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学芸員レポート
青森/日沼禎子福島/伊藤匡|東京/住友文彦|豊田/能勢陽子
「オラファー・エリアソン――影の光」展
東京/NTTインターコミュケーション・センター(ICC) 住友文彦
 オラファー・エリアソンは世界的に活躍するアーティストとして名が知られているが、おそらくその作品についての説明を聞くだけだと、なぜそれほど高い評価を受けているのかがいまひとつ分かりづらいのではないだろうか。おそらく実際に自分の身体を作品へと差し向けないとまず感じらとれない魅力をそなえているからである。それが、国内で個展が開催されるという貴重な機会に喜び勇んで足を運び、期待を胸に彼の作品の前に立つと、剥き出しの空間とただ置かれた照明機材などは実に素っ気無いたたずまいを持っている。テイト・モダンの《The Weather Project》のように大掛かりな作品は、むしろ例外である。
 この展示で、空間を満たしているのは多くの場合、ただの光であり、それを産み出している仕組みや機械の運動もけっして私たちの理解を大きく超えるものではないので、何かを読み取ろうとする欲望はあっけなく頓挫してしまう。これと似た経験は、オップアートやキネティックアート、それからラースロー・モホリ=ナギの《ライト・スペース・モデュレータ》などに遡っても見出すことができるだろう。
 そういった作品に対して投げかけられる疑問は、これらはただ表層的に知覚と戯れるような装置なのだろうか、というものではないだろうか。エリアソンの場合、光を刻々と投影させ、ひたすら反復していく静かな時間の経過は緻密に計算され、それが素っ気無いほどに無駄を排しているために、同じ場所に置かれた私たちの身体はそれにごく自然に共振していくように感じられる。一気にどこかに持っていかれるような没入感とは違う。
 例えば、教会でステンドガラスから注がれる彩り鮮やかな光に包まれるような経験においては、日常の空間体験を大きく超える高さや複雑な造形が崇高さを感じ取らせ、それが不可視の「神」によって与えられているという感覚をおぼえる。あるいは、大規模なコンサートの照明や音響効果も、私たちの想像を超えるような技術が介在し、私たちひとりひとりの存在を超越した何かを背後に感じさせる。
 しかし、エリアソンは隠そうと思えば隠せるはずの機材や仕掛けをあえてそのまま曝け出す。このシンプルで素っ気無い展示手法によって、私たちは余計なものに心を奪われずに、ただ静かに変化する光をみつめる。そこには不可逆的な時間があり、ある単純な発見をするのではないだろうか。それは、ある瞬間の〈私〉は、もはやその前の〈私〉ではなくなっている、ということだ。彼の作品では、神秘的で理解不能な体験としてではなく、あからさまで具体的だからこそ、意識は明晰なまま、自分と〈世界〉の関係性がこのように感知される点が、とても面白かった。

会期と内容
●「オラファー・エリアソン――影の光」展
会期:2005年11月17日(木)〜3月5日(日)
会場:原美術館 
東京都品川区北品川4-7-25
TEL. 03-3445-0651

学芸員レポート
 現在休館中であるICCの今後については、再開できる見通しがどうやらみえてきました。まだ不確定なことも多いですが、これまでとは違う展開も盛り込めそうです。ウェブサイトにもその旨が掲載されています。年度明けすぐには間に合わないまでも、早い時期に再開できると思います。結局継続できそうなので言えることですが、こういうことがあると、あらためて施設の役割や、それがおかれている社会の潮流などを真剣に問い直す貴重な機会になります。なんとかこれを糧にしていきたいものです。
 それ以外には、10月にオーストラリアのメルボルンで日本の現代美術展を行なう予定があります。企画のプロセスを示しつつ、意見を交換できる場として、トークイベントを行なっていますのでぜひご関心のある方にきていただきたいと思います。
 あと、先日ソウルのLOOPで「BITMAP」という写真展がオープンしています。そこに佐野正興と片山博文というふたりのアーティストの推薦をして、さらにトークのイベントにも参加してきます。韓国ではデジタル操作をした写真作品が多く取り上げられている気がしていて、多少日本との温度差を感じます。もしかしたら、私にはあまりなじみのないデジタル技術と写真をめぐる考えを持っているのかもしれないですし、それを知るよい機会になりそうです。
[すみとも ふみひこ]
青森/日沼禎子福島/伊藤匡|東京/住友文彦
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