和田さんは、茶人の中村海坂さんと一緒に車イスで楽に出入りできる茶室を設計し、そこで障碍者も非障碍者も車イスに乗ったまま一緒に参加できる《障碍の茶室》というプロジェクトを開催している。「日常生活の内的必然性」から生み出された障碍の美術は、「美術のリハビリテーション(社会復帰)」という強いメッセージを核にしながらも、より豊かな「実りのとき」を迎えつつある。
(筆者注:和田さんは否定的な意味の強い「障“害”」ではなく、旧字の「障“碍”」を常に使っています。和田さんに倣い、この文章でも「障碍」という文字を用いました。>
会期と内容
●和田千秋展
障碍の美術IX−ハネがほしい
会期:2003年10月25日(土)〜11月9日(日)
場所:共同アトリエ・3号倉庫
問い合わせ先:共同アトリエ・3号倉庫(092-716-9393)
和田さんの絵画教室URL:http://www.geocities.co.jp/Milano-Cat/2021/
3号倉庫URL:http://www.nobr.jp/3/
学芸員レポート
The Art  Jungle Show
「The Art Jungle Show」
 9月から11月にかけて、私が足を運んだ展覧会やイベントは、現場主義とでもいうような企画が圧倒的に多かった。そういう企画が集中した時期でもあったが、私のいまの関心が、時間と場そして人とのかかわりにあるからだろう。
 「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2003」では、理解不能な部分も含めて丸ごとアーティストを受け止める楽しみをおぼえた地域の方々の熱心な解説やもてなしに感心。「有隣荘・中川幸夫・大原美術館」は期間限定のまたとない企画。密室の芸術である「いけばな」に命をかける中川さんの、棟方志功に手向けた花に、いけばなの真意をみた気がする。「国際総合芸術祭 京都ビエンナーレ2003 スローネス」では、なんといっても丹波マンガン記念館探訪が忘れられない(遠いし怖いし)。数ヶ月住み込んで洞窟に手をいれ続けた高嶺格さんの、時間をかけない限り見えてこない対象を待ちつづける態度に、揺さぶられる思いがした。そして、古い町並みと現代美術の出会いはよくある企画だが、「東広島現代美術プログラム2003 白市DNA」では、自分の家が作品化されるという初めての体験を味わった(といっても夫の実家)。アートを受け入れる(受け入れざるをえない)地域住民側の揺れる心理を、きれいごと抜きに知った貴重な機会。ともかくも、「なんだか最後までわからなかったけれど、いろんな人がきて、おもしろいこともあったよ」という義母の感想に、主催者でもないのに胸をなでおろした次第。
 福岡では、ある個人がワンルームマンションの1室を、Mixed Messagesというベテランアーティストの集団に提供して実現した「The Art Jungle Show」がおもしろかった。恐ろしいほど作品を詰め込んでもどこかすっきりしているのは、この集団のチームワークのよさによる。半年は現状のままでいいという破格の条件を生かして、作品を次第に変貌させるプランもあるとか。ジャングルという名にふさわしい成長を期待したい。
[かわなみ ちづる]
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