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プライバシーステートメント
学芸員レポート
福島/伊藤匡|愛知/能勢陽子|大阪/中井康之広島/角奈緒子
手塚愛子 展/横内賢太郎 展
宇宙御絵図/シュルレアリスムと美術
愛知/豊田市美術館 能勢陽子
手塚愛子展
横内賢太郎展
横内賢太郎展
上:手塚愛子《縦糸を引き抜く(傷と網目)》(2007)
素材=織物、引き抜いた縦糸
サイズ=サイズ可変(織物:幅145cm、長さ10m/引き抜いた赤い縦糸:5.5m)
中、下:横内賢太郎、会場風景
 手塚愛子が織物の糸をほどき、横内賢太郎がサテン地に染料で描くというふうに、それぞれ技法は異なるけれども、どちらも日常にある装飾品の背後を垣間見せる。
 いくつもの糸を、縦横に結んだり、交差させることによって、表面に植物や動物などの模様を紡ぎ出す織物は、実用品として私たちの生活を彩っている。手塚は、その織物の複雑に編まれた糸の一色を丁寧にほどいていく。赤い糸のみが抜き取られた花模様の織物は、脱色された像の前で、真紅の糸の生々しさを露呈する。また織物の縦糸、もしくは横糸のみを抜き取っていく。すると支えを失った糸は、もとの像をぼんやりと示しながら、不気味な有機体へと変わる。織物は、伝統的な模様や技法が、世代から世代へと受け継がれていくものである。手塚の「ほどく」という行為は、屋内で延々と続けられる「織る」という作業の、その整然とした模様の背後に潜む伝統や構造の重さ、また生の裏側にある不気味さといったものをさらけ出す。
横内が描き出すのは、シノワズリーの皿や壺が掲載されたオークションカタログの見開きページである。そこに描かれているものが装飾品というだけでなく、滑らかなサテン地に滲むカラフルな色彩のグラデーションも、布地のような装飾的な華やかさ、軽やかさを想起させる。そこに描かれている像は、絵付けの施された立体物を撮影したカタログのページを、中央が湾曲したまま撮影し、さらにそれをポジネガ反転させたものである。そこでは、平面と立体、虚と実との幾重にもわたる反転が施されている。それはまるで、装飾に囲まれ捉えようもないこの外界の、移ろいやすく儚く、かといって空疎なばかりでもないイメージを、美しくも不安な手触りとして提示しているようである。
 手塚も横内も、表面的にこの世界を覆っている装飾の背後にある、より複雑な層を開示する。ただし、手塚は画面の前に現われる生々しい素材感によって、横内は画面の遥か向こうに逃げ去る透明なイリュージョンによって。

●手塚愛子 展/横内賢太郎 展
会期:2007年7月28日〜9月15日
会場:ケンジタキギャラリー
名古屋市中区栄3-20-25/Tel.052-264-7747

学芸員レポート
ZAPPA+鷲見和紀郎
野村仁
上:ZAPPA、鷲見和紀郎、展示風景
下:野村仁、展示風景
 豊田市美術館では、過去へも未来へも、此処へも彼方へも、果てしなく収縮し拡張していく、宇宙への憧憬や畏怖へと誘う、「宇宙御絵図(うちゅうみえず)」を開催している。この「見えない宇宙」へと導くのは、安齊重男、金山明、河原温、北山善夫、佐倉密、鷲見和紀郎、田中信行、長沼宏昌、野村仁、松澤宥、毛利武士郎、ZAPPAの12人の作家である。画家、彫刻家、コンセプチュアル・アーティスト、写真家、漆作家など、多彩な表現を行なう作家たちの作品が、宇宙に散らばる星や星雲、ブラックホールのように展示されている。そしてそれぞれの作品が、地上的な手遊びから宇宙の神秘まで、さまざまな位相へと私たちを誘う。本展は副館長の青木正弘による企画で、2003年の《宥密法宥(ゆうみつほう)》、2004年の《イン・ベッド[生命の美術]》に続き、人間、宇宙、生命をテーマとする三部作の完結編になっている。来年定年を迎える最後の締め括りということもあり、展覧会は「生きもの」であり、「学芸員の作品」であると語る企画者の想いが、カタログのテキストも含め、存分に発揮されている。
 また、宇都宮美術館、豊田市美術館、横浜美術館のコレクションを中心とした、三館合同企画による「シュルレアリスムと絵画──イメージとリアリティーをめぐって」も開催されている。海外からの借用作品もあるが、国内にこれだけ優れたシュルレアリスムの作品があるのだということに改めて驚かされる、充実した展覧会になっている。

●宇宙御絵図
会期:2007年6月19日(火)〜9月24日(月・振休)
●シュルレアリスムと美術──イメージとリアリティーをめぐって
会期:2007年7月3日〜9月17日(月・祝)

会場:豊田市美術館
愛知県豊田市小坂本町8丁目5番地1/Tel.0565-34-6610

[のせ ようこ]
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