artscape
artscape English site
プライバシーステートメント
学芸員レポート
東京/住友文彦|東京/南雄介福岡/山口洋三
藤幡正樹「不完全さの克服」展/大竹伸朗「全景」/「Rapt! 20 contemporary artists from Japan」
東京/東京都現代美術館 住友文彦
 
ビヨンド・ページズ
オフセンス
オフセンス部分
上段より
・《ビヨンド・ページズ》
・《オフセンス》
・《オフセンス》部分
現実の不完全さをあらためて確認するという、なんとも不遜なメッセージを掲げた展覧会である。展示は、1990年代の作品《ビヨンド・ページズ》から近年の作品まで並び、さらにまるで藤幡の思考をそのまま開示しているようにも思えるスケッチ的な作品までを含む内容になっていた。《オフセンス》は、接続されているコンピュータがそれぞれひとつのアバターとしてサイバースペースに現れ、他のアバターと会話をおこなう。人間はそこに介入することなく、データベースを元に会話を交わしていくコンピュータだけの世界をただ眺めるだけの作品である。《モレルのパノラマ》では、部屋の中心にあるパノラマカメラからとりこまれた映像がリアルタイムでシリンダー状にマッピングされていく映像が壁面に投影されている。部屋を360度眺め回した光景がそのままぐるりと映し出されているので、部屋にいる人がカメラの方向を見ずに自然に部屋の中で行動していれば、フレームによって切り取られるイメージとは違って、方向性を欠くゆえに、レンズを向ける者がフレームによって恣意的に対象を切り取るといった「視線」の優位性から解放されていると言うこともできる。
 こうして、これまでの作品が集められた会場を眺めてみると、コンピュータなどによって形作られている領域も含めた私たちが活動するこの世界を、身体にはじまる様々な知覚メディアを通すことによってどのようにして「現実」のものとして感じ取っているのかを、手を変え品を変え実験しているかのようだ。そして、モニターの光と眼、あるいはカメラとコンピュータなど複数のメディアが重なりあうことによって生じるズレや齟齬を見つけ出し、そこに私たちが「現実」的なるものを感じとっていることに気づかせてくれる。それは、世界の見え方ががらっと変わる瞬間でもある。身体やカメラ、あるいはヴィデオであっても、ひとつのメディアを通して感じ取られる世界はひとつのまとまりのあるものとして現れる。しかし、それはあくまでも都合よく整えられた姿であるに過ぎず、別のメディアによってとらえられた途端に、馴染みのあるはずの世界はもろくも崩れ去れる。おそらく藤幡は、コンピュータを人間が自らの都合のよいように馴染みある世界を創出する道具として扱うのではなく、コンピュータによって立ち上げられる世界が人間中心的な世界像を引き裂くことを望んでいるはずである。
 人間はその裂け目をなんとかして縫い合わせて、完全さを目指しているようにみえる。しかし、そんなことは到底不可能なのだと気付けば、藤幡の言う「現実の不完全さ」とは、むしろ新しいメディアや知覚のあり方の変容によって、「現実」が新たにみいだされていくことの面白さを意味しているようにも思えてくる。

会期と内容
●CCGA第39回企画展「藤幡正樹:不完全さの克服──イメージとメディアによって創り出される、新たな現実感。」
会期:2006年6月24日(土)〜9月24日(日)
会場:現代グラフィックアートセンター(CCGA)
福島県須賀川市塩田宮田1
Tel. 0248-79-4811/Fax. 0248-79-4816

学芸員レポート
《ダブ平&ニューシャネル》
《ダブ平&ニューシャネル》 1999年 (ステージ部) 作家蔵
Photo:中野正貴
 当館では大竹伸朗の展覧会が先日オープンした。しばしば語られてきたように、美術という分野を参照するだけで作品について語ることができない作家であることは重々承知していても、この大規模な回顧展を見ると、大竹が創作の衝動を言葉で表わすときに使う、「既にそこにあるもの」との共同作業、とは、綿々と20世紀へといたる美術の歴史との共同作業を意味している、と思えて仕方がない。私自身は学生のときにギャルリーところで見たのがはじめての彼の作品との出会いだったので、同時代的に仕事を見続けてきたわけではない。大竹は、それに先立つ1980年代の絵画復権の時期に注目を集めたわけだが、この時代はメタレベルから自分の立ち位置を選択の可能性によって示そうとするニヒルな時代だった。一見そのなかでの評価を獲得したにもかかわらず、そのどこか予定調和的な位置取り合戦からからはみだす余剰を十分すぎるほど抱えた作家だったことがよく分かる。私たちそれぞれが本来抱え込んでいるはずのこの余剰をそぎ落としてしまい、なんらかの定まった形や意味や記号を与えようとする経済や政治のシステムが社会全体を覆いつくそうとしている状況に、鋭敏な感性を働かせて対峙することが、この時代の芸術家にとって重要な資質であることはまず間違いない。見過ごされたものを拾いあげ、完成形をあたえずに持続し、絶えず変化し続けることこそ、そのもっとも有効な手段だ。

志賀理江子《Untitled #5》
志賀理江子《Untitled #5》 作家蔵
 もうひとつ、日豪交流年のひとつとして実施され、企画に関わってきた「Rapt! 20 contemporary artists from Japan」の展覧会もオープンし、先日展示の準備やオープニングなどのイベントに参加してきた。これは、20名の作家がメルボルンとシドニーの複数会場にまたがって展示をするプロジェクトである。共同キュレーションや現地での作品制作など積極的に対話的なプロセスを組み込んでいく試みで、様子はブログでも見られる。展覧会はオーストラリアだけでの開催だが、カタログは和英で作られ、国際交流基金の情報センターで入手できる。世代や傾向、使用するメディアも異なる作家たちが参加しているため、現地の鑑賞者からの反応もあらゆる方向から寄せられ、こちらが予期せぬものも含まれることが楽しかった。

●大竹伸朗「全景」
会期:2006年10月14日(土)〜12月24日(日)
会場:東京都現代美術館
東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
●Rapt! 20 contemporary artists from Japan
・アトリエ・ワン:City Square(メルボルン)8月24日〜9月2日
・アトリエ・ワン/照屋勇賢:Object Gallery(シドニー)9月2日〜11月5日
・木村友紀/石原友明/法貴信也:Monash University Museum of Art(メルボルン)
9月6日〜11月18日
・片山博文/楢橋朝子/田口和奈/鴻池朋子:Centre for Contemporary Photography(メルボルン)
9月8日〜10月21日
・照屋勇賢/高嶺格:Gertrude Contemporary Art Spaces(メルボルン)
9月29日〜10月21日
・高谷史郎/青木陵子+伊藤存:West Space(メルボルン)9月29日〜10月21日
・高谷史郎:Perth Institute of Contemporary Arts(パース)9月
・倉重迅/曽根裕:RMIT Project Space(メルボルン)10月2日〜27日
・宇川直宏:Kings Artist Run Initiative(メルボルン)10月7日〜28日
・志賀理江子:Seventh Gallery(メルボルン)10月10日〜11月4日
・高橋匡太:Spacement Gallery(メルボルン)(調整中)10月10日〜29日
・内藤礼:Nillumbik Shire's Birrarung(エルサム[メルボルン近郊の町])
10月13日〜29日(金-日のみ見学可能)
国際交流基金Rapt!サイト:http://www.jpf.go.jp/j/culture_j/news/0607/07-05.html
公式サイト:http://rapt.jpf-sydney.org/

[すみとも ふみひこ]
東京/住友文彦|東京/南雄介福岡/山口洋三
ページTOPartscapeTOP