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学芸員レポート
札幌/鎌田享福島/伊藤匡|東京/住友文彦
ポル・マロ 「Our Sweet Soul Reinventing The World After A Big Shock」展
東京/東京都現代美術館 住友文彦
BOAT PEOPLE Association
ポル・マロ01
ポル・マロ02
上:(c) BOAT PEOPLE Association
下2点:(c) Pol Malo 2007, photo by Hikotaro Kanehira
 すさまじい勢いで進む都市の再開発ラッシュのなかで、アートやデザインを前面にだす傾向は強まっている。これまで縁のなかった人たちが、買い物や観光ついでにこうした分野に関心を持つきっかけになるのは間違いないだろうが、土地の記憶や芸術までが大きな消費サイクルのなかに取り込まれているとしたら本当に恐ろしい。そういった顔の見えない大きな力によって、アートが本来持っている、どこかひりひりするような切実さを感じられるような感覚が洗い流されているように感じる。
 前回の横浜トリエンナーレにも参加していたBOAT PEOPLE Association から、東京モノレールの太井競馬場前駅そばの運河に停泊させた船でポル・マロの展覧会を行なう案内をもらったときには、正直に言うと、あちこちで都市の再開発事業と結びつきながら展開されているアートプロジェクトのひとつのように見えていた。豊洲、汐留、浜松町あたりまでの湾岸地区に、高層建築があっという間に立ち並んでしまっている光景は、経済的な利益を優先するために、都市の交通や人の往来が高密度に集積され、過度のストレスや災害の危険性がおざなりにされているようにも見える。その先に広がる京浜工業地帯にボートを浮かべてどうするのだろうか、と考えていた。
 完全に陽が落ちた暗闇の中で、太陽熱発電で照明が灯された運搬用のバージ船のなかへ降りていくと、イベントや展示を行なうスペースとバーカウンター、災害用の飲食料や用具を備えた棚とソファが置かれていた。詳しくは彼らのHPを見て欲しいが、災害時にこうした船に避難をすることを想定して改装を行なっている。やや広い木材が組まれた展示ができる空間の壁面を青色の布が柔らかく覆い、そこにポル・マロが絵を描いていた。仮設的な木材に掛けられた薄い布が、ほんの少し水面の揺れによって動くのが心地いい。1本の白い線が長く引かれ、その上に船も描かれているのでそれは海面のように見えるが、微妙な間隔を空けながらいくつか別の線や面が描かれ、それらがとてもゆったりとして自由に動いているようでもある。すべてがあるべき場所に収まっているというよりも、またいずれ別の場所へと動いていくような流動性がある。そして、見ているととても優しい気持ちになっていく。最近、彼は日常生活で使われているようないろいろな布の上に絵を描いている。それが、絵画に柔らかい質感をあたえていて、もともと持っている軽妙な感覚に効果的に活かされている。
  ほんの少しではあるが陸地から切り離されている船の中にいるという状況が、もしかしたら自由な心持ちを生み出すのに影響しているのかもしれない。実際、ヨーロッパやアメリカ各地を移動し、日本にも長く住むポルの自由さや優しさは、どこにも帰属しない意識のあり方に由来しているようにも思える。だから、災害によって居場所を失った避難民となる人たちの心に何が必要か、彼ならきっと想像できるのではないだろうか。それは、けっして物質的な援助ばかりではない。災害や犯罪の危険性を声高に叫ぶ声には、その対策として強固なインフラや情報網の整備を進めることで、他者への不寛容さや新たな開発の道具としているような例も多い。しかし、本当に困っているとき、不安なとき、人々はきっとこうした精神を救うようなものも求めるのではないだろうか。

会期と内容
●Our Sweet Soul Reinventing The World After A Big Shock
会期:2007年3月3日(土)〜21日(水・祝

会場:京浜運河大井競馬場桟橋に停泊中のバージ船「L.O.B.13 号」
主催:BOAT PEOPLE Association
企画:兼平彦太郎

学芸員レポート
 東京都現代美術館では4月にはいって、3週連続でレセプションパーティーが行なわれている。先頭を切ったのは「マルレーネ・デュマス──ブロークン・ホワイト」展で、南アフリカ出身で現在はオランダに住んでいる作家の初個展である。ポートレイトの絵画作品でよく知られている彼女の作品が、「死」や「性」をもっと色濃くテーマに持つ作品や、作品に影響を受けたり、共同制作をした荒木経惟や坂本龍一らの作品と一緒に展示されている。独特の色を与えられ、滲むような輪郭を持つ人々が居並ぶような作品群は、彼女が、性別や民族、貧富の差などを超えて、それぞれの人が持つ個別性へ注ぐあたたかなまなざしを伝えてくれる。
 また、「Show Me Thai?みてみ☆タイ〜」は、本邦初のタイの近代絵画から現代の若手作家までを概観できる展覧会である。日本とタイの交流史という視点から、東京藝大に留学していた作家によって印象派の画風が伝えられ、あるいは版画技術の普及がもたらされたこと、それから池田一や奈良美智らの作品も紹介されている。そして両国の現代美術にとって欠かせない存在であるナウィン・ラワンチャイクンは、世界中にいる「ナウィン」という名にこだわり、自己のアイデンティティを問いながら、国境を越えた政党「ナウィン党」を創設させるという、今回も圧倒的な諧謔的パワーを発揮している。
 最後に、昨年修復が完了し、お披露目された岡本太郎の大壁画《明日の神話》が、一年間の期間限定で常設展示室において展示される。巨大な展示室一般に広がる圧巻の展示になるだろう。そして、同時に昨年度新規購入した作品も展示され、これまでの常設展示からはだいぶ変わるので、こちらもお見逃しなく。

「マルレーネ・デュマス ──ブロークン・ホワイト」
会期:2007年4月14日(土)〜7月1日(日)

日タイ修好120周年 タイ王国・現代美術展「Show Me Thai〜みてみ☆タイ〜」
日時:2007年4月18日(水)〜5月20日(日)
ともに会場:東京都現代美術館
東京都江東区三好4-1-1 Tel 03-5245-4111(代表)

[すみとも ふみひこ]
札幌/鎌田享福島/伊藤匡|東京/住友文彦
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