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プライバシーステートメント
学芸員レポート
札幌/鎌田享青森/日沼禎子東京/南雄介|大阪/中井康之
芦屋市美術博物館/「センシビリア」/「アート・ウェハース─21世紀絵画の重層性」/「彫刻の力」/「LVRFI」展
大阪/国立国際美術館 中井康之
 関西の4月以降の最大のトピックとしては、やはり芦屋市美術博物館の運営が芦屋市文化振興財団(同財団は本年3月31日に解散)から非営利組織である芦屋ミュージアム・マネージメント(AMM)へ委託された事件であろう。公表された情報によれば、年間運営費が前年度の三分の二となり、運営スタッフが半数の六名になったという。私が個人的に知る同館の学芸スタッフも何人かが他館や大学等に移ったのだが、同職員の他の選択肢としては、市職員の嘱託事務として3年の保証を得るか、美術館に残る場合はAMMの単年度雇用の職員ということだったらしい。同館に対する芦屋市の方針というのが「直営の業務委託」という語義矛盾に満ちたもので、あくまでも善意の団体であるAMMという受け皿があっての発言だと受け止めるほか解釈のしようのないような態度である。
 これは異聞として受け止めてもらってもよいのだが、指定管理者制度によって民間企業に運営が委託された小規模の博物館相当施設では、その民間企業の赤字を出す部署として最初から計上され、積極的な運営が為されないままに、職員も極端に削減されて開館休業状態の施設もあるいう。民間の営業論理のようなものを当て嵌めれば、そのような事態も当然のこととして予期されたことであろう。同様の事例を美術館相当施設で見聞きしたことはないが、もし仮にそのような極限的な状況が発生した場合、数少ない職員とコレクションで何が行なえるであろうか。
 そのような問い掛けへの回答というわけではないであろうが、滋賀県立近代美術館で2月11日から4月2日まで開催された「センシビリア」という展覧会では同館のミニマル・アート系のコレクションを用いて、関西圏のアーティスト・ユニットであるソフトパッドが脚色した展覧会が試みられた。極端なライティングや作品の映像化に対しては賛否両論あったように思うが、そのような展覧会の企画自体に対する評価はともかく、美術館の極北的な状況が予想される今日において、極めて興味深い現象として感じたのは私ばかりではあるまい。因みに、同展を企画した学芸員は、個人的な理由で1月に退職し、それを引き継いだのは元芦屋市美術博物館の学芸員である。
 それにしても、このような状況に大きな影響を及ぼす民意とはいったいどのようなものであろうか。公共施設の管理・運営を公共団体が指定する民間の指定管理者に代行させる制度、いわゆる指定管理者制度等によって税金がより有効に活用されるようになることを望まない者はいないであろう。実際、私の勤務している美術館でも、学芸スタッフ、及び常勤事務職員以外は、すでに競争入札によって民間の指定管理者に代行されている。要するに、今問われている「民間委託」の問題となっている部分は、学究的な雰囲気の展覧会は非効率的であり鑑賞者を多く動員できる内容ではないので、より集客を見込めるような内容で低コストの企画を打ち立てることのできる民間の業者に委託する、ないしは民間の業者に学芸スタッフを管理させる、ということになるのであろう。
 芦屋市美術博物館の場合は、民間の業者ではなく、善意の非営利団体によって運営されるようになった点が異なるとはいうものの、実に実験的な段階に入っていることがここに明らかであろう。もちろん、そのような形式的な変容ではなく、自己規制によって実験的な展覧会が漸減してきていることは言うまでもないことであり、それは他館に例を引くまでもなく、勤務している国立国際美術館においても、独立行政法人化以降は集客の見込めるようなコレクションを有する海外の美術館展を続けて開催するようになっている。結果として多くの観衆を集めたことが民意に沿ったということになるのであれば、これが現在の日本の世相を反映した美術館の姿なのであろう。
 しかし、このような状況は、前々回のこのコラムでも触れたように、この国で作家活動を行なうことを考えている者からチャンスを奪っていることでもある。そして結果的には自国の文化度を遅滞させることにも繋がるであろう。ここまで考えると、これが民意なのだろうか、という疑問も自ずから導き出されてくる筈である。
 このような状況に反応したというわけでもないであろうが、大阪港のオルターナティヴ・スペースとも言えるCASOで作家たちの運営による絵画展及び彫刻展が続けて開かれた。4月18日から30日は6人の作家による「アート・ウェハース─21世紀絵画の重層性」という絵画展、5月3日から30日までは21人の作家による「彫刻の力」という展覧である。絵画展は、ここ10年ぐらい継続的に絵画の問題を思考してきた作家たちによる展覧会であり、中心となっているメンバーは絵画に於けるモダニズムの系譜を受け継ごうとしているのだが、そこに何人かの違う指向性を持つ作家を招くことによって自らの問題意識の検証を試みようとするものであろう。彫刻展は、より緩やかな結合によって、関西圏の有志によって取り組まれたというような集まりで、各々の作家が抱いている制作上の問題が、ここに集うことによって新しい方向性が導き出されるような状況は、残念ながら見出すことはできなかった。
長谷川繁
野村和弘
「LVRFI」会場
上:長谷川繁作品
下: 野村和弘作品
 グループ展、あるいは構成展というものは、各々が対等に拮抗するような力と問題意識がぶつかりあう場として機能した時に、始めてその有効性を認めることができるのではないだろうか。そのことを、東京圏の相模原で開催された、5人の際立った特徴をもつ作家たちによる「LVRFI」展によって改めて強く認識した。例えば、ここで出品していた長谷川繁、あるいはO JUNという作家は、近年のグラフィック的とも言える若い作家たちの動向と近似するかのように感じる者もいるかもしれない。しかし、ここで同時に発表していたメタ建築的な仕事を行なう紫牟田俊和や記号的な要素に還元化した絵画をモノする宮嶋葉一と並べられることによって、絵画としての強度を兼ね備えていることが明らかにされるのである。そして、そのような純粋に美術的な言語によって構築されようとしている空間に、野村和弘の無造作に位置するキッチュなオブジェと、キッチュに見えるように作られたオブジェが絶妙なバランスで配置されることによって、危うい関係性が築かれるのである。
 これまでの文脈のいわゆる民意からすると、このような美術館や画廊、オルターナティヴ・スペースでもない無認可空間で開かれた展示は評価の対象にはならないかもしれない。しかし、新しい何かが生まれようとするその場をつくり出すためには、そのような多数の論理の通用しない、少数の厳しい目だけに問われるような現場が必要かもしれない。見ることを生業としている者にとっても、このような緊張した空気に触れることが常に要求されている筈である。「民意」などという化け物に惑わされている内に、そのような目を失わないようにしなければならないだろう。

会期と内容
●「sensibilia センシビリア 〜所蔵品によるある試み〜」
会期:2006年2月11日(土)〜4月2日(日)
会場:滋賀県立近代美術館 
大津市瀬田南大萱町1740-1 Tel. 077-543-2111

●「アート・ウェハース─21世紀絵画の重層性」
会期:2006年4月18日(火)〜4月30日(日)
会場:海岸通ギャラリー・CASO 
大阪市港区海岸通二丁目7−23 Tel. 06−6576−36330

●「彫刻の力」
会期:20065月3日(水・祝)〜5月28日(日)
会場:海岸通ギャラリー・CASO 

●「LVRFI」
会期:2006年4月18日(火)〜4月30日(日)
会場:Studio ONO 
相模原市相模大野3-3-27 フェスタ古内ビル5F

[なかい やすゆき]
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