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学芸員レポート
福島/伊藤匡東京/住友文彦|豊田/能勢陽子
「自然への眼差し――オーストリア現代美術展」
豊田/豊田市美術館 能勢陽子
クラウス・モーゼティッヒ
展示風景
上:クラウス・モーゼティッヒ
下:展示風景
 自然に対する認識は、技術の発展や科学の進化、哲学の定義などにより時代に応じて変化する。自然なものと人工的なものとの境界線が曖昧になってきている現在、多様な視点からのアプローチが可能であり、もはや単一のまなざしで自然を識別することはむずかしい。「自然への眼差し:オーストリア現代美術展」では、8人の現代作家による多様な自然との関わり方、観点が示されている。
 ドリス・クリューガーは、ウィーンの植物研究所のアーカイブから画像を取り込み、それらを寄せ集め、鬱蒼とした原生林の風景写真を作り出す。そこでは植物の特性は顧みられることなく、高山植物と低地植物が同一の場所に生育している。クリューガーと親しく交流する植物学者は、この様子を見て苛立ちを隠せなかったというが、それに対しクリューガーは「生活圏はそれほど不変なものであろうか?」と答えたという。植物学に詳しくないものが見ても、明らかにデジタル編集が施されていることに加え、この風景はどこかおかしいと感じさせられる。それは現実にありえない風景を前にしたときの違和感なのだろうが、この違和感は自然と人工が不思議に交差する彼方の世界を垣間見させる。
 クラウス・モーゼティッヒは、1本の木に複数の木が接木された植物を撮影し、ライトボックスで展示した。ある木は女性の名前ばかり、またある木は都市名や国名ばかりで構成される。タイトルには、《移行は情熱のバランスにおけるコンセプト+コンセプトの描写であり、木組みの家のダボとホゾである。総括2》という長いタイトルが付けられているが、これは19世紀の社会思想家シャルル・フーリエのテキストからの引用である。植物には、添え木代わりの直線的なステンレス・フレームが付けられ、「自然は直線を嫌う」というウィリアム・ケントの有名な言葉に逆らうもののようである。また数種の接木が施された木は、まるで虐待されているようにも見える。しかしそうして異物を差し挟まれ、異種配合がもたらされた木は、したたかにさえみえる適応力、生命力を却って際立たせるのである。
 ロイス&フランツィスカ・ヴァインベルガーは、骸骨や手、はしご、葉、そしていくつかの言葉が描きこまれた、都市と自然が混在した地図のような作品を展示した。ヴァインベルガーについては、ワタリウムの「エンプティ・ガーデン」の作品が印象に残っている。それは都心部の美術館の屋上に、時間を掛け小さな庭をこしらえるものであった。そこで育てられた植物は、特に注目されることのない、どこでも見られるようなものである。ヴァインベルガーの意図が、植物の美しさ、可憐さを愛でることにないことはすぐにわかる。その小さな庭は、自然は人間を主体とした一般的な美の概念に当てはめられる必要はなく、多様な現われの一つとしてそこにあり、あるがままに存在するのだという事実に瞬時にして気付かせる。本作においても、骸骨、人間の手などが描き込まれてはいるが、それらはエコロジーの問題を提議するものではなく、われわれ人間も含め、環境の変化の中で滅び、適応していく様を図解したもののようにみえる。
 本展は愛知万博のテーマ「自然の叡智」に合わせ企画されたものである。人々が共通して抱く理想の自然像が失われた現在、それでもいかに自然を引き寄せ、関わるかということは、われわれにとって重要な課題であろう。本展はそうした問題に対し、自然と人工とは互いに排除するのではなく、むしろ近接や混合によって互いに補完しあうといった、現在の状況における積極的な解を示し得ているものであるように思われた。

会期と内容
●自然への眼差し――オーストリア現代美術展
会期:2005年5月27日(金
)〜7月18日(月)
開催場所:名古屋市美術館 
名古屋市中区栄二丁目17番25号(白川公園内) Tel. 052-212-0001

[のせ ようこ]
福島/伊藤匡東京/住友文彦|豊田/能勢陽子
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