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学芸員レポート
札幌/吉崎元章|東京/増田玲|高松/毛利義嗣
「写真家・岡本太郎の眼 東北と沖縄」パルコミュージアム
「ことばがひらく 岡本太郎展」川崎市岡本太郎美術館
東京/増田玲[東京国立近代美術館]

上:沖縄久高島 久高のろ 1959
下:秋田男鹿 なまはげ 1957
 東京・渋谷のパルコミュージアムで「写真家・岡本太郎の眼 東北と沖縄」展が開催されている。せんだいメディアテークで5月から6月にかけて開催されていたものの東京展で、初日にさっそく観に行ってきた。
 1996年に死去した岡本太郎については、1999年に開館した川崎市岡本太郎美術館による、一連の意欲的な展覧会などを通じて再検証が進められ、あらためてその多彩な活動が注目を集めている。ちょうど彼の活躍した昭和という時代とも距離がとれるようになってきたこともその背景にあるだろう。彼の残した写真もまたそうした流れのなかで何冊かの写真集が出されるなど、脚光を浴びようとしている。
 今回の展覧会では、岡本太郎が遺した相当な量の写真(岡本太郎美術館に保管されているネガは約2万コマだそうだ)のなかから、標題どおり、東北と沖縄に絞って、50年代から60年代半ば(つまり概ね昭和30年代)に撮影された約170点が展示されている。
 これらの写真は、『芸術新潮』や『中央公論』などに寄稿した一連の日本文化論の取材時に、文章に添えて掲載するために岡本が撮影したものである。したがって中尊寺の仏像や秋田のなまはげ、沖縄の聖地である御嶽(ウタキ)や久高島のイザイホーといったものが中心的モティーフなのだが、同時に、どうということのない田舎道、民家の軒先など、ごく普通の、それだけに記録として残りにくい光景の写真も印象的だ。岡本は前者に日本文化の源流を発見していく。たとえば眼の前で展開される舞踏に文化の源流へつながる何かを発見し、共振しながら被写体を凝視する。その視線がふっとやわらかくなって捉える各地の日常光景は、源流への遡行とは対照的に、現代の私たちにとって「原風景」と言うのもはばかられるほどの断絶を感じる。普通の日常光景が、たかだか40年のうちにどれだけ変容したか、おそらく断層は「列島改造」の1970年代あたりにあるのだろうと思うが、70年代の象徴ともいえる、あの〈太陽の塔〉を思い浮かべながら、その「断絶」にちょっとくらくらする感じがした。なにしろ会場が渋谷の真ん中であるだけに。
 これらの写真とともに発表された一連の日本文化論の発端は1952年に発表された「縄文土器論」で、雑誌発表時に用意された写真がどうしても気に入らず、1956年に本にする際に自ら撮影し直したのが、「写真家岡本太郎」誕生のきっかけだという。そうした多彩な活動からは、青年時代の10年以上に及ぶパリ留学で、あの『贈与論』のマルセル・モースに民族学を学ぶなど、シュルレアリスムなどの前衛芸術だけでなく、それをとりまく20世紀の新たな知の環境の中で、自らの思想を培った、20世紀的知識人としての岡本太郎像が浮かび上がってくる。ちょうど川崎市岡本太郎美術館では、思想家・著述家としての岡本太郎に焦点を当てた「ことばがひらく 岡本太郎展」を開催中なので、渋谷でのくらくらした感じを思い出しながら観にいってみたいと考えている。
会期と内容
●写真家・岡本太郎の眼 東北と沖縄
会期:2003年8月23日(土)〜9月15日(土)
会場:パルコミュージアム(東京都渋谷区宇田川町15-1 パルコ パート3/7F)
入場料:一般700円/学生500円 小学生以下無料
問合せ先:03-3477-5873(パルコミュージアム)
URL:http://www.parco-art.com/parco_museum/(パルコミュージアム)
主催:パルコ

●ことばがひらく 岡本太郎展
会期:2003年7月19日(土)〜9月23日(火)
会場: 川崎市岡本太郎美術館 常設・企画展示室(川崎市多摩区枡形7-1-5)
休館日:月曜日(7月21日、9月15日を除く)7月22日(火)、9月16日(火)
入場料:一般700(560)円、高・大学生500(400)円
※( )内は20名以上の団体料金
※小・中学生、65才以上は無料(要証明書提示)
問合せ先: 044-900-9898(川崎市岡本太郎美術館)
URL:http://www.taromuseum.jp/(川崎市岡本太郎美術館)
主催:川崎市岡本太郎美術館
学芸員レポート
 東京国立近代美術館では、2002年のリニューアルオープン以来、コレクションの展示についても少しずつ新しい試みを始めている。例えば「常設展」というと、読んで字のごとく、いつも同じ内容のように受け取られかねないので「所蔵作品展」と呼ぶことにしたのもその一つ。年5回の展示替えで、約250点の展示作品の半数以上が毎回入れ替わっているのを少しでも知らせたいという、これはささやかな変更だが、ほかにもいろいろあって、そのなかでも目玉の一つが、5月に始まったMOMATガイドスタッフによる所蔵品ガイドである。昨年秋に募集、年末から今年の春にかけて10回の研修を経て登録されたボランティアのガイドスタッフ20人が、毎日交代でトークを担当している。
 ここでは8月24日の回の様子を紹介したい。話の内容や紹介する作品の選択は各スタッフに任されていて、この日は所蔵品ギャラリーに並ぶ作品のなかから、萬鉄五郎〈裸体美人〉、高村光太郎〈手〉、岸田劉生〈道路と土手と塀(切通之写生)〉という当館の代表的な三作品を選んでのトーク。夏休みの日曜、初めて当館を訪れる観客も多いだろうということもあっての選択のようで、「たくさん作品が並ぶ中、今日はこれだけはぜひよく観ていって欲しいという作品を選んでご紹介します」という挨拶でガイドがはじまった。
 学芸員が作品について話すと、ついつい作家・作品の歴史的位置付けといった方向に進みがちだが、この所蔵品ガイドでは、あくまで作品それ自体に表されているところを話題の中心に置く事になっていて、この日も話のとっかかりは〈裸体美人〉の黒々と描かれた鼻の穴について。またこのガイドのもうひとつの特徴が、「対話型」というところで、用意した内容を淡々と話すのではなく、ところどころで参加した観客の発言を促すようなやり方を試みている。こうしたスタイルの場合、どういうお客さんが参加しているかによってトークが左右されるという面はどうしてもあるのだが、この日は小学校低学年ぐらいの少年が、彼にとっては自分の目線より高い位置に展示されている高村光太郎の〈手〉を見上げながら、大人の視点からは見えにくい位置にサインが刻まれているのを発見して思わず「なんか書いてある!」と発言。この見つけにくいサインは担当スタッフ自身も知らなかったそうで、参加者が順番にしゃがんで彫刻を見上げ、サインを確認するという場面もあった。そんなやりとりもあって、三つ目の作品、岸田劉生〈切通之写生〉の前に移動した頃には、参加者も作品を仔細に観察する面白さを積極的に楽しみ始めている様子で、そこそこの盛り上がりのうちに30分ほどのガイドは参加者の拍手で終了。
 すでに各スタッフが4、5回ずつガイドを担当し、それぞれに慣れてきている一方、担当日以外にも美術館のライブラリーで次回のガイドに向けて調べものをするなど準備にも余念がなく、この日も劉生の描いた「切通し」の坂道の現在の写真が用意されていたり、気軽に聴けるトークも、実はけっこう力が入っている。artscapeの読者の皆さんは、美術館に行ってもそれぞれ鑑賞するペースや自分の観方があって、あまりこういったギャラリーガイドには参加されないかもしれないけれど、タイミングが合ったら一度ぜひご参加ください。毎日14時半スタートです。
[ますだ れい]
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