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プライバシーステートメント
学芸員レポート
札幌/鎌田享福島/伊藤匡|東京/南雄介|大阪/中井康之山口/阿部一直
「横浜トリエンナーレ2005」/「BankART Life 24時間のホスピタリティー」
東京/国立新美術館準備室 南雄介
 最初から私事で恐縮だが、わが家にはもうじき2歳になる子供がいる。もう少し大きくなるとまた違うのだろうが、このくらいの年齢では、連れて出かけられるところも限られていて、通常の美術の展覧会などは、まず最初から考えない。こちらも大変だし、子供も何も理解できずに退屈してしまうだろうと思う。だがこれならば楽しんでくれるかもしれない、と思い、また家から近いこともあって、先週は横浜トリエンナーレに、そして今週はBankARTに、子供連れで足を運んだ。結果から言うと、これはまあ、両方とも上々で、広々とした大きな空間で、変なものに潜り込んだり登ったり、日常とは違った体験を味わい、それを楽しんでいたようだった。2歳の子供にとってどう映ったかは何とも言えないが、それはたぶん、遊園地に行ったりするのとそう変わりはないものなのだろう。とはいえ頑是無い子供にそれ以上のことを求めることは、もとより不可能であろう。それにこちらも、常ならば大人として、あるいは専門家として、一定の距離から静的に鑑賞するところが、子供と一緒に作品の圏域に引き入れられ、参加することになった。

 横浜トリエンナーレについては前回のこの欄で記したので多くを語るつもりはないが、実際に見た印象を簡単に述べておくと、第1回目よりもカジュアルでリラックスした展覧会になっていて、なかなか気持ちよく楽しめた。海に突き出した倉庫の中というロケーションがうまく機能し、「日常からの跳躍」というテーマが体感されたように思う(会場となっている山下埠頭は、通常は立ち入ることができない場所である)。総合ディレクターが提出しようとしたアートや国際展といった枠組みの問い直しは、たしかにある意味、果たされていたのではないか。単なる前衛主義や自己陶酔に陥ることなく、日常性や生活感覚とアートとの交叉から積極的な意味を引き出していこうとする方向性には共感を覚える。もともとこの国の伝統のなかでは、芸術と生活とは常に近しいところにあり、その意味では観衆にとっても、それほど違和感がなく受け入れられたのかもしれない。

 さて、BankARTで開かれていたのは、「BankART Life 24時間のホスピタリティー」と題された展覧会である。横浜トリエンナーレの連動企画として、トリエンナーレのスタッフのためのくつろげる空間づくりが共通したテーマとなる、30組ほどのアーティスト、建築家、デザイナーの作品が展示されている。「展覧会場で泊まれるか?」というキャッチコピーが掲げられているが、夜間はトリエンナーレ公認ボランティア・作家アシスタントが利用でき、実際に宿泊できるのだという。くつろぎの空間づくりは、トリエンナーレの第二会場といった印象も呈していて、そしてよりいっそうリラックスした(「ゆるい」、というべきか)ものになっていた。それは、展覧会としてのテーマに起因する部分ももちろんあるのだが、それとともにNPOの運営によるオルタナティヴ・スペースというこの会場の特性にも由来するものなのではないか。憩いの空間という主題への取り組みは、作者が建築家なのかデザイナーなのかアーティストなのかによって、当然のことながら位相の違いがあるのだが、そういう異なった要素が混在しているために全体の構成がほどよくほぐれているような印象を受けた。要するに、さまざまな要素が相まって、リラクセーションの実現に貢献していたのだと思う。
 一方で、「展覧会場で泊まれるか?」という問いかけは、トリエンナーレが掲げたアートや展覧会の枠組みの問い直しとも重なる主題であろう。ここに見られるラディカリズムは、またBankARTが活動を開始したときから目指されてきた種類のもので、この組織の硬派な側面や理論的な可能性を代表しているのではないかと思う。「BankART的生活/BankARTでの生活」というもう一つのキャッチコピーに、それはよく現われている。このスペースの活動の集大成的な表現ともなっているように、私には思われた。いわゆるArt/Life系のアートは、1995年以降のポストバブル期における新しいアートの、二大潮流の一つであると常々思っているのだが、その一つの実践の形を体現していると言えよう(ちなみにもう一方は、スペクタキュラーでフィクティシャスなイリュージョニズムとでも言うべきものである)。トリエンナーレのような巨大イベントと連動し、それをBankART自体のテーマに即して読み替えることで、BankARTの活動そのものが持っている重要性や国際性が、大きな意味を持って浮上しているのではないだろうか。
会期と内容
横浜トリエンナーレ
会期:2005年9月28日(水)〜12月18日(日)
会期中無休
開場:10:00〜18:00(金曜日は21:00まで。入場は閉場の1時間前まで)
会場:横浜市山下ふ頭3号、4号上屋(山下公園先)ほか

●BankART Life 24時間のホスピタリティー
会期:2005年10月28日〜12月18日
会場:
BankART 1929 Yokohama
神奈川県横浜市中区本町6-50-1 TEL.045-663-2813
■ BankART Studio NYK
神奈川県横浜市中区海岸通3-9 TEL.045-663-4677

[みなみ ゆうすけ]
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