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学芸員レポート
豊田/能勢陽子|福岡/山口洋三
福岡アジア美術トリエンナーレ/「違和感を飛び超える術! 藤浩志展」
福岡/福岡市美術館 山口洋三 
違和感を飛び超える術!
違和感を飛び超える術!
P.N.G.
紙芝居
上2点: 《違和感を飛び超える術!》 今回の新作
中: 《P.N.G.》 パプアニューギニア滞在時に制作した、彼の原点と言える作品
下: 久々に上演された「紙芝居」! 出口敦・九州大助教授との対談の席上にて
 今年、「トリエンナーレ」と言えば多くの人にとっては「横浜」のことを指すのかもしれないが、福岡では「福岡アジア美術トリエンナーレ」(通称福岡トリエンナーレ、FTと略記)のことをいう。FTの前身である「アジア美術展」は私の所属する福岡市美術館にて、1980年から4、5年おきに4回行なわれ、1999年の福岡アジア美術館開館以後は、舞台も名称も変更となって、今年3回目(FT3)を迎える。前回、前々回のFTは3月頃に行なわれていたが、福岡では他のアジア関係のイベントが9月頃に集中することもあって、今回は9月17日より約2カ月間の開催となった。しかし一方、競合する第2回横浜トリエンナーレも、本来の開催年から延期されたため、同時期に2つの国際展が国内でかち合うこととなったわけである。
 私自身は、福岡市美術館勤務ではあるが、今回のFT3にて日本作家選考のための作家ノミネートを行なう「協力キュレーター」としてお手伝いをすることとなり、昨年から国内作家の調査を続けてきた。選考委員会にて、10人程度のノミネート作家の中から、最終的に4人が選出され、彼(女)らはすでに作品制作などの準備に取りかかっている。その4人とは、山口啓介(1962年生まれ、兵庫/東京在住)、塩田千春(1972年生まれ、ベルリン/大阪在住)、伊藤隆介(1963年生まれ、札幌在住)、角孝政(1968年生まれ、福岡在住)である。硬派な絵画、インスタレーション作品から、サブカルチャーからの影響を源泉とした映像、立体までと、結果的にバラエティに富んだ選考となったことは、今回の本展のテーマ「多重世界」をそのまま描き出すことにつながるにちがいない。FTホームページにもあるとおり、今回は前回のFT2の手作り感の溢れる静謐な雰囲気と異なり、バラエティに富み、都市的、未来的な印象が全面にでる展覧会となりそうである。経過、展覧会内容については、また本コーナーでお伝えしたい。
 さて、それと並行して私が企画準備を進め、先日好評のうちに約3カ月間の会期を終了したのが、当館で開催された「違和感を飛び超える術! 藤浩志展」であった。本コーナーでも何度か登場している作家なのでご存じの方もいらっしゃるだろう。通算100以上の国内外地域で開催されたおもちゃの物々交換イベント「かえっこ」で評判を集めてきたが、本格的な新作インスタレーション作品の発表は本当に久しぶり。藤氏本人が集め続けた廃品コレクションなどで作り上げた飛行機型のオブジェ「cross?」45体と映像作品とで構成された「違和感を飛び超える術!」は、今までのワークショップなどで見せてきた「システムとしての表現」(藤流にいうと「OS<オペレーションシステム>的表現)を実際に機能させるプレゼンテーション的な位置づけではなく、そうした彼の活動の背後にある作家としてのステートメントが前面に押し出された展示となった。彼の表現の根源は、日常生活の中で(ゴミ問題から都市開発まで)常に感じ続ける私的な「もやもやとした違和感」である。それを乗り越え、新しい価値観を生み出すために周囲を変え、自分を変えることをいとわない作家の姿こそ、この展覧会で表明されたように思えるのだ。詳しくは、わずか56頁の中に「劇団座・カルマ」、幻の「コイノボリ」から本展展示風景、そしてアートNPOであるremoの雨森信さんの多大な協力の下に構成されたインタビューを掲載し、さらにマニアックな作品チャート図も勢い余って載せてしまった図録を参照いただきたい。ここで急いで指摘したいのは、実はこの図録をもってしても随分取りこぼしがあることである。まず、イメージの問題。イメージが否定された1970年代の後、ニューウェーブと呼ばれる世代が登場した1980年代は、イメージ復活の時代と呼ばれることがある。しかし藤氏のイメージは、コイノボリ、犬(ヤセ犬)、カエルなど、愛らしくわかりやすいものが多い。「自分の中からは何もでてこない」と彼が認識したところから生まれたこれらの「イメージ」は、特定の意味を持つものではなく、人々の意識や社会のシステムの中で流通、浸透しやすくするための方便として使われてきた節がある。つまりイメージであって、イメージではない。それから、そもそも図録などには収録できない表現要素で、特に初期の藤浩志を考えるうえで重要なのがパフォーマンスと映像である。今回の新作の映像の中にもあったが、実は彼は相当早い時期から実験的な映像作品を作り、また作品の中で映像を用いてきた。また劇団出身でもある藤氏はパフォーマンスによる表現も行なってきた。考えようによっては「かえっこ」もパフォーマンスと言えなくもない(オークションなんか特に……)。日本舞踊を学び、張りのある歌声の持ち主でもある藤浩志氏は、まさに全身芸術家? 今年はアルテ・ポーヴェラやモノ派など1970年代美術の評価が進むと思われるが、近い将来には1980年代の回顧が行われるだろう。その時、藤浩志は無視できない存在になるに違いない、と確信した展覧会であった。

会期と会場
第3回福岡アジア美術トリエンナーレ2005
テーマ:多重世界 Parallel Realities:Asian Art Now
会期:2005年9月17日(土)〜11月27日(日)
休館:水曜日
会場:福岡アジア美術館、及び周辺地域
福岡市博多区下川端町3-1 リバレインセンタービル7・8F Tel. 092-263-1100
参加国・地域:パキスタン、インド、スリランカ、ネパール、ブータン、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、マレーシア、シンガポール、ラオス、カンボジア、ベトナム、インドネシア、ブルネイ、フィリピン、モンゴル、中国、台湾、韓国、日本
参加アーティスト:50人・組

学芸員レポート
 去る3月20日、福岡西方沖地震が発生。福岡地方は地震警戒地域でもなかったし、熊本や長崎、鹿児島と違って活火山もないため、地震とは無縁、と、市民の多くは思っていた。震度6程度は、最近の新潟や、10年前の阪神・淡路に比較すれば小さな規模には違いない。幸い、当美術館の被害は甚大なものではなかった。一部報道で、ジョージ・シーガル「次の出発」の破損が伝えられたが、損害そのものは軽微。台座に彫刻を固定する金具が彫刻本体からはずれたことが転倒の原因。しかしそれ以外に本体への損傷は今のところ見いだされてはいない。4月20日にもまた大きな余震があり、なかなか落ち着かない。玄界島の被害が大きく取り上げられているが、福岡市内中心部の大名地区も、マンションや商業ビルなどに損傷がでている。マンションやアパートの壁が傾いたり、割れたりなど、生活に支障をきたす被害も多い。油断大敵といってしまえば簡単だが、スマトラの津波も含め、こう集中的に災難が起きることはさすがに予感できない。台風や大雨はともかく地震はほんとうに逃げることができないし、どこでいつ起こるかもつかめない。みなさんくれぐれも、出口の確保と家具などの転倒落下防止への対策は怠りなく(これしかできませんから)。

プロフィール
1994年より福岡市美術館学芸員。主に現代美術関係の企画展を担当。最近の企画展は、「藤浩志展」の他に、「都市風景のメカニズム 伊奈英次・金村修の写真」(2003)、「福・北 美術往来」(2003、北九州市立美術館と共同企画)など。
[やまぐち ようぞう]
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