artscape
artscape English site
プライバシーステートメント
学芸員レポート
札幌/吉崎元章|福島/木戸英行東京/増田玲
芸術の森インスタレーション#6 有島武郎旧邸
艾沢詳子〈夏のオライオン―from part of Earth〉展
札幌/芸術の森美術館 吉崎元章
有島武郎旧邸 艾沢詳子展
有島武郎旧邸 艾沢詳子展
有島武郎旧邸 艾沢詳子展
有島武郎旧邸 艾沢詳子展
有島武郎旧邸 艾沢詳子展
有島武郎旧邸 艾沢詳子展
 札幌芸術の森内にある有島武郎旧邸で、現在、艾沢詳子(よもぎざわ・しょうこ) のインスタレーション作品を展示している。これまでに5回にわたって芸術の森美術館の中庭や前庭で行なってきたインスタレーション・シリーズの一環である。(ちなみにこれまでの作家は、国安孝昌、杉浦康益、山谷圭司、上遠野敏、ルイジ・マイノルフィ)
 札幌芸術の森には、芸術の森美術館のほか、美術、工芸、音楽、舞台芸術などさまざまな芸術分野の施設が点在しているが、そのなかにあって、大正期に建てられた有島武郎旧邸は異色な存在である。『生まれ出づる悩み』『カインの末裔』『或る女』などで知られる白樺派の小説家有島武郎が、東北帝国大学農科大学(現・北海道大学)の教員をしていた大正2年、札幌永住を決意し新築したのがこの邸宅である。有島自ら積極的に加わり設計した流行の先端を行く洋風住宅であったが、翌年には妻の結核発病により心ならずも有島は札幌を後にした。札幌の北区に残されたこの建物はその後、紆余曲折を経て東区に移築され、北大の職員や大学院寮として長く使われていた。そして、老朽化による取り壊しの話が持ち上がった時、保存を求める市民運動によって、札幌芸術の森に移築されたのである。現在、創建当時の姿に復元された建物の1階には有島武郎関係の資料が展示され、一般に公開されている。そして、歴史あるこの建物の2階が今回のインスタレーションの場となっている。
 制作を行なった艾沢詳子は、札幌を拠点に20年以上にわたって版画やドローイングを制作してきた作家である。モノトーンの画面のなかに物の怪が蠢いているような気配を漂わせる彼女の作品世界は、近年、平面だけではなく、立体作品にも展開されはじめた。もともと銅版画においてもコラグラフなどの技法によって凹凸のある画面をつくり出し、またかつて床に石膏等を用いてレリーフ状のドローイングを行なうなど、立体への展開は彼女にとって自然な流れだと言えるだろう。
 今回の展示にあたって彼女と早い時期から話し合ったのが、単なる展示空間の形からだけではなく、この場所のもつ意味と作品をいかに関わりをもたせるかということであった。彼女はかつて親しんだ有島文学を読み返し、記念館を訪ねたりするなかで、代表作『生まれ出づる悩み』に用いられている「参宿」にルビうちされた「オライオン」という言葉に特に心惹かれたという。オリオン座を意味するこの美しい響きの言葉は、今回の作品名にも反映されている。『生まれ出づる悩み』の主人公のモデルは、北海道岩内町で漁師のかたわら自然との交感のなかで描き続けた画家木田金次郎である。壮大で美しくも厳しい自然に抱かれた北海道に生きる作家としての共感も手伝って、澄んだ冬の夜空に輝く星座に象徴されるさまざまな思いが、この言葉を通して共鳴したのかもしれない。
 このインスタレーションは、冬に始まり、北海道の短い夏の終わりとともに終了する。冬の星座オリオン座は、この季節の移り変わりの中で次第に夜空からその姿を消していく。「夏のオライオン」という作品名には、肉眼では見えない夏のオリオン座に、「目に見えないけれども、確かに存在するもの」の表出を求めてきた艾沢の思いが重なって感じられる。
 2月12日から15日にかけて展示作業を行い、1年以上前から電話帳などの古紙を焦がしロウにひたしてつくり続けてきた夥しい数のパーツを、書斎、客間、来客用応接間であった空間に並べ組み上げていった。そこには確かに得体の知れない生命感が満ち、彼女のこれまでの平面の仕事がさらにリアルな存在感をもった世界として出現した。私は、そこにフジツボが密集した岩場に打ち寄せる波が一瞬にして凝結したかのような海のイメージを抱き、漁師を続けながら絵を描いた木田金次郎のことを思った。また、他の部屋では、小さき者がその群の中で個を主張しながら必死に生きている様を見た。彼女の作品を前にたたずみながら、そのイメージの広がりを楽しみつつ、有島文学に思いを馳せるのも一興だろう。
 この作品は写真ではなかなか伝わらないので、ぜひ足を運んでもらいたい。そして、古き時代の空気が漂うなかで生と死の交錯するドラマを感じてほしい。
会期と内容
●艾沢詳子〈夏のオライオン―from part of Earth〉
会期:2004年2月21日(土)〜8月31日(日)
休館日及び開館時間:
   2月21日〜3月31日 土日のみ開館 12:00〜17:00
   4月1日〜4月30日 月曜休館 9:45〜17:00
   5月1日〜5月31日 無休 9:45〜17:00
   6月1日〜8月31日 無休 9:45〜17:30
会場:札幌芸術の森 有島武郎旧邸
   札幌市南区芸術の森2丁目75
観覧料:無料
問い合わせ先:電話011-591-0090(芸術の森美術館)
アーティスト・トーク:6月19日(土)13:00〜 有島武郎旧邸にて
[よしざき もとあき]
札幌/吉崎元章|福島/木戸英行東京/増田玲
ページTOPartscapeTOP
DNP 大日本印刷 ©1996-2007 DAI NIPPON PRINTING Co., Ltd.
アートスケープ/artscapeは、大日本印刷株式会社が運営しています。
アートスケープ/artscapeは、大日本印刷株式会社の登録商標です。
artscape is the registered trademark of DAI NIPPON PRINTING Co., Ltd.
Internet Explorer5.0以上、Netscape4.7以上で快適にご利用いただけます。