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学芸員レポート
福島/伊藤匡東京/住友文彦|豊田/能勢陽子|福岡/山口洋三
「人工夢」/ニューヨーク近代美術館(MoMA)国際巡回展谷口吉生のミュージアム/ベリー ベリー ヒューマン
豊田/豊田市美術館 能勢陽子
山田亘
櫃田珠実
上:山田亘《さよならの押し花》
下:櫃田珠実《幻想の日常》
 電気スタンドを思わせる照明が灯る仄暗い通路が繋ぐのは、夢を見る作家の脳の中のようである。「美術は人工の夢かもしれません」という言葉が導く本展は、名古屋に関わりのある6名の作家の、移ろいやすく、淡く、儚い、夢にも似た作品が展示されている。夢といっても、どこか捉えどころがなく、判然としないものではなく、それぞれの作家の特質はむしろ明快になっている。というのも、我々は夢の中において真の自己に出会うことになるからである。日常生活で他者と交わり、自己から目をそらしたとしても、夢で向き合うのは自分しかいない。孤独で閉じた中においてこそ、それぞれの持つ世界は明瞭になる。
 それぞれの作家には、夢の持つ要素を髣髴とさせるタイトルが与えられている。これは本展スタッフの高橋綾子によるもので、高橋の美術小説も展示室内で散見できる。作家とスタッフが共同して、夢が交錯する一つの物語を作り上げているようである。設楽知昭の(透明壁画)、櫃田珠実の(写真庭園)は、夢の幻想性を映し出す。透明フィルムに青のアクリルで人物や風景を描いた設楽の《透明壁画、人工夢、》は、向こうからも観ることができるというその透過性で、夢のパラレルな特質を伝える。写真を合成することで、どこにもない人工的で奇妙に美しい風景を出現させる櫃田の《幻想の日常》は、その儚い美しさゆえ、却って強度を有している。風景について語る音声波形が池に映える樹木の形態となる、小林亮介(無声写真)の《森へ》は、中国の山水画のような景色を作り出している。作家のコメントにもあるように、蝶になった夢から覚め、人が蝶になるのか、蝶が人になるのか判然としなくなる、荘子のあの「胡蝶の夢」を思い出す。覚醒した世界では言語に依拠しているが、夢の中において言葉はこのような不可思議な樹木を形作るのかもしれない。
 人間が夢のもっとも深いところで出会うのは自分の死だとフーコーはいう。田中元偉(光の缶詰)の《GAZE AT DECAY》、山田亘(不在標本)の《さよならの押し花》は、そうした夢で出会う死のようである。田中は木箱に囲われた光溢れる部屋の内側に、亜麻仁油に漬けた植物の標本を並べる。夢のような光景の中で、かつて生命に満ちていたそれらは、徐々に退色し、腐敗していく。山田は、クローバーの咲く叢に横たわる人物を真上から撮影する。花に囲まれ横たわる姿は、別れの儀式の様子を髣髴とさせるし、半分目を閉じた穏やかで虚ろな表情は、あたかもその人物がもうこの世に存在しないように感じさせる。人物を撮影するという行為は、その瞬間のその人にはもう二度と会えないという意味で、常に別れの刻印となる。
 長谷川繁(絵画劇場)は、本展の中で唯一夢に関わる明確なコメントを避けている。しかし互いに意味をなさない断片を集めた絵画は、どこかしらじらとした白昼夢のようで、本展のテーマにふさわしい。
 取りあえず、夢は共同社会からの離脱であり、外部から容易に推し量ることのできない世界である。本展は、自己の姿も欲望も含め、個々の内に閉じ込められた世界を垣間見せてくれた。

会期と内容
人工夢
会場:名古屋市民ギャラリー矢田 
愛知県名古屋市東区大幸南一丁目1番10号
TEL. 052-719−0430
会期:2005年10月19日(水)〜10月30日(日)
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学芸員レポート
ニューヨーク近代美術館
ニューヨーク近代美術館 2004年竣工 photo©Timothy Hursley
渡辺豪《フェイス》
渡辺豪《フェイス》2005年
 オペラシティアートギャラリー、猪熊弦一郎現代美術館に続いての開催となる「谷口吉生のミュージアム」は、ちょうど開館10周年を迎える11月に合わせ企画したものである。一般公開当日に行った谷口吉生氏・鈴木博之氏・五十嵐太郎氏の鼎談には、入場できないほどの方が駆け付けてくれ、多くの方に聴講をお断りしなければならない状況となってしまった。地方にあるため比較的のんびりとした美術館で、これほどの方が講演会に訪れてくれたのは初めてのことで、改めて谷口氏の人気を実感した。鈴木氏、五十嵐氏の視点も大変面白いもので、10周年を期に改めていつも使っている美術館について多角的に考えるよい機会となった。
 「ベリー ベリー ヒューマン」展は、〈人間〉をテーマに、90年代後半に中部圏で活動を始めた若手アーティスト8人−石田達郎、加藤美佳、鬼頭健吾、小林耕平、古池大介、森北伸、山本高之、渡辺豪−を紹介するものである。軽やかであったり、精緻であったり、ユーモアがあったり、実験映画を思い起こすようなものであったり、それぞれ異なる性質を持つ作品が、空間に自由に展開されている様は実に面白く、谷口氏もいたく気に入っている様子であった。
会期と内容
●ニューヨーク近代美術館(MoMA)国際巡回展 谷口吉生のミュージアム
会期:2005年10月22日(土)〜12月25日(日)
ベリー ベリー ヒューマン
会期:2005年10月15日(土)〜12月25日(日)

ともに
会場:豊田市美術館 愛知県豊田市小坂本町8丁目5番地1 TEL. 0565-34-6610
開館時間:10:00〜17:30(入館は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜日(祝日は除く)

[のせ ようこ]
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