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学芸員レポート
福島/伊藤匡|東京/住友文彦|福岡/山口洋三
VOCA展/Move on Asia
東京/NTTインターコミュケーション・センター(ICC) 住友文彦
 おそらく現代美術に関わる人にとって、なんらかの違和感を表明する対象になっている展覧会でありつつも、同時にそれが継続されていることの意義も認めている、というのがおおかたのVOCA展への評価ではないだろうか。1作家につき作品は1点のみで、展示にかならずしも作家の意向が反映できているわけでもなく、作品を鑑賞するうえではけっしてよい展示条件ではないと分かっていても足を運ぶ理由は、それがまず国内のさまざまな地域から選ばれた作品を審査し、賞をあたえる展覧会であるからだ。否定的な意見もよく耳にするが、筆者はこうした展覧会があることを全面的に肯定するし、楽しみにしている。芸術作品に価値の優劣をくだすことはできない、のは重々承知のうえで、こうして同時代の作品についてなんらかの反応を、もっと言えば批評的な態度を示していくとても大切な機会になりえていると思う。若手の作家を対象にしたこうしたコンペがかつてよりもだいぶ減っている現状も、この展覧会の注目度を上げているだろう。
 ただ、そこにまったく問題がないわけではなく、これだけ注目を集める展覧会だからこそ考えてみたいことがある。ひとつの重要な点は、梅津元氏がかつて指摘した「開示性」である(詳細はこちら)。もちろん、推薦や選考の理由はカタログの文章で読めるし、だいぶ配慮があるようにも思える。前述したように普段は出会うことはない作品同士が並べられることで生まれているはずの豊かな言説的空間は、その場限りの競演ではなく、それを見る人たちを巻き込むことで引き継がれていくのが望ましいと考えたときに、その「開示」とはいかなるものとして考えられるのだろうか?
 ここで思い出したのは、この同じ連載で阿部一直さんが書いていた記事である。ここ数カ月は、筆者もいつになく身体表現に触れる機会が多かった。とはいえ、関心を惹き付けたのは、阿部さんが言及していたような著名ダンサーではなく、今まさにそれぞれの表現者が生きている具体的な体験のなかから表現を生み出そうとし、おそらくダンスとは従来呼ばれない領域に属しつつも、言語やメディア、あるいは制度と身体を格闘させているような人たちだった。それは例えば、鉄割アルバトロスケット、チェルフィッチュ、川口隆夫×山川冬樹の公演である。ここでそれらの詳細を記す余裕はないが、おおむね阿部さんが指摘していたことに近い感想をいだいた。それは、多種多様な表現が生まれているとするような現状の理解にあまり同感できず、むしろ身体に対する方法論への意識をもっと鋭敏にするべきだ、というものだ。
 結局は身体表現である以上、どう逸脱を試みようが、領域横断を試みようが私たちが注視する対象は身体のありかたに違いない、と断じてしまうと、教条的なモダニストの発言にも聞こえるかもしれない。しかし、多種性を押し広げているとされる表現のなかには、実は特定の鑑賞者との関係において同質性を要求するようなものが多いのではないかとも思えることがある。つまり、「分かる、分かる」といったような曖昧な共感を喚起するようなものである。しかし、そういった特定の誰かにではなく、誰もが深い感動をおぼえるような表現は、誰しもを裏切るような意外さをもって現われながらも、歴史的な反復のなかにおける差異、あるいは同時代性におけるそれが形作る網目のようなところにある種の明晰さをもって居場所をみつけるのではないだろうか。もちろん、心を動かされるのはおおよそそのような理解など到底できないときに起こるもの、という意見もよく分かるが、たいがいそれを表現する側は確信的に実践する場合が多いし、批評の側も堰を切ったように間隙を埋めるための言葉を繰り出すことができるだろう。
 そのような立場は、芸術はそれを見られる、鑑賞される経験のなかにおいて生成される、とみなすものなので、その関係においてどれだけ複雑で豊穣な経験が生み出されるかが重要になる。もちろん、これまで周縁化されてきた形式が注目されるなどの多様化への流れは、なんとしても守られなければならない。それは方法論の多様さによって体現されるのではなく、そのことへどれだけ表現する側と見る側が意識的になれるかどうかなのではないだろうか。
 この点について、今回の審査員評のなかには、「なべて映像的」(酒井忠康氏、今年の図録より)と呼ばれるような様式を認める旨や、「全体として不作」(本江邦夫氏、今年の図録より)という十把一絡げに語るコメントが目に付く。
 前述したように、この展覧会は作品の鑑賞そのものよりも言説がせめぎあう場であることによって重要視される、という点から考えると審査員の評は些細なものではなくなる。先の開示性はたんに選考理由の表明だけで果たされるのではなく、そもそも審査という批評的な態度において発揮されるべきものと言える。つまり、一つひとつの作品と向き合うなかで、自分自身がそれまで持っていた価値観を揺るがされるような経験に対して、ひるまずにいられるかが試されているのではないだろうか。そうすると、どれだけ各審査員があらかじめ持っている価値判断からどれだけ自由になりつつ、それぞれの豊かな経験や見識が投入され平面作品の方法論が模索されただろうか。それが実現されれば、「分かる、分かる」といった曖昧な共感を超えた作品をみいだすことにつながるのではないだろうか。
 筆者はここで求めていることは、もしかしたら過剰な期待ともいえるだろう。しかし、数少ないながらもいくつかの審査の経験を振り返ると、手探りのようでありながらも真剣に生み出される表現ひとつひとつに対して、そのような「開かれ」た態度で接することは本当に難しいと実感していると同時に、間違いなく自分の批評的な判断の幅を押し広げてきたとも言える。そしてそれが、同時代の美術が持ちえる複雑さを縮減することなしに、接していく方法ではないだろうか。

会期と内容
●VOCA展2006
会期:2006年3月15日(水)〜30日(木)
会場:上野の森美術館 
東京都台東区上野公園1−2
TEL. 03-3833-4191

学芸員レポート
 今年で2回目をむかえる映像作品展「Move on Asia」がトーキョーワンダーサイト渋谷で行なわれます。アジアの映像作家21人の作品が見られる展覧会で、ひとつのテーマによって集められたのではなく、各地域のキュレーターが推薦する作家が参加している。ソウルのアートスペースLOOPの発案によって始まったもので、身軽なメディアであるために地域の境界をやすやすと越えていくものでありながら、それぞれの社会や文化の影響がいやおうなしに映りこむ映像メディアの特徴が活かされている企画になっていると思う。私のほか日本からは5名のキュレーターが7名の作家を推薦して参加している。また、この後は大阪のremoと大阪電気通信大学、愛知の+galleryに巡回する予定です。

会期と内容
●Move on Asia
会期:2006年4月29日(土)〜5月27日(土)
会場:トーキョーワンダーサイト渋谷 
東京都渋谷区神南 1-19-8 TEL. 03-3463-0603
休館日:月曜日(祝日の場合は火曜日)
開館時間:11:00〜19:00

[すみとも ふみひこ]
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